黒刀の銘とリーシャのお願い
その日の昼間、俺は城に出向いていた。
王都からの出発を王様に言うためだ。
「おお、よく来たな」
「自分たちはこの後クードに戻るつもりです」
「そうか、寂しくなるな」
笑顔でそんなことを言ってくれる王様。
俺はルカのことを聞いてみることにする。
「ルカ様のこと……本当にいいんですか?」
「本人の決めたことだ、口を出しても始まらんよ」
やはり王様。度量が広い。
「では、自分たちはこれで」
「うむ、ルカによろしく伝えてくれ」
「失礼します」
俺は王城をあとにし、宿へ戻る。
部屋では4人が鞄に荷物を詰めていた。
「あ、おかえりレン」
「おかえりなさいレンさん。もう少し待ってくださいね」
「お父様はなんと?」
「ルカによろしくってさ」
「おにいさん、どこにいくの……?」
「俺とリイネスが入ってるギルドがあるクードって町だ。ここから2日くらいかな。じゃあ、俺はギルド長に連絡してくるから」
部屋を出て、ギルドに通信を繋げる。
『はい、こちら冒険者ギルドです』
「あ、ミーナさん。レンです」
『あっ、レンさんですか?どんな御用ですか?』
名乗った瞬間、ミーナさんの声が嬉しそうに聞こえた。
「ギルド長に用があって。繋げてもらえます?」
『了解です、では繋ぎますね』
用件を言った途端にいつもの感じに戻った……。
間もなくギルド長に繋がった。
『よう、レン。どうした?』
「ギルド長の剣も王都での用事も終えたのでクードに戻ろうかと」
『おお、そうか。ざっと2日くらいか、待ってるぜー』
「……………ちょっと大所帯なのでどこか広い住む場所を用意していただけると」
『ん?ああ、任せとけ。報酬として用意しておく』
それで通信は終了。
俺は荷造りの手伝いをするため部屋に戻った。
まあ、俺の荷物なんてほとんどないからすぐに追い出されると思うが。
☆
「さてと、みんな忘れ物とかないか?」
「私は大丈夫よ」
「私も大丈夫です」
「私とフランはあんまり荷物ないので……」
リイネス、ルカ、リーシャを確認する。
フランはなぜか俺がおんぶすることになった。
「そんじゃ行きますか。できればキルカまで行きたいなあ」
「しゅっぱつ……」
フランの小さな声に皆で笑いつつ、クード目指して出発した。
☆
なんとか夜にキルカに着くことができた。
リイネスにみんなを任せ、俺はガルシアさんのもとへ。
「ガルシアさん」
「ん?……おう、レンか。どうした?」
「いえ、特になにかあるわけでは」
「そうか……ま、座れよ。茶くらい出す」
俺は出されたお茶を飲みながら黒刀の話をした。
「すごいですね、あの刀。軽くて振りやすいし」
「そうなるようにしたからな。そろそろ名前は決まったか?」
「…………ええ、まあ」
「ほう?まだ決まってないと思ってたんだがな。で、なんて名前だ?」
やはり自分の作った刀の名前が気になるのか、ガルシアさんは食いついてきた。
別にもったいぶるようなことでもないので言おう。
「八咫烏……その名前にしました」
「いいじゃないか、黒刀・八咫烏。俺はそのうちそれを超える剣を作るぞ」
「それでも俺は壊れるまでコイツを使いますよ」
「はっ、言うじゃねえか。まあ、俺の剣はそんな簡単に壊れねえけどな」
2人で笑ってしばらくして俺は宿に戻った。
部屋の戸を開けると、リーシャが出迎えてくれた。
「おかえりなさい、レンさん」
「ただいま、リーシャ。夜遅いけど大丈夫か?」
「ええ、慣れてますから」
俺は風呂に入り、あがってから並べられた布団に気づいた。
帰ったときは暗くて見えなかったのか。
「今回は喧嘩にならなそうでよかったな」
「喧嘩の元になる人がいませんからね」
「えっ」
「冗談です♪」
初めて会った時とは比べられないくらいいい笑顔のリーシャ。
思わず頭を撫でていた。
「あっ…………えっと、レンさん?」
「ん?どうした?」
「私……まだあの頃の夢をたまに見るんです……なので……」
「なので?」
「い、一緒に寝てもらえないかなって……」
顔を真っ赤にして目を逸らすリーシャがとても可愛く感じた。
俺はリーシャのお願いを聞いて、眠ったリーシャに抱きつかれたまま眠りについた。
翌日、リイネスとルカにめちゃくちゃ怒られたのは言うまでもない。