「神山」の場合①
新しい季節がきた
この街では四季の概念は存在しない
この街での新しい季節とは
新しい「神」を冠する名前が現れた時だった
自分の時もこうだったのだろうか
新しい「神」についていくつかの情報が入ってきた
名を"神山"と言うこと
読み方は"かんや"であること
もっとも、書き方については視える側にしか影響しないことである
男であること
まだ街にあまり出没していないとのこと
尤も街に出没しているかは
視える側でしか確定的なことは言えない
自分以外の視える人間についての情報は少ない
まだこの街にいるのかも分からない
この目で見たことはなかった
この時までは
その朝、"神山"が街に現れたという情報を聞きつけて
俺は飛び出した
一目で分かった
見かけは幼くも、身だしなみを整えており
体のサイズに合わない本を抱えて歩く少年がいた
間違いなく彼だろう
"やぁ"
遠巻きから声をかけられ少年は肩を震わせ
手に持っていた本を落とした
"あぁごめんごめん。驚かせちゃったかな。"
俺は急いで駆け寄り本を拾ってみせた
"⋯⋯"
少年は驚きのあまりなのか、そのまま身体を動かさなかった
本を拾っている様を視界の端で捉えたのであろう
どうやらこちらが「視えている」ことを理解したようだった
"あ、ありがとうございます。"
怯えた少年は恐る恐るこちらを向いた
とても綺麗な顔をしていた
顔に汚れがついていないのは勿論のこと
端正な顔立ちで見るものを魅了するであろう出で立ちであった
"神威って言うんだ。君は神山だよね?"
年齢を重ねたこともあり、初対面の邂逅はスムーズに行えるようになっていた
神山は黙って頷いた
"ということは、あなたも視える人なんですよね。"
俺も倣ったように、黙って頷いた
少年の顔に光が宿った
"す、すっげぇぇぇ"
それまでのかしこまった少年はそこにはいなかった
好奇心全開の"神山くん"が眩しい笑顔を向けていた




