第0話:約束された敗北
「社、こっちへおいで」
呼ばれた少女は振り向き女性のもとへとかけてゆく。
「社、私のかわいい娘」
「?…どうしたの?お母さん」
「あなたは生きるのよ。たとえ世界が牙を剥いても…」
「おかあ…さ…ん?」
「どうかしたの?」
鋼鉄の部屋に一人の少女。
「何でもないわ。昔を思い出してただけよ」
部屋がガタンと揺れる。よく聞くと、エンジン音がしていた。
「そう。でも、思い出すのはもう止め。もうじき目的地よ」
「わかったわ。ポルシェティーガー」
そう言って、彼女はヘルメットをかぶる。
「それでいいの。柳田社部隊長」
「四号車、何か見えるか?」
『いえ、まだ何も見えません』
『…!こちら三号車。敵パンター、ティーガー各1両を発見!』
「了解。各車戦闘用意!」
『了解!』
男性が無線を片手に指示を伝え、キューポラを開いて外を見る。
まだ肌寒く、薄暗い夜明け前。丘の上に停車しているこの戦車、一○式戦車は万全の戦闘準備ができていた…はずだった。
『四号車、敵を視界内に捉えました』
『三号車、追跡中』
『二号車、射程圏内に敵補足!撃ちます!』
「待て!」
制止は振り切られた。一台の一○式戦車が敵パンター中戦車に向かって狙いを定め、主砲を発射…
『ぎゃああぁぁぁ……』
通信が途中で途切れる。
「丘の向こうだ!まだ敵がいる!」
『こちら三号車!向かいの丘に敵ヤークトパンター4両、ヤークトティーガー1両発見!』
『四号車捕捉されま……』
通信が途切れた。
『三号車、敵ポルシェティーガー発見!例の中隊で……』
「…やはり彼女の部隊か…」
「車長、どうしますか?」
「仕方ない。撤た…いや、ティーガーが来るぞ!」
「あっけないわね。人間って」
「当り前よ。8対4だもの。最初からあの部隊は壊滅する運命だったのよ」
「そうね。…で、次はどこへ?」
「一旦戻りましょう。次はあなたも前線だから」
「わかったわ。そうなると、あなたは私から降りることになるけど?」
「ええ。次の車両は、《王虎》なのよ」
「…あの子、私は好きになれないわ。何か苦手」
「どんな性格の子でも構わないわ。生き残るためだもの。世界中が敵でも…」
読んだ方の大半(というか多分全員)が「説明はよ!」と思っていると思います(私もそうなると確信してます)。こうなったあらすじ的な説明が第1話冒頭で出てくるので少々お待ちください、すみません。
最後に、このシリーズを通して言えることですが、戦車等兵器(WW2~2015年にかけてのもの)が登場します。が、こちらの世界の史実と違う点があるかもしれません。その場合は、この物語の世界はこういうことなんだと思ってください。お願いします!