29
教官の命令に背いて、スネイプニルに近付いた3人の新人騎士達は施設の懲罰房に入れられた。
そして3人を見に来て巻き込まれた騎士達も、3人を止めなかった罰として謹慎となった。
これからこの件にかかわった全員に、何かしらの罰が決まる予定だが、主犯の3人は恐らく騎士の身分の剥奪がされるだろうとの事だった。
厳しい罰だが仕方がない。
そして教官達も施設長も新人騎士の管理責任を問われ、貴賓の馬に対し口頭注意と命令だけで、見張りを立てるなどの予防措置を取らなかったとして処罰を受ける身となったそうだ。
スネイプニルにただ近付いてヤられただけだったなら、まだ騎士身分の剥奪までにはならなかっただろう。
しかし馬達の返り討ちに、腹を立てて剣を抜いたのだ。
騎士であるなら何に対しても直ぐに剣を抜くべきではない。特に丸腰の相手や、明らかに人に危害を加えようとする猛獣でなければ剣を向けては駄目だ。
スネイプニル達は危険だが、知能が高いし逃げる者までは追わない。
普段、無口でおっとりしているマックス殿下の本気モードは、さすが国に30人しかいない、スネイプニル騎馬隊の騎士なのだと思わせるものがあった。
しかも彼らは常に現役で戦っている。
それはノースポールの危険な猛獣が多いが、実戦で戦っている人の気迫に敵うものはないだろう。
研修施設はその日、物凄く重苦しい雰囲気に包まれたが、施設長の部屋で教官4人と教官長、施設長がマックス殿下に跪いて崇め奉っている姿が、とってもシュールだった。
もう一度言っておくが、詫びている姿じゃなく、崇め奉っている姿だ。
東の国の騎士団は西の聖騎士や北のスネイプニル騎馬隊に比べ、特出するものがない。なので研修施設を充実させ騎士の文武両道を計ってきたのに、新人騎士とは言えこの状況は頭が痛いはずだ。
だがその事よりも、彼らは光の剣をかまえるマックス殿下の姿に軍神を見たようで、崇め奉る状況になったそうだ。
マックス殿下も驚いて躊躇っている。
「光の剣が素晴らしかった!」
「溢れ出る魔力がさすがです」
とか口々に賛辞を述べていて、それは夕食時まで続いてマックス殿下は怒る暇もなく疲れきってらっしゃった。
まさか褒めちぎって、この件を誤魔化してないよね?
「俺も少し思ったけど違うよ。純粋に彼に対する憧れが噴出したんだろう。それぐらいマックス殿下は凄かったよ」
私、また考えを口に出しちゃったんだ。
「南の義兄上と同じくらい凄かったよ」
「龍だから?」
「ああ。一緒に撃ち合うだけで、さすが龍だと思えるよ。だけど彼らは名前に龍を授かる為に幼い頃から騎士の訓練を受けるし、きっとマックス殿下も早い頃から騎士になる事を決めたんだろう」
「ザック殿下もそうなりたかった?」
「俺が小さい頃は何も考えて無かったな。二人の兄上達は目標があって凄いと思っていたけど、逆に俺は何もする事がないと捻くれていたかもしれない」
と殿下が呟いたので、でも「今は違うよね」とリリベルがザック殿下に寄り添うと「君がいたお陰だな」と彼は明るく笑った。
王都までは、あと1日の距離だ。
本来ならスネイプニルで夜に出れば午前中のうちに王都に着けそうなのだが、公爵家までもそうだったが大きな街道は夜間も交通量が割とある。
翌朝「裏道を駆け抜ける方が早いだろうか?」と施設長を交えて東の国の地図を広げていると王都から知らせが入った。
「明日の午前零時から早朝5時までの5時間の間、研修施設から王都までの街道を封鎖する」
と国が触れを出したそうだ。明日の零時、つまり今夜だ!
我々には東の騎士団の随行ができないので、せめて騎士団を各地に配置して道を空けて下さるそうだ。
5時間と言えど、とても有難い。
スネイプニルの5時間は半日ぐらいに匹敵する。
私達は夜の出発に向け準備を開始した。
「マックス殿下、この度は我々の不手際、大変申し訳なく…「もうえぇだ」
出発前、施設長らがまたマックス殿下にお詫びをされるが、マックス殿下もすでにウンザリなさっておいでのようだ。
しかも「殿下、我が家は侯爵家です。宜しければ我が娘を…「おいっ施設長!抜け駆けか!マックス殿下、我が家は伯爵家ですが娘は近衛におりますぞ「我が家の娘は…!いきなり婿取り合戦が始まった。
「対象がザック殿下でない事が新鮮だ…」
「ホントに」
「おい!リリちゃんも、アイザックも見でねで助けろよっ!」
「良いご提案ではないですか?」
他人事だと楽しめる。
「おいおいマックス殿下の気持ちが大事だぞ?国に大事な人が居るんじゃないのか?」
「そうか!確かに」
全員の目がマックス殿下に向く。
「わには既に嫁がいるだ」
「わ〜!それは想定外」
「マックス殿下、既婚者だったんだな」
「見た目、私達と同じくらいだから、てっきり未婚だと。だったらお嫁さん北に置いて来てしまったんだ!」
「こんな長い旅に付き合わせているのに挨拶もしなかったな」
「おめ達も会ってらよ」
「えっ?誰だろ?」
「わの嫁さ神殿にいる」
「もしかして女神様の侍女?」
「んだ。リリちゃん人形振って出迎えるって張り切ってあった」
そうか、あの中にいたんだ…一体どの人だったんだろう。
婿取り合戦は終了した。
そして我々はその夜、東の騎士団が通行止めしてくれている街道をスネイプニルの全速力で進んで行った。




