惑の人
ほぼ予定通りです
没ネタは2つほどありますがww
キャパがそれほど大きくない屋台に、一気に人が押しかけたという事もあって、一度に全員がラーメンを食べるという訳にもいかず、かといって自分が食い終わったからと仲間を置いてどこかに行く事も出来ず、代わる代わるカウンターでラーメンを食べ、食べ終わった人間はその周りでまだ食べて無い者や、同じ様にラーメンに惹かれてやってきた初対面の相手などと雑談をするといった形で、ラーメン屋台の周りには人がかなり集まって、友好の輪が広がったり、間接的な知り合いである事を発見したりとにぎやかな状態になっていた。
「おお、紫の人と緑の人だ。」
通りがかった人間の視線の先には、二人の色違いのローブ姿。
早々に食べ終わった緑と、一緒に来た人間どころか後から来た人間にも先を譲っている紫。
「いやあ、トンコツもいいけど鶏がらスープもいけますねぇ。」
「デケド使ったんだって? まあ、基本データはあれ、烏骨鶏だけどさ、動き速くてソロじゃ厳しくね?」
「その辺はおそらく、ゲームのモンスターと見てる人間と食材と見てる人間の違いでしょうねぇ。」
「焼き鳥にすんには、ちと歯ごたえあるんだよなぁ、あれ。煮込むといけるけど。」
「ぱっと見、白モフフワの羽毛で可愛いんですけど、顔や地肌の見えるトコは結構グロいです、あいつら。」
「リアルでも帰りにラーメン食ってくかなあ。でも、ここのが美味いとハズレ引いた時のダメージがなぁ。」
「近場の異様に静かな、爺さん、婆さんでやってた中華料理屋なくなっちゃいましたしねぇ。」
「あそこ、怖かったよなぁ、調理の音、一切聞こえないのに、ちゃんと料理が出てくるし。」
その瞬間は、ほとんどの人間が「気のせいか」と思う程度のものであった。
まばたき程度のコンマ数秒のブラックアウト。
【えーっと、皆さんこんにちわ。私は女神です。皆さんにお伝えしなくてはいけない事がありますので、ちょっとの間、お時間をいただきますね。】
「え、なになに、突発イベント?」
「おお、ラッキー、もしかして?」
「えー、もうちょいで強制ログアウト限界なのに!」
「あははは、廃人乙wwww。」
透き通る様な女性の声、ただしその言葉はたどたどしく、どこか紙に書いてあるものを読んでいるようなぎこちなさがあった。
(ムラサキさん、これって?)
(社の方のじゃねーぞ、これ。こんな素人丸出しのアナウンスじゃ、始末書もんだ。)
こそこそと、直接通話で話す社員二人。
【まず一点、みなさんは、ここからログアウト出来ません。簡単に言うとこれから、ここが皆さんの現実です。】
(なんなんだ、これは「まるでデスゲームみたい」じゃないか?)
(いや、不可能でしょ、物理的に!)
彼らの内緒話の言う通り、このポルポルに限らずVR機は物理的にハッキングが不可能な作りになっている。
キャラクター及びアイテムデータの保存以外でのデータ書き込みは出来ない上に、システム基幹部分は三位一体形式で一つだけ外部に接続し、残り二つが常時監視とバックアップを行っている。
回線にしても、国外からのサーバ接続どころか、VR認証が一致しないVR機からのアクセスすら遮断するし、VR機以外では接続出来ない。
アップデート作業には、中と外からの同時アクセスが必要な上に、社員一人ひとりに割り振られたハードウェアキー付きのノートパソコンの接続が不可欠であり、その担当社員も完全にランダムで指名される。
この辺りの過剰とも言える体制は、ゲーム業界の役人との戦いの歴史の産物ともいえるものだ。
VRMMOどころか、パソコンやインターネットですら専門とは言えない相手に対して、絶対的な安全を保障するという苦難。
国内初のVRMMO(輸入タイトルであり、日本語カスタマイズ化と、一部アイテム、イベント等の改変のみを行った作品であった)担当プロデューサーは「こんな目に会うんだったら、『日本初!』なんで肩書きいらねーよ!」と大いにぼやいた。
なにせ、どっかから聞きかじってきた知識を元に「ウィルスに感染して利用者の健康に影響が出たらどうするのですか?」と、あたかもネットを媒介して病気に感染する様な事を言い出す人間まで居る始末。
回線に関するセキュリティを納得したかと思えば「それでもウィルスは・・・」と言い出す役人に、「コンピュータウィルスは空気感染しません!」とぶち切れたゲーム会社の人間を責めるのは可哀想過ぎる話だ。
そんなレベルの人間にも「なるほど、安全だ」と納得させる血を吐きながらのマラソンの様な交渉の結果、「それ、ハッキングには何の意味も無いよね?」というものまで含めた対策案が義務付けられ、軍事機密顔負けのセキュリティ(実際には日本の場合、国防系は結構ザルであるので、軍事機密以上のセキュリティなのだが)を持つ事になり、ポルポルもそれに準拠したセキュリティを持っているのだ。
【しばらくは移行期間という事で「特別に」おまけを付けます。皆さん、ステータス画面をご覧下さい。】
(しっかりとログアウトが消えてるじゃねーか、マジかよ。)
(とりあえず、こっちからのアナウンスは「これ」が終わってからしかないっすよねぇ。)
少なくとも現状は皆、話を聞いているのかおとなしくしている。
平然とラーメンをすすったり、焼き鳥にかじりついたりしている人間もいるが・・・。
【HP、MPの下にLPという数値があると思います。』
(確かに「ある」な。)
(マジでハッキングっすか?)
(いや、内部犯でも不可能なんだぞ?)
【この数値は「死んでも平気な回数です」某ゲームの皇帝さんのものをパクらせてもらいました! 突然なんで、ここに来た時点で危ない場所に居たり、危ない状況にあって死んでしまってそれっきりというのも可哀想なので、パワーをいっぱい使っちゃいますけど、なんとかしました! このポイントがある内は、死んでしまっても拠点として登録した町の神殿で復活出来ます。効果は三ヶ月間です。その間に身の振り方を決めたり、色々と慣れていってください。】
(なんか「えっへん、どうです、すごいでしょ!」って言外の台詞が聞こえた気がするんだが?)
(この人、いったい誰なんすかねぇ、声は美人っぽいですけど。)
(精神年齢は低そうじゃね?)
(ああー、それはあるかも?)
【基本的にこの世界は「死んだらそれまで」です。なにせ「現実」ですから。それから、皆さんに楽しく暮らして欲しいので、えっと「ぴーけー」でしたっけ? 人を殺したりとか悪いことをしたら「めっ!」です。この世界から追い出させて貰います。】
(PK禁止を宣言、死ぬけど殺し合いはさせないって事?)
(でも禁止周知は有り難いっす。やけになると普段まじめ、というか優良プレイヤーでも何するかわからないですし。)
(追い出されたら元の世界に戻れるんだったら、逆にヤバいぞ?)
(うわっ、それ最悪っすね、命がけの椅子取りゲームっすか?)
【皆さんは何をしても「元の世界には戻れません」、はい、これは確定です。戻しようが無いですし。追い出した人はどこに行くか分かりません、運が良ければどこか別の世界に、悪ければどこにもいけません。】
(言ってる事が本当ならペナルティ大き過ぎじゃね?)
(まあ、「試してみる」気起きないレベルですよねぇ。)
【最後に中の人たち、えーっと、元の権限と能力は使えるようになってますんで、サポート宜しくお願いします。それじゃあ、みんなで楽しく過ごしてね、またねぇ!】
「ちょ、ちょっと待て!なんだ、それ!?」
「わけがわからないよ?」
「その様子見る限り、イベントじゃ無さそうですねぇ。」
周囲の視線が集まるのを感じて、逆に周囲を見返す二人の魔導師。
マッドな開発者でも、魔王でも無く、どこかぽわぽわとした女性の声で告げられた内容に、誰も彼もが思考がストップしたかの様な状態になっている。
酷いと言えば酷いが、どこかぬるい状況。
やけになって泣き叫ぶほど追い詰められる訳でもなく、かといって今までのゲームのノリで過ごすには重すぎる内容。
「まあ、腹が減っては戦は出来ぬって言うし、これからどうなるにせよ、今すぐどうこうって事もないだろ・・・ってなわけで、ラーメン頼む。」
「あ、はい・・・にしても、やっぱムラサキさん図太いですねぇ、噂通り。」
狙ってやったわけではないが、その余りにも普通の態度に、周囲も徐々に「普通」へと戻っていく。
ラーメンを食い終わり、幸せそうに「額の汗をぬぐう」紫の中の人。
今までなら、単なる現実の癖を反映しただけのジェスチャーに過ぎなかったものが、しっかりと手の甲に汗の感触がある。
「うまかった、ごちそうさん。・・・にしても、さっきの少なくとも一部は本当っぽいなぁ。」
「なにがっすか?」
「うん? ああ、汗。汗かいてるよ、俺。」
「あー、『現実』って事っすか。」
現実そっくりでも、汗や排泄は無かったポルポルの世界(涙は感情表現のひとつとして流す事が出来た)。
無かった筈の「汗」が否応無く「現実」を突きつけてくる。
前途の大変さを思い沈み込んだ彼の思考は、飛び込んで来たバイトちゃんからの遠隔通話で強制的に中断させられる事になったのであった。
次回で問題発生
解決まで行くかどうかは未定です