第4話:駆け引き
香港にある人類上陸用簡易基地。現在そこでは敵戦車との激しい戦闘が繰り広げられていた。
「RPG急げ!」
「砲撃来るぞ!」
轟音とともに弾け飛ぶ人影。
「くそっ!奏龍はまだか!」
塹壕に飛び込み愚痴をこぼす一人の兵士。
「そろそろ来てもおかしくはないが、こっちがやられるのが早いか、来るのが早いか…」
塹壕にいたもう一人の兵士が答える。
再び轟音。塹壕に降りかかる土砂。
「もうもたんぞ!」
降りかかる土砂を振り払い兵士が塹壕から顔をのぞかせる。
直後、敵戦車集団に海上から金属の塊がのしかかり、敵戦車をスクラップへと変える。
「やっと来たか」
半壊した簡易基地にたった今、奏龍が到着した。
時間は少し遡り、台湾軍港。真理亜の乗った強襲揚陸艦を見送った登明のもとに、一人の兵士が駆け寄る。
「準備完了しました。加藤登明少佐」
「ん、了解。じゃあ、攻撃開始って打電しといて」
「了解です。しかし、いいんですか?下手をすれば我々は反撃のための要所を失うことになりかねませんが…」
ため息ひとつついてから返事をする登明。
「私は上が動くのを待つほど暇じゃないし、我慢強くないからね」
「…?」
「こっちが動いて、相手を動かすのさ」
再び時を戻し、香港簡易基地。数隻の奏龍型潜水強襲揚陸艦から物資を下ろし、台湾の軍港へと戻る奏龍らを見送った小隊長が簡易基地防衛隊長と話している。
「しかしまたこっぴどくやられたもんだな」
「ははは、確かにな。…しかし奴ら、何か変だったぞ」
「ん?どういうことだ」
「いや、いつもと違って連携がなってなかったというか、具体的な目標が定まっていないようだった感じだったような…」
「目標はこの場所の破壊だろ」
「それはそうなんだが、本当に破壊が目的なら固まって行動しないだろうし…。あぁそうだ、台湾から本隊が出撃した入電を受けたすぐ後に奴らが来たんだ。これは考えすぎかもしれんが、もしかしたら奴らはこの基地を一時的に使用不能にして、作戦を延期させようとしたかったんじゃないのか?」
「…もしそれが目的だとして、それで奴らに一体何の利点があるんだ?」
「だよな。…やっぱり考えすぎだな」
「先の戦闘で疲れてるんだよ。さっさと休め。後は俺たちがやる」
「ありがとよ。後は頼む」
「任せときな」
小隊長は自らの戦車に乗り込み無線機のマイクをつかんで叫んだ。
「これより広州への突破口を開く!全車前進!」
「ま、待ってください!」
新入りであろう衛生兵の一人が、動き出そうとしていた戦車小隊を引き止める。
「ん、何だ?」
「負傷者の救護と戦死者の仮の遺体安置所までの運搬がまだ終わっていないので…」
「手伝え、と?」
「はい…」
「…負傷者の救護は防衛隊に委任してる。俺たちがやることじゃない」
「で、ですが!防衛隊の人数ではとても十分といえる人数ではありません!」
「いいか!当初の作戦より約半日遅れている今、これ以上の遅延は許されない。本作戦の目的は何だ?負傷者の救護か?違う!難民の救助だ!必要最低限の人員を使わず全部隊が負傷者の救助に当たっては救える命も救えなくなる。難民が全滅ずれば本末転倒だろう!」
ひるむ衛生兵を前にして冷静を取り戻す小隊長。
「もう一つ、戦死者の運搬と言ったな」
「っは、はい!」
「戦場で戦死者をしょって歩く馬鹿がいると思うか?」
小隊長は衛生兵にそう言った後、再びマイクをつかんで言った。
「全車前進」
ゆっくりと、重みのある言葉だった。
エンジンを勢いよく吹かせて各戦車が縦隊で進んでいく。
「小隊長、ピリピリしてたわね」
その隊列のやや後方のヘルキャット。大和を車長とするその車内で、実がつぶやく。
「あせってんだろ。隊長も、上層部も。」
会話は途切れ途切れだった。
「…予定から半日も遅れて、難民は全滅でしたってなったら、どうするんだろうな」
炎羅が不意につぶやく。
「…どうするって、帰るしかないでしょ。日本に」
恵理が答える。
それ以降しばらくエンジンの音だけが響いていた。
『第六戦車分隊、次の交差点を左折。その後は広州に向かって北東方面に進軍せよ』
小隊長車から無線が入る。
「了解。恵理、後続車に通信頼む」
「わかったわ」
交差点を左折するヘルキャット。それに続く第六戦車分隊所属車両。
目的地、広州市南沙区まであと約80km。
何とか書けました。お待たせしました!
皆焦ってます。だけど焦りは禁物。わかっているけどできないものですよね
さて、活動報告のほうでも言っていたのですが、学校に出す用の小説を書く関係でしばらく投稿が遅れます。すみません…
最後に、このシリーズを通して言えることですが、戦車等兵器(WW2~2015年にかけてのもの)が登場します。が、こちらの世界の史実と違う点があるかもしれません。その場合は、この物語の世界はこういうことなんだと思ってください。お願いします!