第6話:出会いと別れ
グロテスクと捉えかねない描写が含まれています。なるべく抑え気味に描写したつもりですが、ご注意ください。
「今のを避けるとは、やるじゃないか。それともただの偶然かい?」
拡声器越しで聞いているような女性の声。
その声を、横隊で後退しながら聞く大和。
「まさかあいつ、喋るのか⁉」
「そろそろそうやって驚かれるのも飽きたな。何か別のやつはないのか?」
「おい、お前!何で俺たちに敵対する?お前たちの目的は何だ!」
「その質問も聞き飽きた。どうせ説明したところでお前たちは信じない。説明するだけ無駄なんだよっ」
そう言うや否や、発砲するティーガーⅠ。その砲弾はT20の砲塔正面をいともたやすく貫通した。
「きゃああぁぁぁ!」
車内から聞こえる悲鳴。遅れてハッチが開き、恐怖に襲われた搭乗員が這う這うの体で逃げていく。
「おい、待て!外に出るな!」
大和が制止をかけるも遅かった。ティーガーⅠの同軸機銃が逃げる搭乗員目掛けて乱雑に撃つ。
「あ゛っ…」
うつ伏せに倒れ、動かなくなった。
「あははっ!人間ってなんて脆いのかしらねぇ。身体的にも、精神的にも」
「くそっ!イージーエイト、二手に分かれてエンジンを狙う!こっちは右から、そっちは左からだ。行くぞっ!」
炎羅がアクセルを踏み、前進するヘルキャット。
しかし、M4A3E8シャーマンからの応答はなく、車体が動くこともなかった。
「おい、イージーエイト⁉応答しろ!」
「イージーエイトから通信来たわ!」
恵理がヘッドフォンを通じて聞く。
「…!ちょっと!落ち着きなさい。あなたたちがいないとっ……」
一方的に通信を切られたようだ。
「…大和、イージーエイトは戦意喪失。投降するそうよ」
「何だと⁉」
耐え切れずまたも砲塔から顔を出す大和。
M4A3E8シャーマンのハッチが開き、両手をあげた味方が出てくる。
「おい!何で投降する!」
大和から目を逸らすように下を向く搭乗員たち。
「あっははははっ!ヘルキャットが動き出したから何をしてくるのかと思ったら…はははっ、仲間割れ?面白い、面白いわ!」
そして両手をあげている搭乗員に車体を向ける。
「…ただ、私は脆いものは嫌いなの」
ティーガーの同軸機銃と車載機銃が火を噴く。搭乗員がいた場所は血溜まりが広がっていた。
「さて、後はあなたたちだけね、ヘルキャット。あなたは少しは楽しませてくれそうね」
大和は命の危機を改めて感じていた。炎羅はハンドルを何とか握っていたものの、その手は明らかに震えている。沙織や恵理も青ざめた顔をしており、実に至っては口を手で押さえ、苦しそうにしている。
勝負は目に見えていた。
「炎羅!前進続けろ!沙織、砲塔旋回!車体下部を狙え!」
『りょ、了解!』
ヘルキャットがティーガーⅠの後ろを取らんと前進する。だがティーガーⅠはその場で超信地旋回をし、後ろを取らせない。
「撃て!」
重なる砲声。一つの金属音。
ヘルキャットの放った砲弾は空を切り、ティーガーの放った砲弾はヘルキャットをしっかりと捉え、防盾はおろか砲塔正面を貫通していた。もちろんその先には搭乗員がいるのだが…
「みのりいいぃぃぃ!」
口を手で押さえ、前のめりになっていたのが不幸だった。砲塔正面を貫通した砲弾は、彼女の頭に直撃。次の瞬間には彼女の姿は様変わりしていた。車内に飛び散る血や肉片が、彼女の容体を表している。
「ひっ、きゃああぁぁぁ!」
顔に付いた血に悲鳴を上げる沙織。
「くそっ!くそぉう!炎羅、前進止めるなよ!装填手は俺がやるっ」
なおも止まらないヘルキャット。ティーガーⅠの放った砲弾は実より後ろに行くことはなかった。
「まだやれるのか。面白い!」
「あなた、任務を忘れたとは言わせないわよ」
拡声器越しのような、凛とした声。しかし、その声はティーガーⅠのものとは違っていた。
「…遅かったわね。もう少し遅かったら殺っちゃうとこだったわよ」
戦闘行為をやめ、声の主と会話をするティーガーⅠ。
「もしそうしたら…わかってるわよね?」
「はいはい、わかってますよ~。ヘルキャット、運がよかったわね」
遠ざかる一つエンジン音と近づいてくる無数のエンジン音。
「私たちは危害を加えるために来たわけじゃないわ。顔を出しなさい」
ティーガーⅠとは違う、拡声器越しのようなの女性の声。その声に従い大和が顔を出そうとするのを沙織が引き止める。
「行っちゃだめ…。死んじゃう…殺されちゃうわよぉ…」
いつもの沙織とは明らかに違い、見るからに怯えていた。目は潤んでいるようにも見える。
「…危害を加えないと言っている。それに、殺すならさっきのティーガーにもできたはずだ。奴らは対話を求めてる」
布を実の首の根本からかけながら言い、顔をぬぐった後で大和は顔を出した。
「あら、てっきり出てこないかと思ったわ」
「ああ、そうかい。で、あんたらは何しに来たんだ?」
大和は毅然とした態度をとっていたが、眼前の光景を信じられずにいた。
そこには、キングティーガーとも言われるティーガーⅡを始め、パンター戦車2両、ヤークトパンター4両の計7両が楔形陣、別名パンツァー・カイルの形で鎮座していた。
「それは彼女が話してくれるわ。そうでしょ、部隊長」
キングティーガーのキューポラが開き、中から一人の女性が現れる。
「久しぶりね、大和」
「姉ちゃ…いや、柳田社…何しに来た、裏切者が」
「私も嫌われたものね。…まあいいわ。今回は顔見せに来ただけよ」
「こっちの部隊を殺しておいて顔見せだと?ふざけるな!」
「勘違いをしないでほしいわね。市街地の部隊は元からいた部隊だし、さっきのティーガーは私の部隊の所属じゃないわ」
「だが、あいつ等のせいで仲間は死んだ。実も、だ」
実と聞いて、社が目を見開いたように見えた。が、それは一瞬ものであり、社の口調も変わらなかった。
「戦場に来る時点でそういう覚悟をしてるんじゃないのかしら?ま、初出撃だから仕方ないわねぇ。あ、そうそう。そろそろ連絡が来るとは思うけど、基地に戻った方がいいわよ。それじゃあまた、あなたが生きてれば会いましょ」
彼女の部隊7両が反転し、去っていく。
「ま、待て!おい!」
「大和!小隊長から通信!」
大和達の声に耳を傾けずに車内に戻る社。
「…これで枷が一つ消えた」
「代わりに増えたものもあるんじゃなくて?」
社のつぶやきにキングティーガーが口を出す。
「…余計なお世話よ」
「あなたにもまだ人の心はあるのね。意外だわ」
「どういう意味?それ」
「そのまんまの意味よ」
社を乗せたキングティーガー以下7両の戦車部隊は北へ向かっていった。
読まれた方の中にはグロテスクと思われるシーンがいくつかあったと思いますが、これより過激な描写は個人的に避けたいので今後同程度の描写はあっても、これより過激になることはないと思います(絶対とは言い切れません)。
第0話以来の社さん登場です。彼女サイドの戦闘描写も今後出したいな~と思ってます。
今回、激戦(?)を書きましたが、個人的には上手く書けたと思っています。意外と戦車の動きよりも人の動作のほうが難しかったというのは秘密です…。
次回は……現状何か書くとネタバレにしかならないのでやめときますw
※今回までに犠牲者が多数出ていますが、「死」にかかわることをここではあまり出さないようにしています(本編の息抜きのような感じにしたいので)
最後に、このシリーズを通して言えることですが、戦車等兵器(WW2~2015年にかけてのもの)が登場します。が、こちらの世界の史実と違う点があるかもしれません。その場合は、この物語の世界はこういうことなんだと思ってください。お願いします!