えぴそーど1
「おかえり、シューちゃん。学校どうだった?」
「んあ、なんか新しかった」
初日は特に珍しいことは無かった。入学式も、普通の高校と同じ。
「大体、黎高のことは、あのアホに聞けばわかるだろ」
もう高校生だぞ、ちゃん付けするなよ。いくら俺が新入生だとはいえ、俺に感想を求めなくてもいいだろ、母さん。そもそも母さんは、黎明高校に行ったことあるんだろ、あのアホと。
そうそう、いつもこんなふうにでっかい足音立てて、リビングのドアを盛大に開けて…。
「お母さん、お金ちょうだい。三千円」
「あら〜、レオちゃん。今月はもう二万も使ったじゃない」
二万とか、何に使ってんだよ、バカ姉貴。高校生が一ヶ月に使う金の量じゃないし。
「レオ姉、そろそろ母さんから金持ってくのやめろ。借金取り立ててるみたいで、アホにしか見えない」
「う、うるさいわねっ!あんたには関係ないでしょ!」
関係大アリだ。俺とレオ姉の学費、誰が払ってると思ってんだ。
説明が遅れたが、今、母さんから金を取り立てている女は、嘉川 麗音那。家では、レオとかレオ姉って呼ばれてる。黎明高校三年生で、女子バレー部のキャプテンだったりする。
「ああ、もういい。俺が三千円出すよ」
「でも、そうしたらシューちゃんのお金が…」
「気にすんなって。母さんには世話になってるから」
そう言って俺が千円紙幣を三枚取り出すと、レオ姉はそれを強引にブン取り、リビングを出ていこうとした。
「シューみたいな出来損ないのポンコツでも、なかなか気が利くものなのね」
去り際の言葉があまりにも不遜極まりなかったな。次に取り立てに来たら罵倒を浴びせたい。
明日は部活動見学があるな。吹奏楽部、見に行くか。
そういえば、ふと思い出した。今日の入学式は、ほかの高校とは少し違った。何が違うって、
「吹奏楽部、ヘタだったな…」
おっと、これは失礼な言葉がこぼれてしまった。
そう、黎明高校吹奏楽部は、正直、聴けたものじゃなかった。