表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/3

定まらぬ歴史の奔流

本作は「清朝のド真ん中に、歴史オタクがチート能力なしの赤ん坊として転生したらどうなるか?」を描いた本格歴史サバイバルです。


序盤は赤ん坊ゆえの無力感がありますが、歴史の知識を駆使して少しずつ時代を裏から操っていく展開になります。

乾隆十八年十二月、漳州府海澄県、林家の屋敷。


裏庭の離れでは、ようやく一歳になったばかりの幼子が、ぼんやりと蚊帳の天井を見つめていた。

青い木綿地に、唐草に絡む蓮の文様が刺繍されている。あまりに込み入った模様は見ているだけで目が回りそうで、彼はもうかれこれ一時間もそれを眺め続けていた。


ここ数日ずっと頭を悩ませている問題について、考え込んでいるのだ。


――俺は誰だ?

――ここはどこだ?

――なんでこんな姿になってるんだ?


もっとも、今の身体ではそんなツッコミを口に出せるわけもない。出せるのは、せいぜい曖昧な単音だけ。あーうー、だの、ふにゃふにゃ、だの。

一歳になったばかりの赤ん坊にできることなど、食べて、飲んで、出して、寝ることくらいしかない。


転生前、彼の名は林遠。二十一歳、北京大学歴史学部三年生。専攻は明清経済史。

卒論用のレポートを徹夜で書いている最中に心筋梗塞を起こし、次に目を開けたときには、この手足もろくに動かぬ赤ん坊になっていた。


この世界に来て数日。

いい知らせが一つ、悪い知らせが一つある。


いい知らせは、林家がそれなりの大きな家だということ。


悪い知らせは、その林家というのが彼の知識にはまったく引っかからない、聞いたこともない一族だということだった。

彼は清朝史をかなり読み込んでいた。乾隆朝の名臣など、片手で数えられるほどは把握している。傅恒、阿桂、劉墉、紀昀――だが、そのどれにも林姓の名門は見当たらない。


つまり彼は、歴史に名を残さなかった、埋もれた無名の小人物の身に生まれ変わったらしい。


十二月九日。今日は彼の一歳の誕生日だった。


この土地の風習では、今日は「抓周しょうしゅう」を行う日である。

表の間にはすでに支度が整っていた。盆の上には、そろばん、銭、筆、書物、印章、小刀、土の塊――土は田畑を意味する――が並べられている。これは閩南地方特有の風習で、幼子を人前に出し、どれをつかむかで将来を占うのだ。


広間には十数人が集まっていた。

まず両親、そして祖父母、叔父叔母たち、見物に来た親族が何人か、さらに長衣を着た番頭らしき男もいる。

その場にいる誰もが彼に視線を向けていた。こんなふうに注目されるのは、正直あまり気分のよいものではない。


父・林文淵は、漳州府学の廩生だった。

郷試を三度受けたが挙人にはなれず、今は先祖代々の数十畝ばかりの田畑と、二軒の絹布問屋を切り盛りしている。

長男である彼に大きな期待をかけており、書物でも、筆でも、あるいは官印でもつかんで、将来は科挙に及第し、一族の名を高めてほしいと願っていた。


母の何氏については、この数日である程度わかった。

どうやら政略結婚で、夫婦仲が特別良いというわけではない。だが、それでも彼――この子供に対しては、きちんと情を注いでくれている。


林遠――いや、今は林海棠と呼ぶべきだろう。

この名は、一歳を迎えた折に父が授けたものだ。海棠、すなわちカイドウの花に由来する、春を思わせる名だ。


林海棠は小さくあくびをした。


抓周そのものには、これっぽっちも興味がない。

彼が望んでいるのは、一日も早く大きくなること、一日も早く言葉を話せるようになること、そしてこの時代が本当に自分の知っている清朝なのかどうかを確かめることだった。

もし同じなら、生き延びる算段を立てねばならない。

もし違うなら、なおさら生き延びる方法を考えねばならない。


「こちらへ抱いてこい」


林文淵が言った。


何氏は彼を盆の前の絨毯の上に下ろした。

彼はゆっくりと前へ這い出す。


動きはひどく鈍い。

この身体はまだあまりに弱く、手足も思うように動いてくれない。

だが、あそこまでたどり着き、何かひとつつかみさえすれば、また部屋へ戻って眠れるのだ。


そろばん?

いや、商人の道はない。歴史学部の学生だった自分が、清朝に転生して帳場仕事か? 割に合わない。そもそも数学なんて大学に入ってからほとんど忘れた。


銭?

もっとない。せせこましすぎる。


印章?

役人ってことか――いやいや、まだ一歳だぞ。こんなものをつかんだら、神がかりだの何だの言われかねない。


小刀?

まさか刺客になれってことじゃあるまい。危険すぎる。


土の塊?

農業? ……きつすぎる。


そう思いながら這っていた彼は、不意に動きを止めた。


視線が、盆の端に置かれた一冊の本へ吸い寄せられたのだ。


『四書五経』?

いや、違う。名家の子ならどうせそれはいずれ学ぶのだし、わざわざ今ここへ置く理由がない。


それは薄い冊子だった。青い表紙に、左上から六文字。


『読史方輿紀要』……?


林海棠は目を見開いた。


『読史方輿紀要』。顧祖禹の著した、清初の地理学の大著。

天下の山川形勢、要害、兵を動かす際の攻防について論じた書物だ。乾隆年間にはそれほど広く流布していたわけではなく、著者の事情もあって、きわめて扱いの難しい敏感な書とされていたはずである。


それが、なぜ赤ん坊の抓周の場にある?


林文淵もその本に気づき、眉をひそめた。


「抓周に兵書を置くとは……誰がこんなものを?」


「わしが昨日、何気なく入れておいたのだ」


口を開いたのは祖父の林伯謙だった。

声には老いが滲んでいたが、気力は衰えていない。


「我が林氏の祖には、かつて軍功を立てた者もおった。後に儒へと家業を改めたが、この書は……まあ、先祖の遺品のようなものだ」


「この子が、それと縁があるかどうか見てみたくてな」


林伯謙は、床に這う長孫をじっと見つめた。

その濁った老眼の奥に、言いようのない思案の色がよぎる。


林海棠は、その本を見つめ返した。


歴史学科の学生で、『読史方輿紀要』を知らないはずがない。

かつてルームメイトと一緒にこの本を読んだことがある。清初地理学についての授業レポートを書くため、何日も徹夜したものだ。


彼は手を伸ばし、その本をつかんだ。


広間がざわめく。

林文淵の顔には複雑な色が浮かんだ。書物をつかむのは吉兆だ。だが、よりによってこの本とは……。


祖父の林伯謙は、ゆっくりと笑った。


「よし」


そう言ってから、ふと思い出したように問う。


「この子には、もう名をつけたのか?」


「つけました」林文淵が答える。「海棠と」


永伯文海、元亨利貞、承先啓後、光大祖業、世沢綿長。

それが先祖から伝わる字輩であり、林海棠は十四代目にあたる。


「海棠、か……」


林伯謙はその二文字を繰り返した。


「海棠の花は春に咲く。春景色にはふさわしい名だ。だが惜しいかな、この世のありさまでは、あと何度よい春が巡るか知れぬ」


そう言い残し、杖をつきながら、老人はゆっくりと奥へ引き上げていった。


林海棠は床に伏したまま、その本を握りしめ、老人の背中を見送った。

胸の内に、ふいにひとつの考えが浮かぶ。


――この世の情勢、本当に自分の知る歴史とは違うのかもしれない。


抓周が終わると、林海棠は離れへと連れ戻された。


乳母が彼をゆりかごへ寝かせようとしたときも、彼はなお『読史方輿紀要』を握りしめていた。指先が白くなるほど力を込めていて、どうやっても離れない。

乳母は笑いながら、「坊っちゃんは本が大好きなんですねえ。きっと将来は大人物になりますよ」と言った。


林海棠は、そんなおべっかにかまっている暇はなかった。


祖父の言葉が頭から離れない。

――この世には、もう何度も良い春は来まい。


乾隆十八年。


彼はその年号を何度も頭の中で転がした。


乾隆十八年は、西暦1753年。

清朝が建ってすでに百年以上。版図は広く、国庫は潤い、人口は一億を超えている。

第一次金川戦争は数年前に終わったばかりで、今後にはジュンガルやアムルサナの反乱平定も控えている。


どう考えても、史家のいう「康乾の盛世」の上り坂にある時代のはずだ。


それなのに、なぜ林伯謙は「良い春は多くあるまい」と言ったのか。


もしや、この乾隆十八年は、彼の知る乾隆十八年ではないのか。


林海棠は表紙を握ったまま、蚊帳の蓮文様を見上げ続けた。

乳母が灯りを吹き消すまで、ずっと。


あたりは真っ暗になった。

だが、眠れない。


国の行く末が心配だから、というような大層な理由ではない。

単純に、腹が減っていた。


清朝では一日二食。赤ん坊も同じようなものだ。

一歳になったばかりの身体の胃袋など、拳ほどもない。

一度飲んだくらいでは数時間ももたない。だが乳母は隣の部屋でいびきをかいて寝ており、彼がいくらうーうー唸っても起きる気配がなかった。


仕方なく、彼は空腹をこらえた。

自分の腹が鳴る音を聞き、遠くからかすかに聞こえる夜回りの拍子木に耳を澄ませる。


――コン、コン、コン、カーン。


三更か。


夜回りの男が声を張り上げる。

「空気は乾き、火の用心――」


その声は次第に遠ざかり、路地の奥へ消えていった。


林海棠は寝返りを打ち、無理やり目を閉じた。


――明日また考えよう。


北京大学の歴史学部生だった人間が、清朝に転生したくらいで飢え死にしてたまるか。


結局その夜、林海棠は青い冊子を抱いたまま、うとうとと眠りに落ちた。

魂は大人のままだからだろう。彼の夢は普通の赤ん坊のように、色や感触の断片だけで構成されるものではなかった。


そこに現れたのは、途切れ途切れの地図と文字。

海峡、暗礁、潮汐、補給線。

見覚えのある教室の黒板には、「関税」「食糧輸送」「漕運の赤字」といった文字が並ぶ。

図書館の長机。徹夜でレポートを書き上げ、最後には机に突っ伏したときの、あのどうしようもない疲労感。

どれもあまりに生々しく、けれどもう、手の届かないほど遠い。


目を覚ますと、彼はしばらく天井を見つめた。


――夢か。未来へ戻れたのかと思ったのに。


転生前、彼は論文にこう書いたことがある。

「歴史とは鈍重な巨獣であり、凡人にできるのは、それが踏みつけてくる前に身を隠す隙間を見つけることだけだ」


ところが今の彼は、その巨獣の腹の中へ自ら潜り込んでしまったようなものだった。


――ひょっとすると、この時代で何か大きなことを成し遂げたら、死後に元の時間軸へ戻れる可能性もあるんじゃないか?


そんなことを考える。


すでに朝は過ぎていた。

窓の外の庭から鶏の鳴き声が聞こえる。

乳母が戸を開け、彼が目を覚ましているのを見ると、にこにこと抱き上げた。


「坊っちゃん、お目覚めですか。今日はご機嫌がよさそう。お目々がずいぶんきらきらしてますねえ」


乳母はおむつを替え、小さな綿入れを着せて、彼を外の部屋へ連れていき授乳した。

彼は乳を吸いながら、頭の中で算段を立てる。


もし本当に元の時代へ戻る可能性があるなら、必要なものは何か。


第一に、この時代の真相を知らなければならない。

本に書かれていた「康乾の盛世」と、現実が一致しているのか。違うなら、どれほど違うのか。


第二に、力が必要だ。

権力でも、財力でも、知識でもいい。何かを変えられるだけの力が要る。


第三に、時間。

今の彼は、人類社会の最底辺とも言える赤ん坊でしかない。成長し、言葉を覚え、歩けるようになり、一歩ずつ進まねばならない。


乳母が授乳を終え、げっぷをさせるために彼を縦抱きにする。

林海棠は乳母の肩越しに、窓の外を見た。


――コン、コン、コン。


聞き覚えのある杖の音。


林海棠は見た。

祖父の林伯謙が奥から出てきて、庭に立ち、またしても北東の方角を向いたまま、じっと動かずにいる。


あの方角に、何がある?


彼は懸命に首を伸ばした。

だが、乳母はすでに彼を抱いたまま部屋の奥へ戻ろうとしていた。


「じ……い……」


思わず、彼は祖父を呼ぶような音を漏らした。


乳母が驚いて顔をのぞき込む。

「まあ、坊っちゃん、人を呼んだんですか? もう一度言ってごらんなさい?」


林海棠はぴたりと口を閉ざした。


あまり早く言葉を話せると悟られたくはない。

赤ん坊の脳は発育に時間がかかる。今の言語中枢はまだ未熟で、話すだけでもひどく骨が折れる。

それに、もしこんな時期に喋り始めたら、神童だの何だのと騒がれかねない。


清朝史において、いわゆる神童と持てはやされた子供の多くは、長生きしなかった。


――焦らず、少しずつだ。


それから三日後、臘月十三日。

林家に、ちょっとした事件が起きた。


次叔父の林文瀚が漳州府城から戻り、一つの知らせを持ち帰ったのだ。

府学の廩生たちが連名で上書し、土地の再測量――清丈田畝――をしばらく見合わせてほしいと願い出たところ、知府から「徒党を組んで朝政を論じた」と叱責され、首謀した二人は功名を剥奪されたという。


食卓でその話を聞いた林文淵は、顔色を変えた。


「功名を奪われた? それだけのことでか?」


「そうだ。それだけのことで、だ」


林文瀚はため息をついた。

清丈田畝――もっと平たく言えば、官府が人を派遣し、田畑を一筆一筆あらためて測り直し、全国にどれだけの土地があるのか、それが誰のもので、どれだけ税を納めるべきかを洗い直す政策である。


林海棠は乳母に抱かれ、食卓の隅に座っていた。

一歳児が口を挟むような話ではないので、おとなしく周囲の表情を観察する。


林伯謙を除いて、誰の顔色もよくなかった。


祖父だけは相変わらず、ゆっくりと粥をすすっている。

今聞こえていた話が、まるでどうでもいい世間話にすぎないかのように。


祖母が箸を置き、ひと言たずねた。


「功名を奪われたその者たちは、その後どうなったのです?」


「杖で打たれました」林文瀚が答える。「打たれたあと、府学から追い出された。もう一生、科挙は受けられません」


林海棠は内心で考えた。

府学の廩生といえば、官から学費や食糧の支給を受ける正式な生員だ。

それが杖打ちのうえ功名剥奪、今後いっさい登用なし。

平時なら、知府がそこまで強引な処分をくだすとは考えにくい。


ということは、朝廷が見せしめを望んでいる。

乾隆帝は、ここで威を示そうとしているのだ。


日ごとに寒さは厳しくなっていく。

林伯謙は最後の一口を飲み終えると、碗を置き、小さくため息をついた。


「文瀚」


その声には、かすかな沈鬱が混じっていた。


「お前の絹布の店、今年の上がりはどうだ」


林文瀚はきょとんとした。

父が急に商いの細かなことを尋ねるとは思っていなかったのだろう。ふだんは大まかな損益しか聞かない人だった。


「ま、まあ……悪くはありません」

言いよどみながら答える。

「昨年よりは少し良いです。計算すれば、いくらか黒字です。大儲けというほどではありませんが」


「どれほど良い」


林伯謙の声は平板だった。


「二割ほどです」林文瀚が低く言う。


林伯謙はゆっくりとうなずき、今度は脇に立つ林文淵を見た。


「田の小作料は、すべて取り立てたか」


林文淵は腰をかがめて答える。

「父上、まだ大半です。何軒かの小作人が、今年は雨が多くて収穫が悪かったと申しており、納める時期を少し待ってほしいと」


「待たせてやれ」


林伯謙は手を振った。


「たかが数石の穀物だ。あまり追い詰めるな」


「文瀚」


「はい、父上」


「お前の店だが、来年の春になったら在庫を整理しろ。現金に換えられるものは、すべて換えておけ」


林文瀚は凍りついた。

「父上、それはなぜです? 春先はちょうど商売が動く時期で……」


だが、林伯謙はそれ以上説明しなかった。


林文瀚は立ったまま、顔色を何度も変えた末、深く頭を下げた。

「……承知しました。春になったら整理します」


三叔母がついにこらえきれず口を開く。


「お義父さま、何か耳に入ったのですか? 府城で何か騒ぎでも――」


「余計なことを言うな」


三叔父がすぐに遮った。


三叔母は口をへの字に曲げたが、それ以上は黙った。


その夜も、林海棠は眠れなかった。


この世界について、知っていることがあまりに少なすぎる。

今日耳にした話も、決して小さな出来事ではない。

廩生の処分はおそらく始まりにすぎず、この先もっと厳しい手が打たれるはずだ。


一仕事成し遂げるだの何だのと考えてはみたものの、いまだ最初の一歩すら踏み出せていない。

このままでは、自分が安心して育つ土台すら危うい。


乾隆帝の気性は知っている。

壁にぶつかるまで止まらず、ぶつかったら壁を壊してでも進むような男だ。

だが、自分は何かを見落としている。いったい何を?


外から夜回りの音が聞こえる。


――コン、コン、コン、コン、カーン。


四更。


夜回りの男が声を張る。

「空気は乾き、火の用心――」


林海棠は目を閉じ、また開き、閉じ、また開いた。


眠れない。

ひどく苛立つ。

本来なら、赤ん坊の身体では何日も寝不足など耐えられないはずだ。

それなのに、どうしても眠れない。


彼はもっと現実的な問題を考え始めた。

もし自分の知る乾隆朝の歴史と、この時代の乾隆朝が本当に一致しないのだとしたら――自分はどうすればいい?


学んできた知識は、まだ役に立つのか?


彼は知っている。

土地の再測量は民変を招き、その民変は鎮圧され、鎮圧ののち朝廷は何人かの官を更迭して宥撫に回る。

だがそれは、たしか乾隆三十年代の話だったはずだ。今は乾隆十八年。

もし民変が前倒しになったら?


福建沿海では、朝廷の禁を破って海へ出る者が絶えない。

台湾へ、ルソンへ、官の手の届かぬ土地へ。

だが、そうした者たちがいつごろから集まり、いつ勢力を持ち始めたのか、彼は知らない。


商人たちが地方において大きな影響力を持ち、ときに官府の姿勢すら左右することもある。

だが漳州の商人たちが誰と組み、誰と争い、誰が実権を握っているのか、彼は知らない。


何も知らないのだ。


知っているのは、おおまかな輪郭だけ。

ぼんやりとした歴史の流れ。

乾いた年号と人名の羅列だけ。


しかし、彼がこれから生きていかなければならないのは、現実のこの時代だ。


この時代の空気の一口一口も、米の一粒一粒も、人の一人ひとりも、すべて本物だ。


知っているようでいて、何も知らない。


外では月明かりが少しずつ薄れていく。


もうすぐ、夜が明ける。

最後までお読みいただき、誠にありがとうございます。

本作を気に入っていただけたかどうかにかかわらず、忌憚きたんのないご意見やご批判をお寄せいただけますと幸いです。

皆様からのご指摘やアドバイスはすべて真摯に受け止め、今後の改善に努めてまいります。

どのようなお言葉でも大変励みになります。心より感謝申し上げます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ