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紫の中の人  作者: 春猫
8/12

疲の人

おそらく、あと2~3回で完結出来るかと^^;


 「あれ」から一週間、次から次へと起こるトラブル、現実になってしまった事に対応する為の様々な組織、ルールへの対応、かつてはNPCとして無視しても問題無かった街や村の住人との関係・・・胡散臭いながらも外見的には清潔な美形であったムラサキは、今や無精髭、目の下の隈、ボサボサで艶を無くした髪と、見る影も無い有様になっている。


 ほとんど同じ様な状況であった緑は、この臨時の執務室となったスタッフ用スペースに据付のソファで寝ている。

 サポートNPCたちは今や普通の人間になってしまったので、無理なスケジュールに完全に付き合わせる事も出来ず、交代勤務となっているため、自分の手でやらなくては行けない事が異様に増えているのだ。




 「ムラサキさん、ちーっす。なんとか生きてるみたいですねぇ。報告ありますけど聞けます、今?」


 あの後、なし崩し的にムラサキたちのサポートに組み込まれてしまったルーテルのメンバーである男の娘テン・ドンが双子の妹カツと共に顔を見せる。


 ゲームであった時はノリノリであった女装も、現実となってしまうと複雑なようで、しかしながら外見的に似合う服も限られ、ボーイッシュな女の子的な服装を今は着ている。

 「フリフリは流石に動きづらいんで」とは本人のコメント。

 ロリ・僕っ子である為、対照的に少年っぽい服を多く所有していた妹と、かなりの服を交換したという話もある。


 「ムラサキはいい加減、風呂に入ってくるのですよ! 流石に同じ部屋に居たくない有様になってるのです。」


 部屋の窓を開けて換気をしながら、カツが嫌そうに声をかけてくる。

 突貫的に現実化に対応した改装があちこちで行われ、ユニットバス的な構造のトイレ、風呂、シャワー、洗面台がセットになった「お風呂ユニット」が開発された事もあって、日本に居た頃のまま、多くの元・プレイヤーが清潔な生活を保てているし、若い世代(特に女性)を中心に元・NPCの街の人にも「お風呂ユニット」は広まっている。


 「あれ」以降、睡眠・食事その他を除いて働きづめで、睡眠も仮眠レベルのムラサキは、その恩恵をこうむる事が出来ず、この街での不潔度ランキングなるものがあれば、上位入賞間違いなしの有様となっている。


 「あー、分かった、取り敢えず報告聞いて、緑起こしたら一眠りして、起きたらシャワーでも浴びる事にする。今、風呂入ったら余裕で溺死出来るからな。で、報告は何?」


 

 「行方不明者の実数とその実情がある程度まとまったんで、その報告だよ。」


 

 自称女神の駄目だしに付随していた「この世界からの追放」、本当だか嘘だか分からない話、でもかなり本当っぽい、と試す人間も少なかった訳だが、まったく居なかったという訳ではない。


 特に余り他者と交流せず、ソロでのプレイのみを続けていた者の中にはPKや自傷を行う者も出て、未遂の段階で取り押さえられた者を収容する施設等も新規に建設されたりしている。


 

 「明確なPKは確認出来てる限り完全に消滅してるね、フレのリストからも消えてるらしい。それからPKKの場合、正当防衛的な者はセーフだけど、VRMMO時代にやられたからやり返す的なものはアウトみたい。あくまでこの世界とVRMMOは別物と考えた方がいい感じだね。でもってMPKだけど、過失的なものはセーフ、意図的なトレインなんかによるものはアウト。その辺の見分けがついてるっぽいのが、実にゲームっぽくないねぇ。で結果としてPK系、PKK系ギルドはかなり壊滅してる。」


 「了解、そうなると命に関わるものは大丈夫そうだというわけだな。痛め付けとか性的なものとか盗みとかはどうなってる?」


 「その辺、女神様の世界ってだけあって、性的な方向は厳しそうなのですよ。頭の中身がお子ちゃまなプレイヤーが何人も消えてるです。たぶん、元NPC辺りにちょっかい出そうとしたんじゃないかと思われるのです。痛め付けの方は少なくともギルド内の訓練とか、酒を飲んでの喧嘩とかでは消えてないです。内面的な部分もチェックが入ってると思われるので、嗜虐的な行為や監禁を伴ったりするのはアウトじゃないかと。で、盗みは消えるまでは行かなくて、勝手に持ち出そうとした瞬間に行動不能になるみたいです。お店の人に凹られたりしてるのですね、まあ、自業自得なんで、殺すまでいかなければ放置でいいかと。」


 「なんか、女神様、頼り無さそうだったけど、有能だねぇ。」


 「まあ、これだけの事しでかしてる訳だから、能力自体はあるんだろうね。」


 「だから有能な女神様に任せて、ムラサキもとっととシャワー浴びて、着替えてくるべきなのです。」


 「いや、一眠りして・・・。」

 

 「寝て起きたら忘れてるに違いないのです。さあ、さっさと行くのです!」


 「うーん、僕もそうした方がいいと思うよ? 流石にちょっと動くたびに臭うのは・・・。」


 「そんなにクサいか?」


 どよーんと沈みながらも、小さな手に背中を押されてバスルームへと追いやられるムラサキ。


 「シャワー浴びるのはいいとして、服の洗濯とかどうすんだ? このローブとか洗っちゃって平気なのか?」


 独り言にドアを開け籠を持った手が突き出される。

 

 「着てたものはこれにいれるのです。インナーは普通に洗濯ですが、ローブは『浄化』の魔法が使える人間に頼まなくてはならないのです。バッチくて触りたくないですが、やってやるので感謝するのですよ!」


 「あ、ありがとな・・・。」


 浴びるまでは面倒でも浴びてしまえばやはり気持ちのいいものだ。

 ムラサキはシャワーを浴び終えると洗面台に向かい自分の顔を見る。


 無精髭、目の下の隈、よく普通にあの双子が応対していてくれたものだと思ってしまう外見だ。


 「そういや歯も磨いてねぇよ。モンスターの毛で歯ブラシを職人が作ったとかで見本持って来たよな。」

 腰にタオルを巻き、部屋に戻り机の引き出しを漁ると、歯ブラシを見つけ出して洗面台へと戻る。


 「歯磨き粉も欲しいなぁ・・・髭も安全剃刀とか無いよな、こっちの床屋って髭も剃ってくれんのかなぁ・・・。」

 こちらの世界に来て更に増えた独り言を、口に歯ブラシを咥えた不明瞭な発音で漏らす。


 「僕も毛先揃えてもらうレベルしかやってもらった事ないけど、剃刀も置いてたから、たぶん、やってもらえると思うよ?」


 「おわっ、居たのか!」

 

 ドアの向こうからの声に焦り、口の中のブラシを頬にガリっとやってしまう。


 「洗濯行ったのは妹だけだからね。あ、着替え置いとくよ、ここに。」


 「何から何まで済まないな。」


 「また、ラーメンでも奢ってくれればいいよ。」


 「りょーかい!」

 見えない相手にそれでも敬礼のポーズを取って答える。


 コップに汲んだ水で口をゆすぐ、シャワーを浴びた事と合わせてかなりさっぱりとした。


 着替えに袖を通し「清潔な服はいいなぁ」としみじみ。


 部屋に戻り、改めてテンに礼をいい、空いているソファに座ると疲労感と睡魔がタッグを組んで襲ってくる。

 体が液体化してしまったかの様に、ずぶずぶにソファに崩れ落ちる。


 

 「お疲れ様、おやすみ。」


 かけられた毛布に片手で返礼したのは現実か、夢の中か。


 

 ムラサキが目を覚ました時に顔を合わせたのは、同じ様な目にあったのかさっぱりとした身なりに戻っている緑の同僚であった。

疲れが一定レベルを超えれば机の下だろうが、二連にした椅子だろうが眠れます

で、それを経験すると自宅の布団やベッドで眠れる事が如何に極楽であるかという事に気づきますwww

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