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愛は狂気 ただの天然。

作者: 淡木

 冬休みの間に少女は悩んでいた。

 学校の時みたいに話したりすることが出来ない時間はなんて苦しいんだろう。

 会いたいな。声を聞きたい。一緒にいたい。

 この気持ちって一体何なんだろう。

 どんどん大きくなる。

 これってもしかして・・・・・・。


 当てはめてしまった感情。

 気づいてしまってからは手遅れだった。

 止まらない、止められない思い。

 心だけが向こうに行ってしまいそう。

 体も動きたくて、動きたくて、たまらないのに。本当に走っても落ち着かない。

 いつまであなたのことで頭がいっぱいいっぱい。

 このままではダメ。

 考えるのは苦手だ。ならば行動あるのみ。

 少女は決心した。

 

 

 冬休みが終わってからすぐ少女は積極的に行動した。

 足で稼ぐ。テレビで知った調査の基本を忘れずに。少女の行動範囲は学校内にとどまらない。

 少女は思いつく限りのありとあらゆる手段や方法を用いた。知りたいことを知ったことを念入りに丹念に。途中に大分、いや、言葉でいい表せないほどの行き過ぎた行為はあったけれど、それは少女の大きな不安の裏返しだった。

 受け取ってもらえなかったら。渡せた直後に捨てられたら。鼻で笑われたら。路肩の石のように眺められたら。踏んで砕かれたら。それを無理やり食べさせられたら。

 ・・・・・・ちょっといいかも。

 そんなちょっと弱い少女が自信を確信を持ちたかっただけ。


 少女が考えれば考えるほど悩めば悩むほど、そして動けば動くほど相手は登校時間や帰宅時間が変わっていった。

 資料が厚くなる日々が続く。相手は学校に来なくなった。

 そして訪れた決戦前日の日。

 相手の好きな種類を。好きな味を。好きな形を。匂いを。色を。花を。声を。道を。家を。カーテンを。服を。サイズを。コップを。櫛を。タオルを。時間を。

 全てがつまった資料を手に少女は思い至った。

 自身の料理の腕を。


 どうしよう、あんなにあんなに頑張ったのに。

 喜んでもらえない。

 おいしいって言ってもらえない。

 私をもらってもらえない。

 こんなにこんなにもらって欲しいのに。

 他の人はいや。絶対に。盗られる。

 他の人にとられちゃう。いっしょにいられない。いっしょに作らないと。

 作る。作れるものは。

 何を作る?

 なんでつくる?

 好かれたいから。好きだから。

 愛しているから。

 愛だから。

 愛!


 愛があればいいっていうよね。

 

 原因は一応ある。料理が下手な少女の姉は、料理の度にわりと大きな怪我をする。

 そして、口癖のように言う。


「ちょっとあたしの愛が料理に入っちゃった」


 

 少女について聞かれた母は

「ちょっと周りが見えて無いだけで悪い子じゃないのよ?」

 とちょっと遠くを見ながら。父は

「高校生にもなってずっと洗濯物を一緒に洗ってくれるいい子なんだよ」

と終始笑顔で。

 最後に、姉には

「見てる分には楽しんだろうけどさ」

 と疲れ果てた顔で、三者三様にいわれる子だ。


 少女は純真すぎた。そして、その純真さに周囲が適応してしまうことが問題でもあった。

 当日の朝、寝ていない少女とその手を見て、初めは病院に行こうと強く言っていた家族は、少女のいつもと変わらない能天気な元気さアピールで出鼻がくじかれる。続いて、ここ最近特に聞き飽きていた好きな人への愛の言葉でへきへきしてしまい。そして、最後のいままでとは違う真剣な顔で話す姿に心をうたれ午前だけという内容で折れてしまった。


 身支度を済ませ最後の確認で鞄の中を見た少女は、包装紙が好きな色に染まってよかったと柔らかく微笑んだ。そして、緊張しながらもどこか期待するような面持ちで家を出発した。


 少女はここ最近、調査のために早くなっていた時間より遅く学校に着いた。始業開始2時間前。まだ薄暗く、ほとんど話し声はしない、部活の生徒も疎らな時間だ。

 昇降口を抜け中に入ると。真っ先に目標の靴箱でまだ相手が来ていないことを確認した。

 安心した少女は、自分の靴箱まで行き靴を上履きに履き替えた。そして、昇降口から教室までの廊下、途中にある掃除用具入れの影に隠れ、イメージトレーニングをする。


「これ、よ、良かったらもらってくしゃあああ!!」

 テンパって叩きつける。


「好きでじょー!」

 噛む。


「あ、あのっ! ずっと・・・・・誰?」 

 相手を間違える。


「一目見た時から気になっていました。よかったら受けとってください、な、なにっ!?」

 渡すものを間違える。

 

 必死に想像した。しかし、イメージトレーニングの中ですら成功しない。想像するだけで顔が熱くなって暴れたくなる。力が入らなくなる。うずくまる。

 少女は泣きたくなった。むしろ泣いた。いろいろ手遅れだった。ティッシュで鼻をかむ。手が痛い。

 いつも、いつもならこんな風に落ち込んだ時は相手のことを想像すれば立ち直れる。なのに今回に限っては原因だ。

 表情すらどん底になった少女はハンカチで顔を拭きここまでのことを思い返す。

 あんなに頑張ったのにこのままでいいはずが無い。きっと、いいや違う、必ず、必ず喜んでくれる。諦めるな、ここまで来たんだ。絶対に渡してみせる。

 懸命に心を奮い立たせ動けるようになった少女は、人が来ないか影から顔を出し周囲をうかがった。

 誰も居ないことを確認した少女は深呼吸を行った。そして手に持った鞄の中を一瞥し一際大きくうなずく。

 おもむろに少女は靴箱に向かった。廊下に足音と鼻をすする音を響く。

 

 狂気されど純真な愛の形はこうして先輩の靴箱に納まった。


 


 入学したての頃は少女にとって先輩は学校でなんだかすごくて有名な人。世情に疎いと自覚している少女でも知っている。ただそれだけの人だった。 

 高校という新しい環境で戸惑いながらも新しいクラスメイトと出会い仲良くなって遊んだり、休日に買い物に一緒に出かけたり、勉強の進む速度に四苦八苦し愚痴を言い合ったり。

 少女は徐々に新しい普段の生活になっていった。

 友達と話していくうちに自然と上る先輩の話。いいこと悪いことすごいこと。時には見に行かないかと誘われても少女は興味が不思議と湧かず断っていた。


 小さな変化は夏季休業も終わりまだ浮ついた空気が流れていた頃。エアコンのある学校はいい、この学校を選んだのは正解だったと、友達と昼ご飯を食べながら話している時だった。

 教室に先輩がやってきた。ただそれだけで沸き上がる歓声。

 だだの委員会の話だったのに、少女は委員と話している先輩のことしか見られない。先輩の声に集中する。臭いが気になる。委員も心あらずで会話にならない支離滅裂。

 そんな状態には慣れているのか、先輩は少しだけ困ったように微笑むと委員の頭を軽くなで、耳に顔を寄せ何かをささやくと綺麗な笑顔と紙を渡して去っていく。

 少女は後ろ姿を惚けた目で追った。教室のクラスメイトも同じように放心している。時間だけだ過ぎていく。


 名前を呼ぶ声、返事はする。何かを叩く音。頭を叩かれる。

 痛い少女は気がつき周囲を見渡すと、友人が呼んでいた。

 友人は困った子を見るかのような年齢のわりに似合う母性あふれる表情をしながら時計を指差すと授業が始まると少女に教えた。

 ご飯はまだ半分しか食べていない。見るといつの間にか全部食べていた友人に少女が恨み事を言おうとしたが、すんでのところで先生がやってきた。


 それから少女は先輩がいると目で追うようになった。居なくても目で鼻で探す日々。自分が自分で無くなったみたい、体の制御が上手く出来ない。足が宙に浮いてしまっていないか不安になるが、いつもと同じと誰もが言う。上手く相談できない、出来たとしてもまじめに取り合ってくれない。

 少女はちょっと先輩の顔が見たくなった。



 大きな変化は体育祭の時。

 少女は自慢ではないが体を動かすのが非常に得意だ。入学直後は多くの部活に誘われている。

 しかし、一度体験させるとそのほとんどはいなくなる。体を動かすのが得意であるのと上手いは違うと多くの生徒に知らしめた。そんな少女も陸上競技は文字通り得意だった。

 ただ何も考えずに走るだけ、部活や本格的な競技としては駄目な考えであったが少なくとも体育祭ではリレーのアンカーを務めるほどには優秀だった。

 時が来た。少女のクラスは現在三位。

 バトンを受け取り少女が走る。脇目も振らず。腕を振り上げ。

 前行く背中を目指し力の限り。思いの限り。

 多くの声援。一人抜く。足りない速度。

 もっと速く。もっともっと速く。

 あと少し、もう少し。

 ゴール直前、少女は風となった。もうなにも怖くない。

 クラスは一位に。少女は怪我人に。

 

 歓声の中で少女は笑顔で保健室に向かう。途中友人や委員が付き添いを願い出てくれたがみんなと喜んでいて欲しい。その一心で断った。

 保健室は独特のにおいがした。少女は怪我人だということを再認識する。膝が、顔が、肘が、腕が、じくじくとさらに痛み少女は顔をしかめた。

 周囲を見渡しても誰もいない。少女はちょっと途方にくれる。声を出してみる。


「えーと。怪我したんですけど、ここって勝手に使っていいんですかね?」

ベッドの奥の方から気だるげな声がする。どこか嗅いだことのある匂いだ。

 声がした方を向くと普段以上に引きつけられる雰囲気の先輩がいた。

 先輩と目が合う。綺麗な不思議な色の目だ。

 少女は痛みが気にならないくらいに思考が停止した。

 先輩はベッドから起き上がり降りると、慣れた動作で棚から手当てに必要な消毒液や包帯などを取り出すといまだに動作が停止してる少女の手当てを行い始めた。血が垂れていて結構ひどい。

 まずは傷を凝視。いまだ汚れていて血が出ているので水洗い。そして軟膏を塗りラップを巻き包帯で固定。

 手当てしながらもどうにか話そうと先輩はいくつか言葉をかけるが少女はまったく取り合わない。 声に対して手を上げたり膝を伸ばしたりと動作はするがいまだに意識が戻らない。

 反応を楽しんでいた先輩はいい加減飽きたのか苦笑すると少女の耳元で大きな声を出す。

 少女は声に一瞬体が反応しその後目の焦点が合う。目前に先輩の笑顔を確認すると真っ赤になった。耳まで赤い。

 驚いた少女は後ろに飛び上がり大声でよく分からない言葉でお礼を早口に言いながら逃げだした。

 途中、保健室の扉がなかなか開かずグダグダになっていたが優しい先輩は見なかったことに。ため息をつくと先輩は再び今まで寝ていたベッドに向かった。


 逃げた少女は大変だった。うれしさと恥ずかしさ、そして申し訳なさが溢れとてもお見せできないような表情で走っていた。

 先輩に手当てしてもらえた。それだけで怪我は良いこととなって気分も上向きに。クラスの勝利なんてもう忘れてしまった。いい匂いだった。いろいろな色に変わる不思議で綺麗な目。この気持ちを誰かに話したい。速くクラスに戻らないと。ああでももっとしっかりお礼を言いたい。

 少女なりにいろいろ考えたがクラスにつくころにはいつもの元気が出る幸せな笑顔ではなく、友人すらひくにやけた気味の悪い表情しか残っていなかった。

 この日から少女と先輩は会うたびに挨拶や簡単な言葉を交わすようになる。

 先輩のいい匂いを嗅ぎながら、気分を高め子犬のような尻尾が幻視されるくらい少女は懐いた。

 少女はまだその感情を理解していなかった。


 理解するのは冬休みの間会えず気持ちがくすぶった頃。



 チョコを先輩の靴箱に入れ、早退して病院に行った翌日。昨日の反省と先輩は喜んでくれただろうかと不安になりながら少女が学校に行く。喜んだ顔、お礼の言葉を思い浮かべる。それだけでいつもより空が綺麗に見え途中の人々も活気があるように感じた。

 少女の登校時間は昨日よりもさらに遅い。すでに部活の生徒は練習しており多くの生徒の熱意が声で伝わってくる。今日は感想が聞けるといいな。

 いつもと同じように昇降口を抜け最下層にある自分の靴箱を開けた少女は上履きを取り出そうと手を入れる。

 何かが手に触る。覗いて確認すると手紙が入っていた。相手を確認すると先輩だ。靴箱を閉める。もう一度確認する。やっぱり先輩からだ。

 よたよたと手に手紙を持ったまま熱に浮かされたように教室に向かう。なんとか途中で足が冷たいことに気づいた少女はあたふたと靴箱に戻り鞄を拾い上履きを履き外履きを片付けた。

 多少頭が冷静になり少女はどこで中身を確認するのがいいのかを考えた。やっぱりトイレがいいのかな。スマホで確認するとまだホームルームまでは時間がある。

 ドアを閉める。手に持っていた手紙を慎重に開ける。うん、調べた通りの先輩の字だ。うれしい。

 少女は内容を読む前に先輩の手紙ということの確認出来ただけで笑顔になる。

 さて、内容はなんだろう。いいこと書いてあるといいけど。

 最近先輩に会ってない。この頃学校にも着てなかったし。今日は会えるのかな。学校には来ているんだよね。

 浮かれた気分で内容を読んでいく少女。徐々に顔が赤くなっていく。読みを終わったときにはすでに顔が熱く茹で上がっていた。今まで出したことのないものがこぼれる。冷静になるには少々時間が必要だった。掃除をし少女は急いで教室に向かう。もうすぐ時間だ。ホームルームは迫っている。

 

 手紙には、昨日のチョコはもらった中で一番美味しかったということとそのお礼の言葉。教室に会いに行っても会うことが出来なかったが今日よければ放課後に屋上で待っていてくれ、というもの。

 少女の妄想が開花するには十分だった。

 

 放課後になった瞬間少女は駆け出した。校内にも関わらず、自慢の足で勢い良く。周囲の静止する声も聞こえないし、気にしない。

 少女の頭の中は先輩のことで溢れていた。もうそれ以外考えられない。

 何の話なのだろう。思いが通じるのかも。期待と不安で揺れながらそれでも少女は止まらない。階段は2段抜かし。もう一階、息が切れるのもお構いなし。少し立ちくらみがするけれど、思いが先行き止まれない。この向こうに先輩がいる。少女は期待を胸に屋上への扉を開けた。

 その普段は閉まっている扉の奥には、先輩がこちらを向いて立っている。

 冬特有の西日がまぶしい屋上で、少し冷たい風が吹く中で肌を赤くした先輩は少女を待っていた。


「来てくれたんだね。ありがとう」


 特有の人を魅了する声でお礼を言った。その目には惹きつけられる熱がこもっている。


「遅れてすみません先輩。あの、その、チ、チョコを食べてくれてありがとうございました」


 少女は勢い良く頭を下げる。その大げさな行動に先輩は優しく微笑む。


「手紙にも書いたけど本とに貴女のチョコはとても美味しかった。本当にありがとう」


 優しい声からだんだんと口調が変わる。


「本当に美味しい。特別なものが入っていて。普段は、いつもはこらえていられたのに」

「先輩?」


 いつもの先輩と様子が違う。いつも以上に力強い目から目を離せない、その声に、匂いに。とてもいいものなのに恐ろしい。

 少女は思考が強制的に散漫になる。鳥肌は立っているのに。


「ここ最近はずっと追いかけてきて、こっちの気も知らないで。お陰で逃げ回ることになったよ。だけどそのおかげで貴女のことを諦めない決心がついたんだ。ありがとう」


 意識が曖昧になるいつまでもこの心地よいものにたゆたっていきたい。

ああほんとうにいい匂い。このままずっと・・・・・

「そしてあのサプライズ、本当に貴女はうれしいことをしてくれる。もう分かってるんだろう? だからもらうよ」

 あなたとともに・・・・・・

「貴女の血を」


 少女はそれからのことを覚えていない。

 気がついたときには病院のベットの上。目の前にはなぜか土下座する先輩の姿。

 倒れたらしい。

 原因は貧血。

 点滴で繋がれた体がにくい。

 あれだけ血を流すことをしていれば当たり前だろう。包丁、鼻血あとはなんだったか・・・・・・

 とにかく先輩が原因なんだろう。

 とりあえず責任をとってもらうことにした。

 少女は恥ずかしげに微笑んだ。

少女:天然

先輩:吸血鬼

天然なヤンデレってかわいいと思ったら書けた。

あと吸血鬼に血液チョコっていいよね。

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