深見深、未知との遭遇
働いたら負けでござる―
「目―覚めた?」
「ん? ここどこ? 真っ暗なんですけど?」
「あー視覚とかって概念がないんだわ僕たち、だから再生するとき目とか機関どう作っていいか分かんなくてさ、自分でしてよ、簡単だから、意識して、見るってことを意識して、そうだな~ホントはもう見えてるんだけどそれに気がついていないだけだと思って意識して、そう、上手、意識すれば再生、構築、されていくはずだから、がんばれ! あと一息! その調子! ほ~ら目ができましたとさ~」
俺の視界がゆっくりと明るくなり、目の前にぼやけた人型が見える。少しづつピントが合ってくる。人型の輪郭がはっきりしてくる。俺の目の前にいたのは、目がなく、頭から何十本と触手を出した、大きく裂けた口から凶暴な牙が何十本とのぞく二足歩行の怪物だった。
「きょえーーー!!」
「いやいやそんなに驚かないでよ! ショックじゃん! 異文化なんだからしょうがないじゃん! 僕だってあんたのこと相当キモく見えてっけどそんなリアクションしてないでしょ? マー視覚ないから見えてはいないんだけど、でも感じてんから、キモく感じてんから、それでも真摯に対応してるでしょ? だからここは落ち着いて、深呼吸、深呼吸、取って食ったりしないから、落ち着いて、落ち着いて」
「た、食べたりしないのか?」
「食べないよ~生ものなんか食べたら体に悪すぎるでしょ~それに僕たち菜食主義で動くもの食べないんだよ~だから大丈夫、食べないし、なんもしないから」
「一つ聞いてもいいですか?」
「あ~答えられる範囲であれば~」
「あんた宇宙人?」
「そうだよ~気がついてくれてありがと、僕宇宙人、同じ銀河のお友達、ロルカル星から来ました、『ジャルパカ』といいます初めましてだね~」
「あー深見といいます。深見深、十七歳です」
「シン君、いい名前だね~どんな字を書くの~?」
「あ、はい、深いって書いてシンって読みます。深い人間になれよー的な意味が込められてるらしいです、はい」
「深い人間か~なかなか出会わないもんね~深い人間」
「宇宙にいてもそうすっか?」
「うん、宇宙って言ってもそこらへん変わんないと思うよ~思考する生命体が何人も集まればするのは権力争いと金儲けってことはどんな生命体も変わらない文化みたいだよ~」
「夢のない話っすね」
「うん、夢の希望もない話だよ」
「あ、あと聞いてもいいですか?」
「うん、なになに?」
「ここ宇宙船の中っすか?」
「ここちがうよ~宇宙船は船でしょ、つまり乗り物。ここは俺たちが地球上で拠点としている場所なの~」
「そうすっか、あと聞きたいんですけど」
「なになに~?」
「俺ってなんでここにいるんですか?」
「………………」
「なんで思いっきり目を逸らすんですか?」
「いや僕、目とかないじゃん」
「分かりました言い換えます。なんで思いっきり顔を逸らすんですか?」
「…………………」
「言いたくないことがあるんですか?」
「……………ある」
「それは真っ赤な、すごい音がする、きっと俺の頭に直撃したであろうアレのことですか」
「……………それ」
「あれなんですか?」
「ごめんなさい!」
『ジャルパカ』はすごい勢いで土下座した。美しい土下座。
「あれはこっちの手違いで! 恒星破壊装置を船から誤って落下させてしまいました! それがシン君の頭に直撃してしまいました! 落ち度はこちら側にしかありません! 0対100でこっちの落ち度です! 今回は誠に申し訳ありませんでしたー!」
「いやいやいや! 恒星破壊装置って! 恒星ってあれでしょ! 太陽とかみたく燃えてる星でしょ! すごいエネルギーの塊でしょ! なんでそんなの破壊する装置落っことしちゃってんのよ! 俺の頭に落としちゃってんのよ! 危ないでいしょうが! 地球壊す気かあんたわ!」
「地球壊す気とかまったくないの! 地球っていいじゃん? なんか神秘的じゃん? 僕たちの間で地球って今一番熱いスポットになってんだよね! 命あるものみな兄弟じゃん! 殺したり壊したりしないよ~そんな野蛮人宇宙船作れないよ~」
「じゃーなんで落としたんですか?」
「……………いねむり?」
「俺に聞くなや」
「軽く居眠りして落としました! どうもすいませんでした!」
「お前軽くいってっけど! 恒星ぶっ壊す装置いねむりで落とすなや! なに? そんなもん落とされて地球大丈夫なの? てか俺大丈夫だったの?」
「いや大丈夫なはずないじゃ~ん?」
「開き直るなや!」
「ごめんなさい!」
「地球大丈夫じゃなかったの!?」
「地球は大丈夫、奇跡的に無傷。君の頭がクッションになって装置を包み込んだから、地球にはまったく害が出ませんでた~安心安心~君って地球を救った英雄~ひゅ~」
「いやいやそれほどでも」
「いやいや、ご謙遜~ご謙遜~、君の頭が粉々に飛び散って恒星破壊装置と融合してくれなかった今頃太陽系ごと吹き飛んでたから~ひゅ~英雄~」
「お前今なんてった?」
「いやだから、英雄~ひゅ~って」
「いやその前」
「いやだから君な頭が粉々に吹き飛んで~」
「はいストップ」
「あ、はい」
「俺の頭この粉々に吹き飛んだの?」
「あ、う、うん」
「で、おれ死んだの?」
「ま~一時的には死んだってことでいいんじゃないかな、でも大丈夫! 頭部再生してあるし~生きてるよ~今は確実に生きてるよ~」
「あともう一つ」
「う、うん何かな~?」
「恒星破壊装置と俺の頭融合したの?」
「そうそうそれそれ、なんでか分からないんだけど、恒星破壊装置さ~墜落のショックでスイッチ入って~あと数十秒で太陽系を無に帰すとこだったのに~いきなりシン君と融合初めて一つになっちゃったの。なんでかな~? 分かんないな~? でもそれは本当、シン君、君今生ける恒星破壊装置、こんなの初めての事例で僕も困っちゃってるんだよね~」
「いやこまってるのは俺だろ!」
「ま~そうなんだけどね~、でも僕も困ってるんだよね~、その装置納品しなくちゃいけないんだけど。だから困ってるんだよ~君から装置外すと君死んじゃうくらい融合しちゃってるし。君を殺すわけにはいかないし。でも納品しなくちゃいけないし。すご~い困っちゃてるんだよね~」
「いやいや新しいの手配すればいいんでないの?」
「いやいや結構貴重なのよ恒星破壊装置、困ったな~(チラ、
誰か助けてくんないかな~(チラ、
一緒に来てくれるだけでいいんだけどな~(チラ、
すぐすむような要件なんだけどな~(チラ、
どっかに気のいい生きた恒星破壊装置いないかな~」
「行きませんよ」
「なんでよ!」
「チラチラされても行きませんよ」
「なに、心とかないわけ? かわいそうに思わないわけ? 僕このままじゃスゴイ責任とか取らされるかもしれないんだけどそれでいいわけ!?」
「あんたの責任でしょうが」
「いや責任はシン君にもあるって僕思うよ~」
「どこによ?」
「いや、その、具体的に、どこにって言われると今はどこって言える代物じゃないけど、きっと僕だけが悪いなんてことはないと思うよ! この世に一方だけが悪い戦争がないように! 負の連鎖が止まらないでテロルが聖戦であるように! 一方だけの価値観で物事を進めるのは危険な判断だと思うよ! 結論は先送りでいいと思うよ! その一方的な考えはマチズムすら通じる危険な思想だと思うよ! 押し付けないで勝つまでは! 宇宙人嘘つかない! 僕はここにシン君の一方的な被害者根性に対し、遺憾の意を表したいと思うよ!」
「いや絶対俺被害者でしょ」
「なんでそう決めつけるかな~? 僕には何がなんだかわからないよ」
「いやあんたさっきキレイな土下座見せてたじゃん」
「あれはとりあえず謝罪から入る僕の星のコミニケーション術だよ」
「いや0対100で自分の落ち度って言ってたじゃん」
「あれは言葉のアラ? アザ? あれ? あやだよ! そうだよあやだよ!」
「全然納得できねーし、俺もう家帰りたいし、あんたのことはしらね。好きに責任とってください。おれ関係ね、もう関わんなや」
「ふ、ふ、ふ、そんなこと言ってていいのかな~?」
「なにその全然今まで表情が読み取れなかったあんたの宇宙人全開顔でも痛いほどビッシビッシ悪意が伝わってくるドヤ顔は?」
「そう顔」
「ん? 顔?」
「そう顔だよシン君、君自分の顔どんなになってると思っているのかな~」
俺はハッとなり自分の顔を両手で撫でまわす。すごいツヤツヤでぬるぬる。そしてプルプル。「ねえ、鏡ってある?」と聞くと「鏡なんてあるはずないじゃん、僕視覚がないんだよ」って切り返されもっともだと思うが、でも自分の顔を視覚的に確認したいので、ツルツルに磨き上げられた部屋の中央にある黒い直径三メートルくらいの球体に、自分の顔を映す。
「これって?」
「いい男でしょ? 結構苦心しちゃったんだよ~」
「いやいい男ってそりゃあんた達にしてみりゃいい男だろうけどおれから見りゃクリーチャーなんですけど」