深見深、ヒロインに出会う
スペオペなのにまだ宇宙に行けないでござる―
二人が出かけて、家に一人になると、今日は学校いく気がしないことに気がついた。
頭ぶっ飛ばされて二十四時間経っていないわけだし学校とか行ってる場合じゃない気がしてきたので今日は自主的に休校にした。
スウェットでソファーに寝転がり、テレビをつけるけど、どこも昨日の隕石落下のニュースしかやってないのでテレビを消す。
久しぶりに本でも読むかと思うけど、そんな気分でもなさそうなのでソファーの上でウニウニぐるぐるしてつまらない午前中をつまらなく過ごした。そんなでも腹は減る。
俺はコンビニでも行くべーかと財布とケータイをもってサンダルを履き玄関を出て少し太い道に出たときその感じに気がつく。
誰かに見られてる。
今までこんなこと感じたことないけど今はハッキリわかる。
俺は誰かに監視されてる。
それも複数人。
振り返るが誰もいない。前を向いても誰もいない。いや、これはおかしい。
いくら平日の午前中だって言ったてコンビニ近くの太い道、車だって通っているはずだし、歩行者だっていなきゃおかしい。それに音がしない。生活してれば何かしらの音がするはずなの今まったく音がしない。都会だ、一応ここは都会だ。地方都市だが政令都市横浜だ。これほど人がいないはずがないし、俺は今までこんな無音な状況に出会ったことはない。
おかしいだろ?
目の前首都高の高架下から赤い光が見える。目だ、大きな体の黒い影から真っ赤に光る二つの目が俺を見ている。影といっても黒いだけで輪郭はよくわかる。大きな肩からはえる二本の腕は、地面にまでつくほど長く、太い。がっしりしている体と太い首。身長は軽く見ても三メートル以上。全体的にゴリラをイメージさせるがまったく違う。無機物、有機物の感じがまったくしない。曲線的ではなく直線的なフォルム。そう、ゴリラ型ロボットって感じか? すごくデカいゴリラ型ロボット。それがあの影の印象だ。
俺を見ている、真っ赤な目でゴリラ型のロボットの影が俺を見てる。
影が陽炎のようにユラユラ揺れてる。
ジリジリと太陽が俺の体を焼く。
眩しいくらいの光が俺の体を包んで、視界に薄く白く、フィルターをかける。
動けない。動けないどころか影から視線が外せない。
ゆらゆらと揺れる陽炎と、炎天下の中立ち尽くす俺と。
噴き出す汗と、異常な喉の渇きと。
極度の緊張と、死の予感と。
無機物への恐怖と、有機物である自分の死と。
握りしめたての手の平の中の汗と、背中を伝う冷たい汗と。
無音の世界と、俺の心臓のビートと。
ジジジジジジジジジジジジジ、無音の世界に音が生まれ始める。ジジジジジジジジジジジジジジジ、それが蝉の声だって気がつくまでには少し時間がかかった。
目の前を黒いミニバンが通る。
それに続いて何台かの乗用車と、大きなトラック。道を挟んだ歩道を歩くエコバックを持った主婦の姿。世界が変わる。もう目の前の高架下に影はいない。
汗だくの体中の毛穴から、汗が噴き出す。
緊張からの解放で立っていられないくらいの脱力が体中を襲う。その場にへたり込んでしまう。
なんだったんだありゃ?
確実に俺を見てた。俺を監視してたし、俺を敵視していた。なんであんなもんが見えたんだ? なんであいつは俺を見ていたんだ? 俺の頭の中をさっきの影について疑問がグルングルン回る。すごい吐きそう。てか吐く。
俺はへたり込んだまま歩道と車道の間ぐらいの側溝にいの中の物をすべて吐き出す。べろべろべろべろ、あーごめんお姉と珠代、今日の朝食べたもの全部吐いちゃったわ。
俺は立ち上がる気力もないままそのままアスファルトに寝転がる。空には燦々とお日様が照り、俺の体と網膜を焼くけど、体が動かない。もうすごい疲労感で体が動かない。こんな平日昼間に住宅街で反吐まき散らして地べたに寝てるなんてかなりの社会不適合感が漂ってるけど仕方がない、あんな映像見せられて社会適合ができるほど俺は図太くはできていない。
俺が目を細めできるだけ太陽光線から網膜を守りながらぜーぜー喘いでいると、視界が少し暗くなり、目が少し楽になる。
誰かがあおむけに寝転がってる俺を上から見下ろしいているようだ。
「結構きつかったかな~?」
可愛らしい透き通るような声。女の声だ。
「僕が来てよかったよ、来なかったらあいつらシン君のことおそってるよ~」
まったく聞き覚えのない声だけど、しゃべり方で誰だかバッチわかった。
「おい『ジャルパカ』、ありゃなんだ?」
「あれはアンドロイドだよ~機械の体を持った人造人間さ、機械の体っていうとサイボーグとアンドロイドに分かれるんだけど、簡単に分類すれば元人間がサイボーグ、人造人間がアンドロイド。分かるかな~?」
視界が少しずつ鮮明になり見上げてる『ジャルパカ』の顔が見える。
目を閉じた銀髪の少女が笑みを浮かべて俺を見下ろしている。
「あれはアンドロイド、人造人間だよ~」
にしししって口の端を大きく左右に吊り上げ、歯を見せて『ジャルパカ』は笑う。
「一つ聞いていい?」
「ん~なにかな~?」
「お前ってさメスだったのな」
「メスってひどい言い方だよシン君。女の子って呼んでよ~」
『ジャルパカ』は俺を引きおこし。お隙様抱っこで抱える。
「うわーすげーはずかしー」
「セリフが棒読みだよ~」
「恥ずかしい超えるくらい疲れてっから、もうどうにでもして」
「いいのかな~? これでも僕は発情期だよ~」
「あーキモいな」
「キモくない、自然の摂理だよ~」
なんて感じで軽口叩き合いながら『ジャルパカ』は俺を抱っこし、歩るき出す。
俺が来た道を。俺の自宅に向かう道を。
☆☆☆☆
「なんで銀髪なの?」
「ニーズがあるかと思って~」
「あー媚びたわけだ、最低だなお前」
「シン君!? Sがすぎるよ!?」