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第18話:生存理由

「そんな…!」

「なぜです!なぜ関係のない人の命と、私達とを天秤にかけなければいけないのですか!」

大和の反論に、艦長は申し訳なさそうに話す。

「その意見はごもっともだ。だが、向こうから提示された条件をのまなければ、君達の生死は保証できないと、伝えられたらしい」

「だったら…」

その時、轟音が響き、街の教会であろう建物が音を立てて崩れる。街の生存者からどよめきが広がる。

「…どうやら時間は残っていないらしいな」

「……くそっ」

そう呟いて、大和は駆逐艦へ向かう。

「いくぞ、帰還だ」

そういった大和の声は震えているかのようにも聞こえた。大和の後を炎羅、恵理が続く。しかし、沙織は動かなかった。

「沙織さん、行きましょう」

ヘルキャットが後ろから声をかける。

「でも…」

「私達の命と彼らの命、どちらが重要かは私にはわかりません。でも、お兄様は駆逐艦に乗った。私達の車長がそう判断したなら従うまでです」

「それで…いいの?それじゃあ、まるで操り人形のようじゃない」

「人が集団で行動するためには、規律が必要です。上官の命に背くことは罪。時には操り人形になった方が楽だと思います。少なくとも人の生死に関しては。そうしないと狂ってしまうと思いますよ」

そう言い残して、ヘルキャットは先に行ってしまう。

「待って!」

走って追いつく沙織。

「どうしてそんなことが言えるの?」

「先ほどの言葉は集団行動の基本を述べただけです。…ただ、個人的には、人でも戦車でもない私の存在意義が、お兄様の手足となることしかないからです。お兄様を失えば、私はただのしゃべる鉄くずだから…お兄様、上官に従うしかないのです」

沙織が駆逐艦に来たことを確認した艦長は右手を上げた。銃を持つ乗員が構える。街の生存者がざわめく。

「沙織さん、私に乗ってください。なるべく奥の方に」

ヘルキャットにそう言われ、沙織は恵理の席、通信手席に座る。

艦長はそれまで待っていた。そのままヘルキャットが完全に乗り込むのを見届け、艦長は手を振り下ろした。

沙織の耳に、金切り声がわずかに聞こえる。

「ごめんなさい」

意識していったわけではなかったその言葉に対して、ヘルキャットは聞こえないふりをした。


「処理に手間取っているため、出航は予定より遅くなる」

乗員からその連絡を受け取った大和達。彼らには何の処理かなど聞くまでもなかった。

黙る彼らに対して声をかけたのは艦長だった。

「君たち」

その声に反応し、敬礼をする大和達。

「いや、楽にしてもらって構わない。君たちに今回のことであまり自分を責めないでほしくてな」

「彼らの命を捨てたのは私達です。それは変わりません」

「いいや、それは違う」

大和の言葉に間を置かずに返す艦長。

「君たちは生きる道を選んだだけだ。彼らを殺めたのは、あくまで私たち大人だ。君たちの立場上肩身が狭いのはわかるが、あまり自らを責めることはやめてくれ。君たちはまだ若い」

士官帽をかぶり直す艦長。

「そう、汚れ仕事は大人がやればいい。若者を使うのは間違っている」

そう言って艦長は立ち去っていった。


重い空気の中の航海を終え、学園に帰還した大和らを待っていたのは真理亜と、審問官らだった。

真理亜を見るや怒りをあらわにする大和。

「長旅ご苦労、と言いたいところだが、すでに知っている通り、君たちが敵対勢力ではないかとの疑いの声が上がっている」

真理亜がいかにも申し訳なさそうに言った。

「しばらくは軟禁状態になるが、次の作戦に参加できるよう努力しよう」

そう言って、真理亜は去っていった。

大和らは憤りを感じるも、審問官に連行されるしかなかった。


「くそっ、なんや、あの言い方は!」

炎羅が吐き捨てるように言った。

学園の空き教室。以前と同じ場所に軟禁された大和たちは、一人ずつ審問されることとなり、その後の議論に結果を待っているところだ。

「明らかに敵だってことを知ってる私たちを逆なでしてたわよね」

怒りをあらわにしている炎羅と恵理とは対照的に、沙織はひどく落ち込んでいた。

「沙織、どうした?」

大和が尋ねる。

「あ…いや、何でもないよ」

「何でもないなら、あんな顔しないだろ。言ってみろよ」

「一人で抱え込んだって何にもならんぞ」

炎羅が口を挟む。それが後押しになったのか、口を開く沙織。

「あの時、私たちと引き換えに命を落とした人たちのことを考えてたの。艦長さんは、私たちが殺したわけじゃないって言ってくれたけど…でも、でもさ…」

「俺だって、彼らを殺したくはなかった。…だけど、俺達にはやらなきゃいけないことがある。そうだろ?」

「だけど、あの人たちにもあったはずよ!あの人たちが死んでいい理由にはならないわ」

目を潤ませながらもはっきりとした声で話す沙織。

「じゃあ、あの時死んでもよかったの?」

唐突に恵理が放った言葉で、場に静けさが訪れた。

「あの時死んで、私たちの戦争を終わらせる役目を蔑ろにしていいの?違うでしょ?私たちがやらなきゃ彼らみたいな人はもっと増えるわ。彼らの分まで生きて、私たちが戦争を終わらせるのよ。そして二度と、彼らのような犠牲者を出さないようにするの」

恵理の表情は凛々しかった。

とその時、空き教室に真理亜が入ってきた。

「君たちの処遇が決まった。誰か一人、護衛任務に従事することを条件として、戦線に復帰することが認められた」

何とか8月中に出せました。

夏休み中なので、1か月1話ペースは、9月まで維持できそうです(維持できるとは言ってない)。

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