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紫の中の人  作者: 春猫
4/12

杖の人

こっちの話はあまり長くなりません

もうぼちぼち異変で、異変後ちょっとですぐに種明かしして終わる感じです

オチも決まってますんで、キャラクターが勝手に動かない限り大丈夫かと^^;

 ルーテルのナンバー9ことクラウス・グリューネヴァイス。


 ルーテルでは珍しい、割と普通の外見のキャラである。


 まあ、いつでもどこでもタキシード、狩りをする時もタキシード、仲間とバカをやる時もタキシードという「TPO? なにそれ、食えるの?」状態ではあったが・・・。



 その彼は仲間と離れ、今は一人、城の開放されている部分の踊場へと足を運び、下を眺めている。


 右手には赤い杖。

 いや、本当は骨で出来た白い杖なのだが、滾滾と杖の握り以外の部分から流れ出ている鮮血のせいで真っ赤に見えている。


 杖はレア中のレア「ブラッディ・ケイン」。


 非破壊武器で、装備してもかなりのステータスアップが望めるものだが、その価値はそこには無い。


 この杖、珍力がかなり高く無いと発生しないレア転職イベント「真祖の誕生」のキーアイテムなのだ。



 ゲーム中、吸血鬼及びその上級クラスである真祖のみの特性として「血をおいしく感じられる」というものがある。


 

 まあ、ぶっちゃけて言うと「上質の赤ワイン」の味がするのだ。


 ちなみにロールプレイとして首から直接血を吸う事も出来るが、相手の同意が無いと絶対に不可能。


 通常は交渉でアイテムやゲーム内通貨等を送る等して、同意が得られるとワイングラスが吸血鬼側の手に登場し、そこに血が満たされていく事になる。

 血を吸われた側はHPが5%ほど減少する。吸われる側にデメリットしか無いように思えるが、実は一定回数の吸血を受ける事で自分も吸血鬼になる事が出来るのだ。

 しかし、この事はゲーム内の吸血鬼や真祖の絶対数が少ない上にその数少ない吸血鬼たちもソロを好んだり、結社化したりして閉鎖的な為、余り知られていない。

 「孤高」、「神秘的」という吸血鬼イメージを崩したくないプレイヤーが多いのだ。



 クラウスのプレイヤーは、この手のゲームのプレイヤーとしてはかなり高齢の部類に入る40代の男性。

 それなりに中高生時代はゲームをしたりはしていたものの、社会人になってからは徐々にそのプレイ時間は減り、家庭を持つようになってからは皆無に近くなった。


 そんな彼がポルポルを始めたきっかけ、それが「吸血鬼になれば高級赤ワイン飲み放題」という噂であった。


 二人の子供と妻のため、少ない小遣いでサラリーマン生活を続けてきた彼。

 そんな彼のごくわずかな贅沢が、高級ワインである。

 とはいうものの、そんな経済状況で入手出来るワインはたかがしれている。

 著名人やソムリエのエッセイを読みつつ、「定年後はフランスにワイン飲みに行きたいなぁ」などと思いつつも、結局は妻に押されて、妻好みの旅行におさまるんだろうなぁ、と溜息をついていた。


 最初は社の若い社員やOLたちの雑談で聞いたポルポルの噂。

 

 「いや、美味しいんですって!」と力説されても「ゲームだろ?」と気にもしていなかった。


 しかしながら、ワインと聞いては無視する事は出来ない。

 それに開発会社の女社長はフランスにシャトーを持つレベルのワイン好きである。

 なにせ、彼はその存在、ポルポルではなく、ワインのエッセイで知ったのだから。

 

 その女社長の会社の「食べ物が美味い」VRMMO(息子に「ポルポルとかいう『ゲーム』」と言ったら訂正されたので覚えた)でのワインの味。

 「期待出来そうだな」・・・彼だけでなく、ワイン愛好家の間でも話題になった。


 飲みたいワインを我慢して、仕事の後、休日の貴重な時間を割いてポルポルへと入る。

  

 

 吸血鬼になる為の条件は厳しく、真祖ともなれば更に難しい。


 せめて格好だけでも・・・それが彼のタキシード姿の訳であった。


 そんな彼の事情、メンバーは当然知っている。

 だから、ギルドでの狩りの結果、この杖がドロップされた時、みんなが何の不満も無く、全員一致で彼にこの杖を譲ってくれたのだ。


 中の人があまりこうしたものに慣れていない「おっさん」である事は知っていても、バカにせず、一緒にバカをやらせてくれる仲間。

 それだけでも彼には有り難かったのに、こうして自分の夢にも協力してくれる。


 この杖をゲットした日、ログアウトした彼の目元は涙でぐっしょりで、その後も久々に悔しさや悲しさ以外からくる涙を流した。

  


 そうしてゲットした杖である。

 すぐにでも真祖になりたい。


 しかしながら、いざとなると躊躇してしまう。


 「俺の夢はこの程度のものだったのか?」そう自分を鼓舞してみても怖いものは怖い。




 なにせ転職の為の条件が「杖で自分の心臓を貫く」というものなのだから・・・。



 「あれ? クラウスさん、まだ転職してないの?」

 気軽に声をかけてきた仲間も、その条件を聞いて顔を引きつらせた。


 

 いくら痛みのレベルが抑えられたVRMMOとはいえ、「自分の心臓を貫く」となると躊躇って当然だ。


 

 「うーん、なんか他に方法無いか調べてみるね。」

 ギルマスはそう言ってくれたものの、せっかくみんなが譲ってくれたアイテムである。

 「使わない」という事も抵抗感がある。



 腹を切る様な思いで思い切って突いてはみても、杖程度では心臓を貫くというのは難しく、「現実ならあざになってるよなぁ」という痛み(モンスターの角で突かれた時以上だった)でも咳き込むだけに終わった(ログアウト後、思わずあざになってないか、シャツをめくって確認している所を娘に見られて、冷たい視線を浴びたのは少しトラウマになっている)。



 色々考えた末、彼が思いついた方法。

 それが「杖の先端を胸に当てて、高い所から飛び降りる」というものであった。


 モンスターがポップする街の外では無理。

 考えた挙句、たどり着いたのがここ。


 

 杖の先端を左手で胸に押し付けながら下を見る。

 現実なら「普通に落ちても死ぬんじゃないか?」という高さだが、ポルポル内でそれなりに経験を重ねたキャラクターである彼なら死ぬ事は無い。


 ただ「リアルな死ねる高さ」+「心臓を杖で突き刺す」である。


 「やっぱり怖いなぁ・・・。」


 そんな彼の肩をポーンと叩く手。

 タイミングが悪いというか、ある意味絶妙というか、バランスを崩した彼はそのまま落下した。


 「うわちゃあぁ、流石に死なんとは思うけど悪い事しちゃったなぁ。」

 頭をかくのは熊の毛皮をまとった蛮族風の男。

 

 彼の現実での会社の部下に当たる青年が中に入っている。


 下を覗き込んだ青年の眼前に広がる真っ赤な閃光。



 『ブラッディ・ケイン発動しました。秘数術式によりプレイヤー、クラウス・グリューネヴァイスは真祖に転職します。』


 

 システムアナウンスが辺りに流れる。



 「ふははははははははっ、これで私も真祖だぁ~!」


 下から聞こえる叫びにホッと胸をなでおろすと共に「あの課長がポルポルやるだけでなく、中でこんなにはじけてるとはねぇ、明日会社でみんなに言ってやろ!」とワクワクする部下A。


 哄笑は続く。



女性やゲーマーだけでなく、おっさんも頑張ってます^^

次はたぶん、屋台広場にある程度キャラが集まって

うまくすれば異変に突入です

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