開催と1回戦と王女様
控え室でスタートを待っていると、突然歓声とアナウンスが聞こえてきた。
『お待たせしました!これよりアルクコロシアムでのバトルトーナメントを開催します!本日は我らが東側の王、ゴーシュ・アルカディア様とそのご息女のルカ・アルカディア様が観戦にいらっしゃっております!』
王様と王女様の名前が呼ばれると一際大きな歓声があがった。
『ルール説明をします!降参するか、この円形のリングから場外で敗北となる簡単なルールです!ではさっそく行きましょう!1回戦第一試合────
☆
大会は滞りなく進んだ。
トーナメントは2つのブロックに分けてあるらしい。
俺がAブロックだとするとノーム卿はBだろうか。
そして次はAブロック1回戦最終バトル。俺の番だ。
『ではAブロック最後のバトルといきましょう。第8試合、我らがアルク防衛軍の誇る強者!クロウ・ガルダ!対するのは、無銘の黒刀を操る無名の剣士、レン・リターナ!』
アナウンスが響くと俺と俺の1.5倍の体格の対戦相手がリングにあがる。
このリング、直径だいたい200mだろうか。
コロッセオがそのくらいだった気がする。
「おう、坊主。1回戦で俺と当たるなんて運がねえな」
ぼーっとしていると…………クロウだっけ?
対戦相手が話しかけてきた。
「いえ、そうでもないですよ」
「ほう、いい度胸じゃないか。お互い悔いの残らない戦いにしようぜ」
握手を交わして一定の距離をとる。
『ではAブロック1回戦最終戦!開始!』
「うおおおおおおおお!」
開始の合図と同時に対戦相手が真っ直ぐタックルを仕掛けてきた。
結構なスピードだが、サーベルボアほどじゃない。
「よっと」
俺は難なく避けて、再び距離をとる。
「おいおい、逃げてちゃ始まんないぜ?来いよ、坊主!」
挑発のつもりなんだろうか?
なら乗ることにしよう。
「なら……………遠慮なく!」
柄に手をかけて一気に相手の懐に入る。
そして斬り抜ける。
「なんだ?移動しただけ……………」
さっきの動作を新しいチートを使ってコンマ1秒かけずにおこなった。
なので初めは気づかなかったのだろう。
頑丈そうな鋼鉄の鎧が既に斬れていることに。
「フハハ!面白い坊主だ!」
「いえいえ、それほどでも」
『な、なんということだ!レン選手、一瞬の間にクロウ選手の鎧を斬ってしまった!なんという神速の技!』
コロシアムは盛り上がる。
俺たちの戦闘も盛り上がる。
「ここからは俺も素手です」
「ほう、この俺にか?」
刀を外して場外へ放り投げる。
「絶対勝つので」
「良い自信だ。かかってこい!」
「では」
先程と同じように一瞬で近接する。
そして、
「はっ!」
そしてその速度のまま、足払いからの回し蹴り。
「ぐおおお!?」
これで対戦相手は場外まで吹き飛んだ。
会場は静まり返る。
『しょ、勝者!レン・リターナ!あれだけの体格差がありながら最後は素手でクロウ選手に打ち勝ちました!』
アナウンスが流れると、一拍おいて大歓声。
俺は刀を回収し、クロウ選手のもとへ。
「うお、痛え……坊主、強いんだな。正直舐めてた。すまん」
「えっと……ありがとうございました。いい試合でした」
「はっ、そいつは嫌味か?一方的だっただろ」
「い、いえ……そういうつもりは」
「はっはっは、冗談だ。頑張れよ、坊主」
そうして、クロウ選手は控え室に戻った。
俺も戻るとしよう。
☆
ここは観客席の上、王族の座る場所。
私、ルカ・アルカディアはお父様……ゴーシュ・アルカディア王とここで観戦していた。
「ほう、あのレンという若者、クロウを倒すとはな。しかも格闘でか。面白いやつよ」
「…………………………」
私の隣でお父様はレンという人に感心していた。
「…………………………」
私もレンという人物に興味を持った。
あのクロウと戦っているときの顔。
あの生き生きとした動き。
あの男の全てに興味を持った。
(なんなんでしょう、この感覚……)
あの男のことが頭から離れない。
考えていると顔が熱い。
とにかく彼は勝ったのだからまだ見る機会はある。
これからの試合も見てこの感覚がなんなのか考えるとしよう。