月下の白雪
初投稿です。締め切りギリギリで完成したのでちょっと自分でもやりきれない感じがありますが全力でやりました。
ここは王子と白雪姫の住む城。今宵は王子と白雪姫の結婚一周年記念日。だが王子と白雪姫は自室でひっそりと祝杯をあげていた。
「ねぇ、あなた。今頃、お母様はどうなっているのでしょう?」
やはり一応は自分の母。どんなにす自分を殺そうとしても気になるものは気になってしまうものなのでした。
「さぁ、それは僕も分からないな。特に変わった報告も無いようだしね」
「そう……」
少しだけしゅんとする白雪姫。
「気になるのかい?」
「それはね。私達の結婚式の日に急に老け込んでしまったらしいから」
「会いに行くのは危険だ、やめた方がいい」
白雪姫を気にかけて言っているのだろう。
「ありがとう。あなたも分かったから言ったのだろうけど……それでも私は会いに行きたいの!」
「だが━━」
言い掛けていた言葉は断ち切られる。
「お願い! 絶対に会わないといけないと思うの。あんな風に別れるのは良くないと思うの。だからお願い、会いに行かせて」
「仕方ない。君がそこまで言うのなら僕に止めることはできない、だがついて行くことくらいはできる」
「えっ……!?」
「驚くこと無いだろう? 僕は小人達に君を一生守ることを誓ったんだから、そして僕が君を守りたいからさ」
「あなたって変わり者ね」
「何を言ってるんだい? さ、もう夜も更けてきたし寝た方がいいぞ。明日は忙しくなるしな」
「え? 明日?」
明日は何も予定はなかったはず、白雪姫は疑問に思った。
「会いに行くなら早い方がいいだろ?」
その一言を残して王子は部屋から出て行った。
「……明日か」
自分一人しかいない部屋に声が響く。
夜は次第にに明けていく。太陽は照りつけ地上を明るく染め上げている。しかし山の陰に隠れてしまった城は照らされない。だが光が射さぬこの城に太陽は近づいていた。
「ねぇ、この辺はこんなに薄暗くなかったわよね?」
白雪姫は変わってしまった故郷に戸惑いを見せる。
「確かにな。この辺はもっと活発で光に溢れてたのにな。ま、多分それもあの女王のせいじゃないのかな」
「そう……かもしれないわね」
違う、と言えなかった。否定できなかった。
「あの女王に会えば全て分かるさ」
王子は飄々とした口調で喋る。きっと白雪姫を不安にさせたくないのだろう。
「そうね、じゃあ行きましょうか。もう少しで着きますから」
白雪姫の一歩は大きかった、いや大きく見えた。なにか大きな決意をしたのか少し前を行く白雪姫の背中は大きく感じられた。
薄暗い森を歩くこと小一時間、遂に城門前についた。
「衛兵! 衛兵! いないのか!」
王子が声高らかに叫ぶが声は木霊するのみでなにも返答はない。だが不意に城門は動き出した。
「お母様の魔法だわ。きっと国が廃れても自分一人でやってきたのね」
少しだけ開いた城門を進んでいく。
「あのお城がこんなになって……」
白雪姫の声には哀しみが感じられる。辛いことも多かったが白雪姫には何もかもが新鮮だったあのお城。今になっては寂れ、人の寄らない古城と化している。
「これは……酷い……」
少し遅れてやってきた王子も変わってしまった城へ絶句だった。しかし白雪姫は前に進んだ。
「さぁ、行きましょうか」
白雪姫は昔のように城をおしとやかに歩く。まるで過去を振り返るかのように。
「全部……変わってしまったのね」
小さく呟いた声すら音の無い城では響き渡る。
「白雪姫。全部変わっても━━」
王子の言葉は急に走り出した白雪姫によって言えず終いとなってしまった。
「雪よ! 雪が降ってるわ!」
ホコリがついて少し灰暗くなってしまった窓から見えたのは空から舞い降りる白い雪だった。
「なんで雪が? 今の季節は春だぞ……」
王子は不審に思い考えをまとめようとしたものの雪を見て中庭に出て行く白雪姫を見て途切れる。
「はやく~! 中庭に出てみるわよ~!」
「ま、待てっ! 危険だ……」
言い終わる前に白雪姫は走っていってしまった。
「仕方ない。追うか」
やれやれと追いかける。その間に外はどんどん白くなっていく。
「白雪姫~! 大丈夫か~?」
先に走っていき行方を見失ってしまった。
「弱ったな。中庭と目的地を告げられて見失うとは」
王子が首を捻りながら歩いていると窓から白雪姫が見えた。しかも白雪姫とは明らかに違う風貌の人影と。王子は急ぎ中庭へ向かう。ガラスの扉を開け歩み寄ろうとする。しかし
「ドアが開かない。なぜだ? 施錠もないのに」
そんなことをやっているうちに白雪姫は相手のローブを羽織った老婆と会話をしている。
「あれは白雪姫の母親……なのか!?」
王子はガラスを叩き危険を知らせようとしていた。しかし当の白雪姫は焦る王子とは正反対だった。
降りしきる雪のなか白雪姫は対峙していた。ローブで顔を隠した老婆と。
「お母様なんでしょう? ここにいるのはお母様くらいだもの。そうでしょう?」
立つ老婆は返事をせずに語り始める。
「ある国の女王は美しかった。ずっと美しかった。だが自分を上回る美しさになる女性がいた。女王は悔しくて悔しくて仕方なくなった。遂には仮にも娘の女性を殺そうとした。しかも三度。なのにその女性は殺されなかった。自分に巡る強運。世界に愛されていた。そして女王は怒った。殺せなかった女性に。だが報いが来たのか女王は急に老け込んでしまった。さぁこの怒りが順風満帆なお前に分かるのか! 分からないだろう! だからここで女王はここでその女性を殺したのさ! お前の名前の由来のようにこの雪の上に真っ赤に染めてやるよ!」
突如として老婆は刃物をどこからか持ち出し襲ってきた。
ガラスの扉の向こうでは王子が声にならない悲鳴をあげた。老婆と化した母親は薄く笑いながら迫ってくる。
「お母様……」
真っ直ぐ突進してくる母親に対し白雪姫は避けずに正面にたった。母親のもつ刃物が鈍い音を立て白雪姫の腹部に突き刺さる。
「さぁ、死になさい!!」
老婆は雪の降る空に叫ぶ。白雪姫は刃物を突き刺す為に近づいた母親を……抱きしめた。刃物の刺さる痛みをこらえている。
「お母様、私はあなたに殺されるために来たわけじゃない。あなたを咎めるために来たわけでもない。何のために来たのか分かる? そう、あなたには分からない」
困惑する母親。振り払おうと暴れるが白雪姫は一向に力を緩めない。
「えぇい! 離せぇ!」
腹部から血が出る。それでも白雪姫は全く離さない。
「嫌よ! 嫌、私はお母様と仲直り出来るまで絶対に離さないから! 私はお母様がどんなに私を殺そうとしても! どんなに嫌っても! 私は絶対にお母様を好きでいる! だから離さないから!」
暴れていた母親は身体から力を抜いた。
「馬鹿じゃないの! 人を信じるのは大概にしな。私はお前が嫌いだ! 大っ嫌いだ! だがね、お前が私を好きでいるのは自由だからね。さ、王子と国に帰りな!」
母親は雪の降るなかを歩き城の中へ消えていった。
「やばい……お腹痛い」
雪のなかに背中から倒れた。雪は冷たいはずなのになんだかとても暖かかった気がした。
「お母様の暖かさ。きっと心は冷たくなかったんだよね……」
白雪姫はクスクスと笑った。もちろんかなり不格好だが。
「白雪姫! 大丈夫か!? 血も出てるし小人達との約束は守れなかったな」
王子はあたふたとしておりとても慌てていた。
「大丈夫よ。あれは親子喧嘩。ちょっとしたいざこざなの。だから大丈夫」
「でも傷が……っっ! 治ってる。 なんで!?」
「私のお母様は魔女よ、きっと。だから私の傷も治せたのよ」
白雪姫の顔はとても明るく悩みを晴らせたのだろう。白雪姫はいっそう元気になり、母親も少しずつ元気になり前のように白雪姫に突っかかっていた。それは昔の殺人や虐めではなく、親子だからこそ、楽しくできるのだ。
「あ、そうだ、だが~って言ってたけど結局なんて言おうとしたの?」
「それは……忘れてくれ。ちょっと恥ずかしい」
そのまま白雪姫と王子、そして王妃様も楽しく幸せに過ごしました。
読んでくださった方、本当にありがとうございます。