プロローグ
四月一日、エイプリルフール。
僕にとって、この年に生涯でもう二度と味わうことのない壮大なドッキリ――いや、ドッキリであったらどれほど良いものだっただろうか。
『さようなら』
その、一言だけしかないメールが届いたのが四月一日。
彼女に再び再会したのがその十八日後。四月の十九日のことだった。
*****
皆が寝静まり始めた深夜の零時。ちょうどなった瞬間だと思う。僕の携帯に彼女からメールが来た。
「さようなら」
そんな、たった一言。
一瞬何のことかと戸惑った。彼女と喧嘩をした覚えもないのに、いきなり別れ話か? そう思い、電話を掛けようかと思った次の瞬間、僕は気付いた。
彼女は普段、冗談を言ったりしない。
付き合ってもう二年経つが、いきなり「さようなら」とか言って姿を消すことなんて一度もなかった。
だから急に変だとは思ったが、彼女からのメールが着たあとに僕はとくに気にせず「さようなら」と返信した。
すぐに今日がエイプリルフールだと気付いたからだ。
何分普段、冗談なんて言わないものだから一瞬びっくりしたが、冷静になって携帯画面に映る日付を目にして気が付いた。
明日大学で会ったら、何を急に洒落にならない冗談を言ったのか笑いながら彼女に訊いてみよう。
僕はそう思い、やっていたパソコンの電源を落とし、眠りについた。
彼女が明日、笑いながら『冗談に決まってるじゃないの』と言うのをごく当たり前だと思い――。
*****
翌日、彼女は大学に来なかった。
彼女と同じ講習をいくつか受けていたが、姿を現さなかった。珍しく風邪でも引いたのかと思い、彼女にメールを送っておいた。
何の他愛もない、『風邪でも引いた? 大丈夫?』というメール。
それから数時間、全ての講習が終わって帰宅してからも彼女からメールの返信はなかった。
さすがに不審に思い、今度は携帯に電話をかけてみたが繫がらなかった。
珍しいには珍しいが、彼女はずぼらな性格で、メールを返すのも基本的に一時間は後だし、よく携帯の電源が切れた状態で放置している。
翌日になって昨日繫がらなかったことを指摘すると、しれっと気付かなかったと言う。
そんなことが日常茶飯事だった。
それに、風邪などを引いて体調が悪い他にも、これは本当に時々だが面倒臭いと言って、必要のない授業には顔を出さない。休むことはまあ、少ないが。
なので、今回もどうせ携帯の電源を切りっぱなしか、切れたまま充電をしていなくて、風邪か何かで寝込んででもいるのだろう。
彼女は一人暮らしだが、もう時刻もだいぶ遅い。明日彼女が大学に来るかもしれないし、来なかったらお見舞いに行こう。
すごく自然に、当たり前のようにそう思った。
その日は、寝る前に一応彼女に明日休んだら見舞いに窺うというメールを入れておいた。
もちろんと言うべきか、翌日起きても彼女からのメールの返信も、着信もなかった。
寝起きのボケている頭で僕が感じたのは、確かに『違和感』だった。