5
「辺境伯家に着いた。私は無視され、存在しないはずの長女を紹介された」
と到着後、直ぐに伝令鳥を飛ばしておいた。
以前のリリベルなら役立たずの領主であっても放っておいたが、さすがに今の身分では見逃せない。
今は私も国を守る立場にいるのだ。
辺境伯がザック殿下に娘は紹介したとしても新婚旅行中だというのに、その妻に気付けないのは流石にヤバい。
私の男装に気付けなかったとしても、その存在は確認すべきだろう。
平和だったとしても北の玄関口に彼を置いてはおけない。
西の国の民度を問われる事にもなる!
と、リリベルは心を鬼にして辺境伯の歓迎ディナーの為におめかししている。ちなみにお手伝いして下さっているのは、辺境伯の弟君の奥方とその侍女達だ。
辺境伯ご本人の奥方は王都にいて、領地には一切来ないらしい。その息子もだ。辺境伯領を堅実に守っていたのは執事に身を扮した弟一家だったようだ。
辺境伯よ!リリベルの女装姿を見て驚くといい!
いや女装じゃなくて、元々、女だけどさ。
だけどアイツはアホだから「妃はいつご到着されたのだ?」とか言いそうだなと思いながらザック殿下と共に食堂に出向くと、長女とやらが「あの金髪の侍従様は?」と言いながらキョロキョロ探してしていた。
長女よ、お前もか!?
ザック殿下のエスコートの腕が小刻みに震えている。
笑いを堪えるのに必死なんだな。ホント楽しそうでいいよね。
しかし当の辺境伯当主は食事中、私を口説いてくるし‥‥‥
一体、彼の頭の中はどうなってるんだ?
これにはザック殿下もご立腹になって、弟君に領主と偽長女の監禁を命じて、弟君を臨時の当主にすげ替えた。
翌日の早朝、伝令鳥から「領主の弟はまともか?」と返って来たから「弟を既に臨時当主に任命した」とまた返信しておいた。
王太子も仕事は早い。きっと直ぐに役人と騎士団が派遣されてくるだろう。
そうして私達はさっさと早朝には辺境伯領を出て、お昼過ぎ頃、北の国境検問所に着くと、なんと大勢の街の人がビーバーちゃん人形を振って出迎えてくれた。
ビーバーちゃんってそんなに量産されていたの?
それに何で私ビーバーちゃん?いやそれより今はビーバー君なんだけど…とどうでもいい事を思いながら、その街のご領主に挨拶をしていると、ザック殿下が今日はここに宿泊して明日、王都を目指す事になったと仰った。
領主が明日の王都までは北の騎士団が護衛しますと仰ったのだけど…でも護衛って…と思っていたら、そうだよね。騎士団は全員白馬だった。
リリベルは「北の国の検問所に到着しました。今日は検問所の街の領主の世話になります」と伝令鳥を送った。
そう言えば伝令鳥はまだ4回しか送ってない。って、ここまで3日で来てるってこと?
「ねえザック殿下、行程は予定通りかな?」と確認すると、ザック殿下が指を数え始めて「ここまで3日で来てるっ!?」って驚愕していた。今更か。
北の検問所のご領主は西と同じく辺境伯様だった。こちらにも美しいご令嬢がいらしてご紹介頂いたが、至って普通の家族紹介で安心した。
だが「西のお妃様ど、お迎えでぎでホンニ嬉しぇ!しったげ美しぇ人で感動したぁ!」って早口で言われて半分くらい意味が分からなかった。
その日の夜、王太子からまた「ふざけるな!」って返信が来ていた。
順調なのになぁ。
翌朝、ザック殿下と表に出ると既に北の騎士の皆様が準備万端でお揃いだった。総勢10名くらいで意外と少ないって思ったが、スネイプニルの騎士団って全員で30名くらいなんだそうだ。
内、主人を決めないスネイプニルが何頭もいるらしい。これも仕方がない事なのだそうだ。
辺境伯のお見送りを受けて、いよいよ北の王都に向け出発だ。
本来、護衛対象を真ん中にして他の騎馬が周りを固めて走るのだが、やはりそれは無理だった。
サオリがぶっち切りなんだもの。
やっぱりサオリには護衛は要らない。現状、地上走行で追い付ける生き物はいないだろう。
うん。単身で先に王都に着いちゃった。
ねぇ後ろの人達はいつ追い付いてくるの?サオリ?




