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この世界の救世主  作者: くろにゃん
難民救出作戦編
10/21

第8話:そこにある現実

職員室のドアは二か所あった。そのどちらも見える場所に机がある真理亜は、そのドアが開くのを待っていた。時折ドアが開くものの、目的の人物ではないとわかると少しもうつむく様子もなく、引き続き、ただひたすら待った。

真理亜は大和に対して何かしらの親近感を感じていたのかもしれない。

昔、彼女にとって初陣だったイタリア戦線で起きた、小隊の全滅時に感じた絶望感、生き残ってしまったという後悔、小隊長だったにもかかわらず役割を果たせなかった責任感……。

そんな感情に飲み込まれ、自信を失っていた彼女に手を差し伸べた一人の同期の仲間。

その仲間は、今はいない。彼女は、もう、いない。もう…こちらには。

「失礼します」

ドアを開けた一人の生徒。その存在に真理亜は気づき、声をかけた。

「やっと来たか。」

「話とは何ですか?」

「…まず、公的なものからいこうか。一つ目に第六戦車分隊についてだが、ひとまずは解隊、次の作戦時に編入される予定だ」

「了解です」

まったくと言っていいほど元気のかけらもない。そんな彼に真理亜は昔の自分を重ねていた。

「二つ目、ヘルキャットの装填手だが、この生徒が務めることになる」

そういって、一枚の用紙を大和に渡す。

「後で会ってくるといい。もちろん、乗員全員でな」

返事はなかった。だが、真理亜は指摘しなかった。

「…さて、ここからは私的な用事だ。つきあえ」

「……」

「沈黙は肯定と捉えるぞ」

そう言って職員室を出る真理亜。大和は何も言わずについてきた。


「ここは?」

真理亜が立ち止まった場所、そこには純白の塔を中心として背丈の低い花畑が広がっていた。花畑の中には石碑が並んでおり、何かが刻み込まれているらしい。その石碑の前で深々と手を合わせる人もいた。

「ここはこの学園の生徒、卒業生の中で奴らとの戦いで亡くなった者への慰霊塔と、戦没者の刻銘碑のある公園だ。靖国の方が有名だから来るものは珍しいがな」

ふと真理亜の目線の方を向くと、台車に乗った真新しい刻銘碑と思われるものが運ばれていた。

「今回の作戦時に亡くなった者たちの刻銘碑だ。もちろん、お前の分隊員と妹の名前も刻まれている」

分隊員、妹…。大和は身を強ばらせ、何も言わなかった。

「お前の妹は…今のおまえの状態を見てどう思うだろうな」

ふと真理亜の言ったその言葉に、大和は胸を打たれた。

真理亜は振り返り、続ける。

「なにもお前だけじゃない。生き残った者は先に死んだ者の気持ちをよく考えるべきだ。誰かが命を捨ててまで守った者がその後何もしなかったら、そいつのために死んだ意味がない。…お前の分隊員や妹が、今のお前を見て、はたして成仏できるか?今のまま死んで、お前はあいつらに顔向けできるのか?」

「……」

真理亜は大和に背を向け、歩き始めた。数歩歩いたところ、ある刻銘碑の前で止まる。

「私はお前の姉とは違って優しく声掛けするのはできんのでな、言いたいことは伝えたぞ。後はお前次第だ」

そう言ってその刻銘碑に手を合わせる。

「…その石碑は?」

「これか?…これはな、私が初めて参加した作戦時の戦没者刻銘碑だよ。私の分隊員だった者の名も刻まれてる」

大和は何も返せなかった。

「私も似たようなものだったよ。…誰もが通る、避けれれないものだ……」

しばらく静寂があたりを包んだ。夕焼けに照らされた純白の慰霊塔が哀愁を帯びているように見える。

「さて、この辺りは夜には冷える。そろそろ私は戻るぞ。お前はどうする?」

「…もう少し、ここにいます。ちょうど、あの刻銘碑が設置されましたし」

大和の視線の先には先ほど台車に乗っていた刻銘碑が公園の一角においてある光景があった。

「そうか…あまり遅くならないようにな」

「はい」

来た道を戻る真理亜。ある程度のところまで行ったところで、思い出したように振り返り、大和へ言葉をかけた。

「学園の図書室、特に閲覧制限のところを調べるといい。お前たちは『亡骸』に乗っているからな」

大和は疑問に思ったが、真理亜はすでに公園を後にしていた。


「これで良かったの?」

「…仕方ないさ。あいつだけ特別ってわけにもいかないし」

次の日の夕刻、ミハエル学園からそう遠くない墓地。そこにある集団墓地へと足を運んだヘルキャット乗員四人は、一つの墓標の前にいた。学園犠牲者之墓と書かれたその墓には犠牲者の名前はおろか、骨一つさえない。

「でも……」

「でも、じゃないやろ。それがルールみたいなもんなんやから」

犠牲者の遺体は簡易基地で処理される。学園生でも、士官でも。感染症対策でもあったが、大抵は出撃の度に多くの者が犠牲になり、運搬に人員と資材が必要だからであった。

「あなたはどうするの?大和」

恵理が尋ねる。

「あいつは…実はもういない。だからこそ、残った俺たちがやらなきゃいけない。じゃないと……実の死が無駄になる」

そう言って、大和は三人の方を向く。

「私たちは、車長についていくわよ」

恵理の言葉にうなずく炎羅と沙織。

彼らが去った後の墓地には、ジニアの花が供えられていた。

前回今回までこんな感じの話が続くと言ったな。あれは嘘だ(すみません、次回まで続きます)。

順調にいけば、次回で「難民救出作戦編」が終わることになるかと。

今回ずっと書きたい部分が書けて満足だったりします。まあ、そのせいで一話分伸びてしまったのかな…


最後に、このシリーズを通して言えることですが、戦車等兵器(WW2~2015年にかけてのもの)が登場します。が、こちらの世界の史実と違う点があるかもしれません。その場合は、この物語の世界はこういうことなんだと思ってください。お願いします!

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