深見深、シンの意味を知る
あとから始めた、スタンドバイミー ~四人目の旦那様~の閲覧数が軽く本作を追い抜いていたでござる―
「てなわけで捕まっちゃたんだけどもシン君ケガはないかな~?」
「ケガはない」
「それはよかった十全だよ~」
「お前あれだけカッコつけといてすぐ捕獲されんのな」
「いや~部屋の中から何百体のアンドロイドが雪崩出てきた時はあせったね~」
「いやマジビビった」
「やっぱり最後は兵器力じゃなくて人海戦術だね~」
「本当に人の海だった」
「捕まっちゃったね~」
「なすすべなかった」
「ま~いいんじゃな~い、とりあえずお姉さまとは会えたわけだし~」
俺の目の前にはお姉がいる。
縛り上げられ吊るされている俺と『ジャルパカ』に光線銃らしきギラギラ光る銃を向けたお姉が。
「お姉、そろそろ事情説明してくんない?」
お姉の周りには黒いスーツに黒いネクタイ、黒いサングラスをかけた男たちが数人、お姉を囲むように立っている。
「深君、私はこんなこと望んでいなかった」
「いや俺も姉から銃口突きつけられるなんて望んでいなかったんだけど」
「深君、もう覚醒しちゃったんだね」
「覚醒? 何それ? 精通はして毛もボウボウだけど覚醒した覚えはないんだけど」
「シン君ここで下ネタかませるなんて大物だね~」
「あなたは黙っていなさい!」
ジュボって音がしてお姉の光線銃から光線が出て『ジャルパカ』の太ももに穴が開く。
「あなたさえ来なければ深君は覚醒しなかったし! 私たちは姉弟でいられたのよ! あなたさえ来なければ!」
ジュボ、もう一つ『ジャルパカ』の太ももに穴が開く。
「ねえお姉さま~人の記憶をいじくって、家族のふりをして、それで得た愛情は本物の愛情なのかな~? どんな気分~? 壊れた今はどんな気分~? 自分がいけないんでしょ~? 監視対象に心持ってかれるなんて結構まぬけな監視者だよね~」
ジュポ、もう一つ『ジャルパカ』の太ももに穴が開く。
「お姉! やめろ!」
「深君、あなたのことを撃ったっていいのよ。私に命令しないで」
「お姉、どうしちゃったのよ?」
「どうもこうもないの、これは私の仕事だから。深見深、あなたは地球に害なす可能性がある生命体です。我々に投降するのなら命まではとりません。黙っていなさい」
「あ~シン君地球の敵~」
「お前は黙ってろ俺の敵」
「シン君!? なんで!? ここまできてもツン!?」
「お姉、珠代は?」
「…………あの子は処分します」
「は? 処分て? なんで? お姉の妹だろ?」
「妹なんかじゃない! 汚らわしい!」
「いやいや汚らわしいって、可愛らしいじゃん珠代」
「シン君~可愛らしいって~あの子はレプリカントだよ~」
「は?」
「レプリカント~精巧に人に似せて作られたアンドロイドのことだよ~」
「なんでお前そんなこと分かんの?」
「匂いだよシン君~あの子はもう四十ヶ月以上稼働してるはずだからもう処分されてもおかしくないんだよ~」
「は? 四十ヶ月稼働って? 珠代十五歳だから百八十ヶ月稼働してんですけど?」
「そんなに稼働してるレプリカントは地球にいないよシン君~、地球ではレプリカントを四十八ヶ月で廃棄しなくちゃならない決まりがあるんだよ~それ以上稼働させると自我が芽生えて反乱とかしちゃうからだよ~」
「それブレードランナーだろうがSFキチが! 現実とフィクションごっちゃにするなや!」
「いや~でもこれホントの話なんだよ~細胞アポトーシス装置がついている子はいきなり溶けてなくなっちゃったりするんだけど~、あの子、珠代ちゃん? あの子にはついてなかったから普通に殺すんだろうね~」
「いやいやいや、俺四十ヶ月より前も珠代のこと知ってるんですけど、全然元気に生きてたんですけど、それはなんなの?」
「だから先代なんじゃない~?」
「先代?」
「そうだよ~四十ヶ月たったら新しいレプリカントに今までの記憶をインストールして古いのは破棄してたんじゃない~? 記憶のインストール時に自我が芽生えるような情報は排除して、まっさらな珠代ちゃんできあがり~ひゅ~今何代目なのかね~? 三代目妹! とかって少し萌えるよ、ひゅ~」
「つまり珠代は四年ごとに死んで、俺はそれを知らないで、俺はバカみたいに妹が死んでいくのを知らないで、バカみたいに生きてきたってことか?」
「ま~そ~ゆ~ことだね~、別個体に記憶を受け継がせるってことが永久の生って考え方もあるけど、死んでるよね~間違いなく肉体は四年ごとに死んでたってことになるよね~」
「お姉、お姉は知ってて、それでも心は苦しくなかったのか?」
「なに言ってるの? レプリカントは道具、パソコンだって故障すればデータだけ移植して新しい物をつかうでしょう? 道具が壊れたって心は痛まないわ」
「そんなこと言って監視対象には心動いちゃってるみたいだけどね~」
キッとお姉が『ジャルパカ』を睨む。
「ひゅ~怖いね~」
口笛を吹き、小バカにするような笑顔を見せる『ジャルパカ』。
つまりはこういうことだ。俺は自分の心が虚ろで、世の中は腐っていて、自分だけ不幸のどん底にいて、俺を包む不安みたいな霧はいつまでだって晴れなくて、不幸じゃない、虚ろじゃない奴にお前に俺の何が分かるって反発して、唾はいて、後ろ足で砂かけて、自己陶酔を繰り返してきてこれが正当な俺の不幸への対処法だって思ってきたけど勘違いしてた。
珠代は四年に一度死んでた。訳も分からず生み出されて、訳も分からず殺されて、それでも何も気がつかずににこにこ毎日俺の弁当を作り、夜は家に帰らない俺を心配して不安な気持ちになり、俺の下らない話を声を出して笑って俺の心を少しでも家に、家族に、向けようとしてくれていた。
俺はそれが嫌だった。心のどこかでお前には両親がいて、輝かしい未来があって、素晴らしい幸福があって、心の中に虚ろなんてバカみたいなものが生まれる隙なんかない恵まれた人間に俺の何が分かるって蔑んで見てたんだ。
四年に一度殺されているとんでもなく不幸な女の子に。
それでも毎日笑顔で俺を迎えてくれていた女の子に。
自分のほうが不幸だなんて思ってあたってたんだ。
四十八ヶ月しか生きられない大切な時間を、下らない俺なんかのために使わせていたんだ。そしてそれを俺は大切な時間を俺は、ドブに捨てるように使い捨てていたんだ。
自分が不幸だから俺は何をしてもいいって思ってた。
そしてひどい扱いをしていた女の子は俺なんかよりずっと不幸だった。
不幸なのに、ずっと、笑顔だった。
「ああああああ!!!!」
言葉にならない声が喉から溢れ出て止まらない。
叫ばずにはいられない。
憤りと、怒りと、後悔と、懺悔と、自分への怒りと、世界への怒りと、珠代が今まで背負ってきた苦痛への怒りと、それを強いてきたすべての人間への怒りが言葉にならずに声として、音として、叫びとして、悲しみとして、喉を通って空気を揺さぶる。
「許さねーからな!」
右目の奥が痛い。
「お前ら全員許さねーからな!」
頭が割れるように痛い。
「お前ら全員珠代と同じように殺してやるからな!」
視界が急激に赤くなって、音が全て波で見える。
「こんな世界全部ぶっ壊してやるからな!」
頭が弾けて、熱い何かが右耳の上から流れ出してくる。赤い、そして熱い。溢れ出してくる光の束が部屋全体を焼き尽くす、蒸発させる、無に帰す。コントロールできないエネルギーの束が大蛇のように部屋の中を浄化していく、コントロールなんかする必要はない、コントロールはいらない、すべて殺すのだからコントロールなんて足枷でしかない。
「ひゅ~さすが生きてる恒星破壊装置ぃ~! 今日が太陽系最後の日になるかもね~!」
「やめなさい深見深! お前は地球を破壊するつもりか!」
「なに言ってるのお姉さま~シン君は地球を破壊するつもりなんだよ~」
「エイリアン! お前深見深に何をした! 何を融合させた! 貴重なシン・ギュラリティに何を融合させたんだ!」
「あ~やっぱりシン君は特異点なんだ~これで納得したよ~なんでシン君と恒星破壊装置が融合したのか、なんで僕が地球人の姿になったのか、なんで君たちがシン君を監視対象にしていたのか、それがすべて分かったよ~。
人類を次の段階に押し上げる個体。
ミトコンドリアイブと同じ、人類進化の特異点。
こりゃ太陽系本当に滅ぶんじゃね」
「サイコフィールドを張れ! 熱量がすごい! 液体窒素散布!」
「そんなことしても無駄だよ~今は少し漏れ出しただけだけど、シン君の頭の中には恒星を七個飲み込んだ恒星破壊装置、『恒星落とし』(エネミー・ダウン)が入ってるんだから~」
「どうにかしろエイリアン!」
「そんなこと言われても困っちゃうよ~シン君をぶっ壊したのはお姉さまでしょ~?」
「お前も死ぬんだぞ!」
「僕は死なないよ~勘違いしないで、僕は恒星の中で生まれた種族『火蜥蜴』(サラマンダー)だよ~漏れ出したくらいの熱量なら痛くもかゆくもないんだよ~」
【とは言っても、このままじゃシン君の自我が崩壊しちゃうね~】
『ジャルパカ』はくるりと体をくねらせエネルギーの波の中を泳いぎ、深の体に絡みつく。
「ごめんねシン君~ちょっと痛いよ~」
鋭い牙で深の首筋に齧り付く。
☆☆☆☆
「さっきも言ったけど著作権大丈夫なの?」
「なんの話~?」
「レプリカント、名称から設定までダダパクリだろこれ?」
「なに言ってんの偶然の一致だよ~ワタシニホンゴワカラナイヨ~」
「お前、訴えられるとききっと英語だぞ」