第9話:出会いは必然
日本軍査問室。真理亜は取り調べを受けていた。
「ヘルキャットの次期装填手、勝手に取り換えたそうだな」
「さらにはその人員の詳細を報告しないとは、一体どういうことかね?」
「…この部屋のこの場所に立つのは、果たして何度目でしたか」
少しも緊張の様子が見えない真理亜。
「ヘルキャット次期装填手の予定だった生徒は他に割り当てました。ヘルキャットには既に乗員がいたので」
「どういう意味だね?」
「知らないとは言わせませんよ。卒業文集を閲覧制限に置いたあなた方には」
身じろぎをする査問官。
「つまりは、そういうわけです」
大和の頭の中には2つの疑問があった。一つ目は、公園での真理亜の言葉。そしてもう一つは、新しい装填手。真理亜はなぜ、『生徒』と呼んだのか。
「しっかし、ヒントがなさすぎるわ。何から調べたらええんか…」
学園内図書室、閲覧制限の区画。
学園内の書物には書かれている内容を判断し、閲覧可能、閲覧制限、閲覧禁止の三つの部類に分かれている。その中の閲覧制限の部類は、閲覧自体は可能だが、本を借り、持ち出すことは不可能のものだ。
「真理亜教官はなんて言っていたんだっけ?」
「え~っと、確か、『亡骸』に乗っているとかどうとか…」
「乗っている、ってことは私たちの搭乗する戦車についてじゃない?」
「お、確かに。勘がええな、恵理は」
「…あ、ありがと」
「お、おう」
どことなく気まずいような、そんな雰囲気となる4人。
「…とりあえず、戦車関連の本に絞ってみるか。炎羅、手伝ってくれ」
「おうよ」
「沙織と恵理は気になるところがないか本を見てほしい」
「わかったわ」
「…ええ」
二人からちょうど死角となる本棚へ行く大和と炎羅。
「俺、なんか変なこと言ったか?」
「いや、特には…」
「…わからんなぁ」
「まあ、今は本を探そう」
「せやな」
「どうしたの?さっき」
「…え?」
「あ、もしかして、炎羅のこと…好きなの?」
「そ、そんなことないわよ!そんなこと…」
「へぇ~、そうなの。まあ、いいんじゃないの?似合ってるわよ」
「ちょっ、やめてよ、もう」
数時間後。
「あー疲れた!」
「いまいちピンとくるものはないな」
「う~ん」
手を投げ出して机に伏せる炎羅。
「ん?」
「どうした?炎羅」
「いや、あれ」
指をさす炎羅。その先には一冊の本。背表紙には『第一回卒業生卒業文集』とあった。
「あれ、ここって閲覧制限のとこよね?卒業文集は閲覧自由のとこにあるんじゃないの?」
「…ちょっと調べてみよう」
本棚からその本を取り出し、開いてみる。そこには見知った名前が。
「真理亜教官ってここの卒業生なのね」
真理亜の卒業文。4人は真理亜が大和に伝えたかった真意を知った。
学園内、ガレージ。時折、整備員に交じって戦車の整備に来る生徒がちらほら見える中、大和達は自身の乗り込む戦車、M18ヘルキャットを前に何やら準備を始めている。
「これでほんとに成功するんか?」
工具や注射器を抱えたまま炎羅がつぶやく。
「やらなきゃ何にもなんないでしょっとと、もうちょっとゆっくり渡してくれる?」
「あー、すまん」
砲弾を受け取る沙織と、渡す大和。
「こっちは準備完了よ。そっちは?」
「こっちもオッケーよ」
通信手のハッチから顔を出す恵理。
「よし、じゃあ始めるか」
場所は変わってモスクワ。ちらほらと雪が降る中、社率いる部隊は物資の補給のために立ち寄っていた。
「日本の動きはどう?」
キングティーガーに尋ねる社。
「少佐からの情報だとしばらく大きな作戦はないみたい」
「じゃあ、中国方面はKV-2の部隊に任て私たちは予定通り行動しましょ」
「じゃあこのままカレーに向かうのね」
「ええ」
物資を積み終え、キングティーガーに向き直る社。
「イギリスを落とすわよ」
「よし、後はガソリンを入れて…人の血液を入れる」
大和はメモを見ながら確認する。
「俺の血でいいんだな?」
「他に適任がいるの?」
「あなたがこの戦車の車長なのよ」
ガソリンを入れながらうなずく炎羅と、声をかける沙織と恵理。
「とりあえず…」
大和が言った直後、エンジンがかかった。
「おい、誰や?」
「いや、誰も乗ってないはず……」
しかし、ヘルキャットはエンジンを勢いよくふかしている。
「おいそこ、エンジンを切れ!」
整備員の一人が怒鳴っている。その時だった。砲塔が回り、大和へ前面を向ける。皆、半歩下がった。
「おはようございます、お兄様」
前回の後書きの通り、今回で「難民救出作戦編」終了できました!
KV-2の部隊の登場はもう少し先になると思います(…多分)。
次回のことを少しだけ。舞台はヨーロッパ、社さん率いるティーガーⅡ部隊の行き先はフランスの都市カレー。察しがつく人はわかるかと思いますが、伏せておきますw
カレーと言えば英仏海峡トンネルがありますが、もちろん侵入を防ぐ目的で閉鎖されており、通行不可能です。
次回から敵味方双方の戦車も増やしていく予定なので投稿が遅くならないよう頑張ります!
最後に、このシリーズを通して言えることですが、戦車等兵器(WW2~2015年にかけてのもの)が登場します。が、こちらの世界の史実と違う点があるかもしれません。その場合は、この物語の世界はこういうことなんだと思ってください。お願いします!




