フランとリーシャ
俺はフランたちが出てくるのを待っていた。
それまでの奴隷の人たちには申し訳ないと思いながら。
そしてそのときは思ったよりすぐに来た。
『では、次の商品!真っ白な髪の美人姉妹!リーシャとフラン!10万から!』
出てきた2人に対して金額が提示されていく。
20万、30万、50万、100万……そろそろか。
250万が提示された瞬間に俺は手を挙げて叫ぶ。
「500万だ!」
会場が静まり返り、俺に視線とスポットライトが集まる。
ステージにいるフランが驚いた顔をしていた。
『……えー、500万、それ以上いらっしゃいますか?』
会場は静まり返ったまま。
そのまま、2人は俺の奴隷として買い取ることに成功した。
会場出たところで奴隷商人に金を渡し、鍵を受け取った。
「まさかあなたがあんな金持ちとはね、まいどあり」
「うるせえよ、ほら、案内しろ」
「へいへい」
俺はフランとその姉、リーシャの前に案内された。
鍵を開け、手錠を外し、会場から少し離れたところで、驚いた顔をしている2人に座ることを促し、俺も座る。
「あ、ご、ご主人様……どうしてあんな大金……」
「お、にいさん……どうして……」
「…………ご主人様、フランの知り合いなんですか?」
「まあな」
リーシャに脱走したフランと会ったこと。
話を聞いて2人を必ず買い取ることを決めたこと。
話せば話すほど、リーシャの目から涙が流れる。
俺は話すことを話すと立ち上がった。
「あ、ご主人様、ありがとうございます……!」
「俺は奴隷はほしくない。ただフランやあんたを助けたいと思っただけだ。感謝とかはしなくていい」
冷たい言い方になったかもしれない。
2人がこちらに視線を向けないあたり冷たかったのだろう。
なので、あとにこう繋げた。
「俺はフランもあんたも奴隷から解放する。でも、俺は旅人なんでな。一緒に旅する友人は歓迎するぞ」
「「………………!」」
2人がやっと顔をあげてくれたので笑顔で返す。
「どうかな、フラン、それにリーシャも」
「……はい、私はあなたについていきます!」
「そうか、フランは?」
「おにいさんなら……いっしょに、いきたい、です……」
「よし、決まりだな。俺の宿に行こう……いや、その前に服だな」
俺は苦笑してそう言った。
フランは首を傾げているが、リーシャは顔を赤くしていた。
☆
近くで好きな服を買わせ、2人を連れて宿に戻ると、目のつり上がったリイネスと、おろおろしているルカが待っていた。
すっかり忘れてた!
「レン!もう逃がさないわよ!…………というかその娘たち誰よ!」
「そ、そうです!その娘たちの説明をしてください!」
「待て!説明する!するから殴らないで!」
「殴らないわよ!」
俺の視界に入っているその握り拳はどう考えても数秒後に俺に振り下ろされるだろ。
部屋に2人を案内し、説明を始める。
「この2人は…………言っても大丈夫か?」
「ええ、大丈夫です。もう私たちはそれではないので」
「わかった。この2人はフランとリーシャ。俺が迷って行った奴隷商で買い取った元奴隷だ」
奴隷という言葉に反応したリイネスとルカの2人。
「レン!あんた奴隷なんて何考えてるのよ!」
「そ、そうです!そういうことはいけないです!」
「ちゃんと話を聞け。『元』奴隷だって」
「「そういう問題じゃない!(じゃありません!)」」
責められる俺の言い分はあまり聞いてもらえなさそうだった。
そのときリーシャが口を開いた。
「あの、私たちはごしゅ……レンさんに感謝しています。私たちの人生を大金を使って買い戻してくれました。私もフランもレンさんについて行きたくて、ここにいます」
「「…………………」」
リーシャの言葉を聞いて黙るリイネスとルカ。
そして、リイネスが納得したように、
「まぁ、レンだもんね。大方迷ってる途中で2人のどっちかと会って、助けたいと思ったんでしょ?」
大正解だ。
ルカがむくれているが気にしている余裕はない。
「ところでいくら使ったの?」
「へ?」
「それ次第で旅がキツくなるかもしれないのでしょう?」
「…………………」
考えてなかった。
なのでリーシャに頼んで同時に言うことにした。
息を大きく吸って、
「「500万です」」
「「………………………」」
「痛え!リイネス無言で殴るな!ルカも火の魔法出さないで!」
「何考えてるのよ!その前の金額いくらよ!」
「ほとんど破産じゃないですか!リイネスさんの質問に答えてください!」
言ったら殺される!
そんなこと考えているとリーシャが言ってしまった。
「たしか……レンさんの前は250万でしたか」
「ふんっ!」
「ぐはあっ!リーシャなんで言っちゃうの!?」
さっきより強く殴られた。しかも2発。
「す、すみません、聞かれたので……」
「…………フフッ」
突然の笑い声に静まり返る。
笑い声のしたほうを見ると、
「お、にいさん……たのしい、ね……」
フランが笑っていた。
花の咲くような笑顔に喧騒が収束していく。
俺は再度話を戻す。
「でだ、この2人、親に捨てられてるから、苗字……リイネス、なんだっけ?」
「ネーム」
「そう、ネームがないんだ。だから俺の『リターナ』をやろうと思ってたんだけど」
「ふーん?いいじゃないかしら。レンらしいわ」
「わ、私もいいと思います!」
リーシャとフランが驚いた顔をしている。
俺は2人のほうを向いて、
「というわけなんだけど、俺のネーム、もらってくれないかな?」
「「……………………」」
2人は黙っていると思ったら涙を流し始めた。
「えっ、泣くほど嫌だったのか!?ならリイネスのとか……」
「い、いえ、違うんです。嬉しかったんです……改めましてリーシャ・リターナ。どうぞよろしくお願いします!」
「……フラン・リターナ……おにいさん、とおなじ……」
涙で濡れていたが、2人の笑顔はとても綺麗だと思った。
「まあ、それはいいんだけど寝る場所はどうするの?ベッド2つしかないぞ?」
「「………………………」」
俺の一言でリイネスとルカがなにやら喧嘩し始めたので、
俺は「あいつら仲良いな~」とか思いながら、フランとリーシャに連れられ、3人で1つのベッドに寝た。