労の人
GWで一旦リセット入って更新遅くなりました
申し訳ありません^^;
「ムラサキさーん!」
転移した彼の腹に頭突きをかます勢いで飛び込んで来た少女を片手で制しながら、「女くせー」と内心ため息をこぼす。
バイトちゃんからのSOSで転移した彼が立っている場所はポルポル第二の都市であり、「女の都」と呼ばれるラクネスサという町の広場だ。
オープンスペースであるにも関わらず、街全てが女性というだけあって、そこで生じる臭いも男性がかなり多い王都に比べるとどこか女子の着替えに割り振られた教室に戻ってきた男子生徒の感じるような、なんとも言えない女臭さ(まあ、野郎臭さにくらべれば随分マシなのだが)を感じさせて、男性には少しばかり長期滞在を躊躇わせる様相を呈しているのだ。
「で、要領得ないから来てみたけど、どういう状況?」
「ピンチなんです」「大変なんです」「助けて下さい」と言うばかりで、一向に進まない状況報告に王都側を緑に任せた紫がこちらに来る事になったのだ。
バイトちゃんは、社長の姪の高校時代の同級生というコネで入ってきた子だが、それなりに気が回る事とVRMMO慣れしているという事もあって、内部サポートを担当し、女性だという点からこの街にほぼ常駐に近い形でトラブル対応に当たっていたが、流石にこの様な特殊というか、トンデモな状況ではキャパシティをオーバーしてしまっても責めるわけにはいかないだろう。
紫に限らず内部組や開発スタッフには可愛がられており、内部でのキャラクターは彼女オリジナル仕様の眼鏡っ子戦闘メイドで、主武器のデッキブラシは非殺傷設定付非公式チート武器である。
「・・・・・・トイレです。」
「は・・・・・・?」
単語を言われても意味不明である。
思わず「行きたいなら行けば?」と言い掛けて、「そういうことかよ」とため息をつく。
現実で汗もかく様になってしまったこの世界。
当然、そっちの問題も出てくる訳だが、通常、プレイヤーが出入りする店や宿などにはトイレは存在しない。
この辺り、開発スタッフでも論議の的となったが、「元となる『排泄のデータ』をどうやって取るんよ?」の一言で「アイドル仕様にしましょう」となった。
それでなくても、かなり膨大なデータを扱っているポルポルは、アップデートの際に追加をする為に一部のデータを消去したりもしているので、最初に組み込まれていたとしても、消された可能性は高い。
それが現在は仇となっているわけだ。
男性なら、小ならわりとどこでも出来る。
実際には現実になってしまった事で、臭いその他の問題もあるのだが、それでも女性よりは問題は少ないのだ。
しかしながら女性の場合はそうはいかない。
おそらくは王都や他の街でも、今現在、女性プレイヤーが頭を抱えたり、追い込まれたりしているだろうが、ポルポル内で最も女性比率の高いこの街が真っ先にその問題が顕在化したのは当然の話と言えるだろう。
それにトイレの設備だけを作ってオッケーとは行かない事は、現実で妹2人を持つ村前にはわかってしまった。
トイレットペーパーやサニタリー系用品、海外から日本に来た人間が買っていったり、海外に行く際には持って行ったり等、かなり使い心地がいいらしい日本の製品に慣れた女性が、この何も無い状況に多大なストレスにさらされる事は簡単に予見出来る。
(服飾系のスキルでなんとかなるのかなぁ・・・設備も含めて生産系の人間集めて話をする機会を設けないとだな。)
ともあれ、すぐに対処すべきはトイレ設備そのものだろう。
オタつくバイトちゃんを前に冷静になってしまった村前は、彼女を落ち着ける様、淡々と具体的な指示を出す事にする。
彼から直接プレイヤーに指示を出す事は、問題が問題だけに双方に抵抗があるだろう。
「まずは『桜の園』に話を通してくれないか? あそこは学校の建物を再現しているからトイレ自体は存在するはずだ。緊急事態なんで、ギルド員以外の人間にも開放してくれるよう頼んでくれ。それから、切羽詰った人間はNPCの家のトイレを借りる様に言ってくれ。NPCから普通の人間になっていると思われるから、彼らの住む家には一通りの設備は存在する筈だ。まずは、この街の人間に、その後、他の街の女性プレイヤーにも流して欲しい。こっちは、他にも想定出来てしまうトラブルに対応する為に、生産系のギルドを中心にアナウンスを流す。」
「は、はい・・・えっとまずはCBHですね。」
「そう、場合によっては、周知も手伝ってもらえ。あそこの人は基本的に『大人』だから。」
「分かりました。それでしたら、これから直接行って来ます!」
「何かあったら、俺か緑に言えよ!」
「ありがとうございます、頑張ります。」
こんな状況になってしまった事に対するショックも受ける暇も無い事は、今の彼女にしてみるとある意味幸運かもしれない。
やらなくてはいけない事があると、徹底的に落ち込んだりする事も出来ないものだ。
転移を使えばいいものを、人を掻き分ける様に走っていくメイドの後姿に声をかけようかとした村前は「ま、いっか」と苦笑を浮かべ、王都へと転移をした。
「足りない物が多すぎるし、放置するとあっという間にゴミと汚物に街が埋まるぞ? なもんで動く気のある奴、もとい動ける奴は全員、手を貸してもらう。」
村前は王都に戻るなり、周囲のプレイヤーやスタッフに声をかける。
まだ、現時点ではフィールドに出ようとする者は少なく、街のあちこちで友人や顔見知りと固まって話をしている人間も多い。
「元NPC、現町の人への聞き込みは一般プレイヤーにお願いしたい。聞く事はまず、二点『ゴミの処理はどうしているか』と『トイレの作りはどうなっているか』だ。ゴミは特に生ゴミ。ここの特性から食い物の生ゴミが半端なく出るはずだ、その処理は今まで無視させてもらってきたが、現実になってしまったらしい今は無視できない。暖かく過ごしやすいここの気候は、生ゴミの腐敗という点で言えば最悪だ。トイレは汲み取りなのか、水洗なのか、はたまた別のシステムなのか。普通に大工に頼めば作れるのか、専門の業者や職人が居るのか。業者や職人が居る場合はその名前とどこに居るのかも聞いてくれ。他にも自分で思いついて気になった事は聞いて、その答えをこっちにあげてもらえると有り難い。」
拡声の魔法を使い、まずは近場の人間に声をかける。
「次いで生産系、今言った物に関して、作る必要が生じた場合の協力と、それ以外に現実になってしまった為に必要となる物、もしくはその代替品の生産を頼む。まずは紙、トイレットペーパーもしくはティッシュの代わりになるもの、次いでサニタリー系、メンバーや友人に女性が居る者も多いと思うが、野郎なら『ちっと不便だな』で済む事も女性の場合は大変だったり、それどころで済まない場合もある。他にもこれから暮らしていく為に思いもよらぬ物が必要となる事もあるだろう。そうした事も含めた生産に関しての知恵出しや実務での協力をお願いしたい。これは後で他の街に居る人間に対してもアナウンスを行う。全ての物の開発に関して、こちらで関与していくのは難しいと思うので、出来れば商工会みたいなものを作って欲しい。」
(ま、他にもあるが、今はこれくらいにしとかないと、やる前に途方に暮れちまうからなぁ・・・。)
一通りの指示を出し、それに合わせて動き始める人間を見た村前は拡声の魔法を切り、手近の人間に話しかける。
「現状と問題点とトラブルの吸い上げに追われる前に、取り敢えずの指示を出してみた。まあ、なんで俺がやってるんだろ? とかはあるけどな。」
「ムラサキさん居る時で良かったっすよ。赤い人の時だったらなんて考えると・・・。」
「下手すんと、俺もお前もしばらくノンストップ営業だからな、ある程度はケリが着くまでは休めんぞ?」
「自称・女神さまももう少しサービスして欲しいトコですよねぇ。」
「なんか良く分かってないっぽいトコもあったからな、実働は別の可能性も高い。」
「まあ、する事あった方が楽っすけどねぇ。」
会話する紫と緑に、ルーテルのメンバーが声をかけてくる。
「ウチらも手伝ったほうがいいよね?」
「頼めるか? じゃねーや、ラーメン奢ってやったんだからキリキリ働け!」
「ムラサキは横暴なのです。」
「まあ、この状況でいきなり狩りに出るよりはマシだけどねぇ。」
「そっちもなあ。下手すんと肉屋や狩人に捌き方教室開いてもらわないと駄目かもしれんしなぁ。」
「うわぁ、そっか、スプラッタの可能性あるのか。」
「ただ、狩ってたモンスター肉が街の食品需要支えてた部分もあるだろうし、狩り自体を無くす訳にもいかんだろうしなぁ。」
「パーティじゃなくレイドを組んだ方がいいかもね、少なくとも最初は。」
「僕は取り敢えず知り合いの職人に当たってみるよ。」
「私は自分の事も考えてトイレ関連当たってみます、今は平気だけど、後を考えるとね?」
「脳筋系集めて自警団も作っときます?」
「あんま脳筋過ぎてもなぁ、頭はある程度良識無いと厳しいぞ?」
「まあ、ともかく動いてみましょう。」
散っていく面々を視線で追いながら、まずはこの街の最大手生産系ギルドにでも顔を出すか等と村前は思案を重ねるのであった。
「なまじ責任感と能力あると大変っすねぇ。」等と串焼き片手に呟く緑を睨みつつ・・・。
別作品ではお便利魔法設備で誤魔化した部分について触れてみました
まあ、あまり生々しく書くのも憚れる話題ですが^^;
メーカーにシミュレータとして、一部領域を貸し出ししてて、それをとかも考えましたが、そっちの説明長々と語る事になりそうなので避けました