街の人
この物語の前段階の話として掲示板ログ形式の短編を以前に投稿してます
VRMMO開発会社の中の人だけど(ry
http://ncode.syosetu.com/n6891bd/
読まなくても影響はありませんが、よろしければ^^
ポルポルは他のVRMMOに比べ街の重要度が高い。
ログインからログアウトまで、街から一歩も出ずに過ごすどころか、キャラクター作成以後、一度もフィールドに出た事の無い者もかなり存在する。
それは、観光、食べ歩きメインのライト女性ユーザーの占める比重が大きいが、彼女の様にポルポル内での「仕事」の為、街にこもっている者もかなり居る。
他のVRMMO、MMOでも見られる「生産系プレイヤー」である。
「グズフの実50個とヘビモスの繭20個ね。9,260G。」
グズフの実は、ほとんどの動植物が食べられるこの世界には珍しく、強い苦味の為食用に適していない木の実。
だが、少しくすんだ藍色の実は、煮込む事で鮮やかなブルーの染料となる。
ベヒモスの誤植と間違えられそうなヘビモスは、鮮やかなオレンジ色の蛾の一種で広げた羽が毒蛇の頭部に似ている。
その幼虫の作る繭は、絹に似た肌触りで、絹以上の強度を持つ糸が取れる。
まあ、この世界では染料の製作も、糸紡ぎもスキルコマンドで出来てしまうのだが、彼女はこだわって中でも手作業で布や糸を作っている。
大学の選択科目で取った染色の授業、その後の社会人生活には全く役には立たなかったけれど、その楽しさは忘れられず、このポルポルの世界でそれが行えると知って、躊躇いも無くこの職業を選んだのだ。
「いつもありがとうございます。」
「こっちも助かってるからね、お互い様。この後は暇?」
「いえ、ガイさんトコに・・・。」
「まだ、やってんの? けなげな子ね・・・あのラーメンバカにはもったいない。」
「いえいえ、あの、お手伝い楽しいですし・・・。」
「その様子じゃ進展は無さそうね。」
赤い顔をして黙ってしまう軽装ながら野外向きの服装をした女の子を前に、受け取った木の実を甕にしまう
目の前の採取系プレイヤーは、リアルでもちょっとした知り合いで、自分より後に彼女がこのポルポルを始めてから色々と気遣ったり、こっそりと手を貸したりしてきた。
最近ではすっかりとこの世界にも慣れ、屋台のラーメン屋の押しかけ看板娘として、自分の知らない所でも顔を知られるようになってきている。
なんだか、自分の手を離れて巣立とうとしているようで、少し寂しさを感じたりもしているのだ。
「まあ、すぐに現実での住所やメアドなんかの情報を知りたがるアホなナンパ系の男じゃないのが救いかもねぇ」
「ガイさんは、そんな人じゃありませんよお。」
「分かったって、ほら、そんなにムキになるんじゃないの。まったく・・・。ボチボチ行かないと間に合わないんじゃないの?」
「あ! そうでした、着替えてお手伝いに行かないと!」
「後で食べにいくからね!」
「そんな事言って、また作業に集中して忘れたりしないでくださいね!」
「はいはい、ちゃんと行くから、あんたも頑張んなさいよ!」
「まかせてください!」
元気に立ち去る女の子を見つつ「若いなぁ」と思ってしまう。
彼女も女性ではあるし、友達とコイバナをしたりもするが、いつも聞く側。
別に恋愛に興味が無い訳ではないし、「いいなぁ」と思う相手に会う事もあるのだが、自分の中で恋愛の占める優先順位が低いのだ。
そういった事をする時間を別の事に当てたくなってしまう。
合コン等に誘われても、よっぽど断れない状況で無い限りは参加しない。
親は心配→せっつき→諦めと、最近では見合い等の話も無い。
「さてと、それじゃあ、ちゃっちゃと染料作ってラーメンでも食べに行く事にしましょうかね。」
掛け声の様な独り言で気合を入れ、染料製作の作業に入る。
「おっと、いけない」
店のドアの看板を「CLOSED」に変え、奥の作業場へと彼女は入っていった。
一方、店を後にした看板娘?は、借りている宿屋の一室で、インベントリから取り出したいくつかの服を並べてうなっている。
店の手伝いで接客をして働くのであって、過度に華美な服を着ていく訳にはいかない。
でも、気になる男性と会うのに、全く飾りっけの無い衣装というのも女性として駄目な気がする。
お客さんには「可愛いね」と言われる事もあるが、彼に言って・・・いや、間違っても言いそうに無いんで、せめて「思って」欲しい。
色々悩んだ末、時間が無い事に気づき、結局いつもと同じ様な服を選んでしまう。
宿を出て、左に曲がり、やや大きめの通りに出るとそれを北に。
少し進むと噴水を中心に開けた場所がある。
元々、公園の様なスペースだったそこには幾つかの屋台も出ていて、そこにプレイヤーの屋台が更に追加され、今では「屋台広場」と呼ばれるようになっている。
その一角、水呑場に近いいつもの位置に、ちょうど着いたばかりなのか椅子を並べようとしている青年の姿が見えた。
「おはようございます、ガイさん!」
「おはよう。」
なかなか名前で呼んでくれない彼に、アピールする意味でも常に呼びかける時は相手の名前をつけている。
そんな彼女の内心も知らず、相変わらずの返事を返す青年。
「飯食ってきた?」
「いえ、食べてないです。」
「そっか。良かったらだけど、新しいスープを作ってみたんだ。食べて貰えるかな?」
不意打ちの笑顔に一瞬、脳がストップする。
「嫌か?」
「いやじゃありませんっ! 是非っ!」
元々、この店のラーメンが好きだった。
何回も通って、時々話したりして、余りのお客さんの多さに手を貸したのが始まり。
その後は遠慮する彼を押し切る形で「押しかけ看板娘」として、屋台を出すのを手伝ってきた。
新作のラーメンが食べたくない、なんて訳が無い。
彼女の予想外の声の大きさに、ちょっとびっくりした顔をしていた彼は、それでも嬉しそうに笑うと「じゃ、とりあえず準備終わらせちゃおう、そしたら、すぐに作るから」と声をかけてくる。
「はい」と返事をし、手渡された布巾を水呑場で濡らして、カウンターと椅子を拭いていく。
「デケドの骨ベースで作ってみたんだけどな。」
そう言って彼が出してきたのは、いつものスープより透明度の高いスープのラーメン。
デケドと言うのは、二足歩行の恐竜に羽毛をつけて鶏風にアレンジした様なモンスター。
白い羽に黒い肌、かなりのスピードで動き、しかも群れで行動する、かなり厄介な相手だ。
「あいつら、なんか烏骨鶏っぽいだろ? なもんで、やってみたらどんぴしゃ。いいスープになった。」
普段は比較的口が重い彼だが、ラーメンに関してはかなり饒舌となる。
自分が納得いくラーメンが作れた時は特に機嫌がいい。
「スープに合わせて、麺もいつもより細いの使ってる。」
「おいしいです。女性にはこちらの方が人気が出ると思います。私も好きです。」
「そっか!」
「いい雰囲気のトコ、すみません、ラーメンください。」
いつもの様に気がついたらそこに居る緑の魔導師の姿。
慌てて「「いらっしゃいませ」」と声を揃える二人に「すみませんねぇ、お腹すいちゃって」と頭を下げる。
「あ、慌てないで食べてて結構ですから。」
「新作なんですよ。一番に彼女に食べて欲しかったもので、すみません。」
「いえいえ、こちらこそ、せかすような真似をして・・・私もそれと同じものをいただいていいですか?」
「なんか、スルーしちゃいけない事をガイさんが言ったような」等と思いつつも、彼女に出来る範囲でペースを上げている看板娘。
「ムラサキさんも呼んじゃいました。普段はあの人跳躍使わないから、後5分くらいで来ると思います。」
「紫の中の人ですか? なんか、怖い人だって聞きますけど?」
「大丈夫ですよ、社長よりは怖くないですから。」
麺を茹でながら応対する青年。
内心「もっとじっくり味わいたかったなぁ」と思いつつ、最後のスープを飲み干す看板娘。
「器洗ってきます!」
「コケないように。」
「大丈夫ですよお!」
彼女が戻ってくるのと相前後して、何やら賑やかな集団が近づいてくる。
「おお、ラーメンのいい匂いだ。」
「ここが噂の・・・。」
「あ、緑の人だ。」
「こんにちわ!」
「うわっ、そいつらと一緒だったんすか?」
「すまんな、振り切る訳にもいかなかったんで。」
「おいしそうです!」
器を乾いた布巾で拭き、声を上げる。
「いらっしゃいませ!」
次回辺りで異変です
看板娘、現実、中の世界共に固有名考えてませんw
ここまで動かすつもりは無かったんで・・・