襲撃と劣勢と
俺たちが広場に戻ると山賊たちはもう視認できるレベルまで近づいていた。
「カレルさん!」
「おう、坊主にリイネスちゃん。すぐ来るぞ、気をつけろ!」
「はい!」
会話もそこそこに緊張感が張り詰める。
「皆のもの!迎撃開始じゃ!」
村長の声を合図に村のみんなが山賊に突っ込んでいった。
俺たちやカレルさんは防衛組なので村に残っている。
迎撃組は村の戦える人の約3分の2。防衛組は残りだ。
間もなく迎撃組の人たちと山賊の大軍がぶつかり、戦闘が始まった。
☆
戦闘開始から30分……。
俺たちは劣勢に陥っていた。
山賊の数が想定より多かったらしく、迎撃組の人たちは混乱に陥り、あっという間に瓦解した。
当然かなりの数を防衛組は相手にしなければいけなくなり、防衛組には死者すら出している。
そして今戦えるのは俺たちを含めたった10人。
山賊のほうはわからないが少なくとも50人はいるだろう。
俺たちとカレルさんは分断され、3人で粘り続けていた。
「くそ、どうすれば……」
「レン!諦めちゃダメよ!まだ打開策はあるはず!」
しかし、この圧倒的な劣勢。慰めにもならない。
一緒にいるカレルさんは真剣な顔をして黙っていたが、覚悟を決めたような顔で俺のほうを向いた。
「…………坊主、お前まだ走る元気はあるか」
「はっ、はい、なんとか」
「ならリイネスちゃん連れて逃げろ。俺が引き付けている間にな」
「なっ……!?」
何を言っているんだと思った。
「バカ言わないで!カレルさんも逃げるのよ!」
「ハハッ、悪ィな。俺は年なんでな。走る元気はねーのよ」
「ふざけないで!さぁ、早く……うっ!?」
カレルさんはリイネスの腹部にパンチを入れ、気絶させた。
「すまねえな……坊主、リイネスちゃん頼んだぜ」
「…………カレルさんはどうするんですか」
「俺はお前に言ったはずだがな、リイネスちゃんを護ってやんなってな」
俺はその言葉を聞いた時殴られたような衝撃を受けた。
「男の約束だ、破んなよ。レン」
「カレルさん……すみません!」
俺はリイネスを担いでカレルさんに背を向けた。
☆
俺は村のはずれにある森の中を走っていた。
カレルさんへの罪悪感に押し潰されそうになりながら。
「確かこの辺りに村長が行った避難場所があるはず……」
「レン殿!」
よかった、合っていたようだ。
俺は村長に状況を簡単に説明した。
「なんと……カレル殿が……」
「俺は戻ります。リイネスをよろしくお願いします」
「レン殿、ご武運を」
村長にリイネスを預け、来た道を全速力で戻る。
嫌な予感が当たらぬようにと。間に合うようにと。
そして先程の場所に着いたときには希望は簡単に打ち砕かれた。
「カレル……さん……」
カレルさんは血まみれになって倒れていた。
「…………すまんな……レン……。あんまり時間稼げなかった……」
「いえ!リイネスは逃がしました!カレルさんのおかげで!」
「そっか……よかっ……た……」
満足そうな顔をしてカレルさんは力尽きた。
そしてちょうどその時カレルさんをこんな風にしたであろう山賊たちが戻ってくる。
「おいガキ。リイネスって女はどこにいる?」
「……せぇ……」
「あ?」
「うるっせぇって言ってんだろうが!」
俺は怒りに任せて剣を振るった。
しかし簡単に弾かれて、剣を落としてしまう。
「ったく、コイツもか……じゃあ死ねよお前」
山賊は俺に向かって剣を振り下ろした。