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頭に隕石がぶつかったら、スペースオペラが始まった。  作者: 大間九郎
二章 さあ、お約束のハーレム展開だ
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深見深のちょっとしたハーレム

SFタグでVRMMOには負けたくないでござる―


一夜明け、朝おきて鏡をのぞいても俺の顔は俺の顔だった。

 耳が少し尖ってるのと、犬歯が牙っぽく尖ってるのを除けば間違いなく昨日までの俺の顔だ。

 あっ、右目が光の当たり具合によって赤く光る。

 まぁしかたがないこれくらい、昨日の俺の超絶エイリアン顔に比べれば、さしたる変化とは言えないだろう。人間最低を体験すると、これくらいでは動じないのである。

 耳は髪でかくせる。いつもオールバックにしてる髪を整髪料つけずにそのまま垂らせば尖った耳の先が髪の毛でかくれる。牙っぽいのは大きく口を開けなければばれそうにないし、ばれたところで「俺、犬歯だけ長いんだよね、いわばワイルド系?」なんて言っときゃ誤魔化せんだろ。目は充血とか言えばいいわ。

 歯ブラシをくわえながら洗面所を出てリビングに向かう、お姉と珠代が二人して料理を作っている。


「おはよう深君、あーまた歯ブラシくわえたまま家の中うろうろして、行儀が悪いよ」


 フライパンでピーマンの肉詰めを焼きながら俺を注意してきたのはお姉、深見凛、俺の一つ年上で、三つ編み、おさげ、真っ黒な髪に銀縁メガネ、でもキツい印象はないのはタレ目だからだと思われる十八歳の高校三年生。神奈川県下最難関の進学校の特待クラスで日夜受験勉強に明け暮れている。目指すのは東大らしい。頑張ってほしいもんだ。


「深兄、今日は深兄の好きなきんぴら、山盛りだよー」


 にぱって感じの笑顔を見せ、俺の弁当箱にきんぴらを大量に詰めてくれているのは珠代、深見珠代、俺の二つ下で、おかっぱの黒髪、お姉によく似たタレ目で、よりほわほわした感じが強い十五歳の中学三年生。中高大とエレベーターで上がれるお嬢様女子高に通い俺以外の男と口をきいたことがないっていうお嬢様スキルを持った俺の妹。変な男に引っかかりそうな可能性がすこぶる高いわけだが、そこは俺ではどうしようもないので天に任せる。

 俺の家は共働きで両親とも朝早く夜遅い。なので家事は基本二人が分担してやっている。

 俺の出番? あるはずがない。姉貴や妹の下着とか洗える? 姉貴や妹の部屋とか掃除できる? 姉貴や妹の入った後の風呂とか洗える? いやだよハズいし、きっと二人だって嫌だろ。

 俺はキッチンのシンクでうがいをし、顔を洗う。


「もー深君水がはねるから洗面所でやってよー」

 

 おこるなお姉、なんとなくここが良いのじゃ。

 シンクに頭を突っ込み、髪も水でビジャビジャ濡らす。


「はいタオル」


 珠代がにぱっと笑顔でタオルを渡してくれる。

 頭をガジガジ拭きながらリビングのソファーに座る。

 うん大丈夫そうだね、お姉も珠代も俺の顔の変化には気がついていない感じだし、この二人が気がつかないってことなら、ほかに誰も気がつかないだろう。

 テレビをつける。朝の情報番組的なやつを垂れ流す。

『昨晩深夜一時ごろ、横浜市、保土ヶ谷区で小規模な爆発がありました。消防関係者の話によりますと、隕石の落下が原因ではないかと思われております』

 俺テレビに釘付け。

 テレビに国道十六号が写るがヒドイもんだった、片側二車線の道路が完全に寸断され、直径四、五メートル、深さ三メートルぐらいのクレーターができてる。うん、あれをおこした物体が俺の頭に直撃したのか…………いやマジ死なないでよかった。いや死んだのか、いやマジ生き返ってよかった。

 そう考えると昨日のエイリアン『ジャルパカ』にも感謝の気持ちがわいてくるから不思議だ。あいつの過失なのに、不思議だ。


「ほら深君! 早く食べちゃって」


 お姉が急かすので朝食に箸をつける。


「わーすごいねー」


 珠代が俺の横の席に座り味噌汁を持ちながらテレビを見ていった。


「うん、これぐらいで良かったのかもねー」


 お姉が俺の茶碗に飯をよそりながら言った。


「深君、昨日遅かったみたいだけど、これ見た?」


 お姉が俺に飯の入った茶碗をわたしながら聞く。


「いや見てない」

「ほら、すごい大きな、赤い流れ星が地上に落ちるの見たって人が六十人以上いるんだってよ。深君それ見なかった?」

「見てない見てない」

「ねぇ深君、そんな深夜にどこいってたの?」

「あー女、女」

「深兄彼女いるの!?」

「あーいるいる」

「どどどどどどんな人!?」

「どんな人だっていいだろ? 珠代にはかんけーねーだろ?」

「かかかかか関係あるよ!」

「なんでだよ?」

「なんででもだよ!」

「あー金髪碧眼のおっぱいぽいんぽいんのトランジスタグラマーだ。名前はアンヌ・マリーローズ。バルカン半島からの留学生」

「が! 外国人!」

「お前信じんの!?」

「嘘なの!?」

「うそだろ!」

「それじゃ日本人!?」

「そこは信じんの!?」

「そこも嘘なの!?」

「うそだろ!」

「それじゃおっぱいぺったんこ!?」

「お前どこまで信じんの!?」


 そんな感じで珠代は朝からうるさく、お姉はなぜか不機嫌。


「深君、夜遊びはほどほどにね」

「あーわかった、迷惑かからないようにする」

「迷惑とかじゃないから! すぐはぐらかして、私は心配してるの」

「あー大丈夫大丈夫、犯罪とかしてないから、身内から犯罪者出てお姉に迷惑かけることとかないから」

「深君、そんなこと誰も言ってないよ。私も珠代も深君遅いと心配だし、夜出歩くのあんま良いことじゃないよ。夜できるだけ家にいてほしいんだ私たち」 

珠代もうんうん首を縦に振る。


「あー分かった分かった、今日はうちにいるから」

「本当に深君?」

「深兄ホント!?」

「あーいるいる約束する」

 珠代はにぱって笑い、お姉は優しい笑顔で茶碗の中の米をつつく。

 アーめんどくさいことになった。

 

 お姉と珠代は姉妹だが、俺と二人は兄弟ではない。俺の本当の親父と、お姉と珠代の親父は兄弟で、俺の両親が死んだ十年前に俺はここに引き取られてきて、この家の家族として迎え入れられた。

 みんな良くしてくれている。親父さんもお袋さんも、俺を自分の子供みたいに叱ったり、愛したりして大切に育ててくれたし、お姉と珠代は俺を本当の兄弟みたいにすごくあったかく接してくれている。

 でも、だからこそなのかもしれないけど、俺は何か後ろめたさをいつも感じてしまう。

 俺はそんなにいいもんじゃないぜ?って、俺にこんなに良くしても良いことないぜ?って思ってしまう。そんなことを思ってしまう自分にほとほと呆れる。


「それじゃ、今日は深君が好きなアジの南蛮漬けにするね」


 お姉が優しく笑う。


「深兄の好きな豆ご飯も炊くよ!」


 珠代がにぱって笑う。


 その感じが俺の醜い心をより醜くさせる。

 そして逃げるみたいに俺を夜の街にいざなうんだ。



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