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2日も更新サボって済みません。
朝食後、お茶を飲んでいると「本日のご予定は?」と執事らしき方が尋ねてきた。
まだ予定は決めていなかったので「執事さん、この辺りに何か観光できる場所はありますか?」と聞くと「では旅の疲れを癒すべく、しばし読書を楽しまれてはいかがですか?ここは静かな場所なので王族がゆっくり読書を楽しむ為の館なのです」と仰った。
更に「私はこの建物の責任者でもありますが、執事というより、この建物の館長と呼ばれております」と仰る。
ザック殿下も「もしやこの建物は図書館と呼ぶに近いのか?そうか外観も屋敷というよりも神殿のような建物に近かった。だから館なのか!」と驚嘆しておられた。
そしてこの辺りは林業も盛んなのだが建築や家具等の資材ではなく、主に製紙用のパルプの産地なのだと仰った。
さすが東の国だ。
しかし残念ながら我々は読書をしに来た訳ではない。
目的地まで急ぐ訳でもないが、ここは一夜の宿として過ごし、先に進むべきかとなった。
だが「パルプ製紙工場だけではなく、本の製本工場もこの辺り一帯なのです。そこではあらゆる本が製本されております。小説や絵本、参考書などは〜」
館長さんが色々、説明して下さっているがリリベルの耳は途中から『小説』のところで一時停止されてしまった。
小説の製本!がぜん興味が湧いてくる。
「小説っ小説とはどのようなジャンルを?」
「ジャンルは様々ですが、大体、王都で流行るような作品でございます。宜しければ小説部門の製本現場の見学をなさいますか?」
と提案され、我々は急遽、製本工場の現場の見学をさせてもらう事になった。
別荘の馬車で20分ほど行くと工場の屋根が見えてくる。
「私が前回、訪ねた時は美しい悲恋をテーマにした若者向けの泣ける恋愛小説を製本しておりましたが、今は何を作っておりますでしょうかねぇ?」
と館長さんがウキウキ仰る。館長さんも楽しそうだ。
彼は若者向けのライトな小説もお好きなんだそうだ。
東の国の恋愛小説は読んだ事がない!
西とは違う所はあるのだろうか?リリベルは元々、恋愛小説が大好きだった。
こっちで流行りの恋愛小説ならマリィ姉ちゃんや子爵家の女性使用人、シャーロット嬢、ダイアナ様へのお土産にもなるだろう。
「ザック殿下も、マックス殿下も私の趣味に付き合わせたみたいで申し訳ないです」とリリベルが言うと「いや、この国の最新の製本技術も気になるしな」とザック殿下は言ってくれ、マックス殿下も「妹さ土産にするだはんで」と仰って下さった。
「でも冒険物とかミステリーとか、そういうのなら俺も読みたいな〜」
「ホンニ」と二人も少し楽しみにされている様子で安心する。
印刷所と併設された製本所の建物に到着し、中に入ると製本所の所長室に通された。
「所長、忙しかったかな?西の第三王子殿下ご夫妻と北の王子殿下が製本の現場をご覧になりたいと仰ってね」と館長さんが言うと「西と北の皆様も本がお好きか?それは嬉しいな」と喜んで迎えて下さった。
「所長、しかも王子妃殿下の伯父君が司書殿だ」
「おぉ!300年ぶりの司書殿か!私はあの時の感動を忘れた事はないよ。私が生きている内に再び司書が選ばれるなんて」
「あぁ私もだ。また神が元気なお姿をお見せくださるなんてな!」
少々ブラコンの伯父で申し訳ない…と思った事は秘密だ。
「ところで所長、今、そちらの小説部門は何のジャンルを製本しているかな?今回、妃殿下方は小説部門の見学をお望みなんだ」
「小説か?それよりも食用オオトカゲ300周年記念の“オオトカゲ大百科”の製本の方が面白いと思うが?」
そうか、司書も300年ぶりだからトカゲ食文化も300年か。
だけど「トカゲはな〜…」とザック殿下、マックス殿下を見るとお二人も、あまり興味無さそうだ。
その様子を見て所長が「フルカラーなんだよ?」と食い下がる。
フルカラーのトカゲ要らない。
所長は少ししょんぼりするが、気を取り直して「じゃあこれから小説部門をご案内致します」と皆で移動する。
「ここでは常時、10種類くらいの本を製本しておりますが一番多いのは、やはり小説で次に絵本そしてHow to本が続きます。辞典や百科事典等の製本は何年かに一度なんですよ?」
と微妙にトカゲを推してくるけど、軽くスルーしておく。
「所長、今はどんな小説を製本してるんだい?」
「ああ確か今は女性向けのサスペンス小説だったかと。販売前なら口外禁止ですが、すでに増版された本ですので広めても大丈夫です」
製本室に入ると紙の臭いがする。そして働く大勢の人。
裁断されたページの枚数を素早くカウントし背表紙に糊付けをして表紙を貼って乾かして〜の一連の作業が流れで速やかに行われている。しかもどの人の作業も神業のように早い。
皆、製本のプロなのだ。
あっという間に1冊仕上がる行程はとても見応えがある。
「あの糊付けの噴射器が凄いな」
「はい。以前はハケで糊を塗っておりましたが、あの噴射器のお陰で均等に塗れ、乾きも早い、糊の量も少なくて済むと良い事ばかりなのでございます。噴射器は西の国や周辺国にもすでに導入され始めておりますよ」
「では特許を持っている商会はかなりの儲けでは?」
「いいえ。噴射器は神様のお知恵なので、司書殿の手で技術は無料で広められているのです」
伯父様、お仕事頑張っておられるのだな。
だが今は製本されている小説の事だ…。
お願いっ!誰も気付かないで!
「おぉ今、製本中の小説はあの悲しい悲恋の物語の18禁バージョンではないか?」
気付かれたっ!
「第三王子殿下、妃殿下、今製本中の本は西から来た小説ですぞ!」
ザック殿下がジト目でリリベルを見てくる。
殿下!これは私ではありませんよ!
リリベルは必死に誤魔化す為に、つい余計な事を言ってしまった。
「トカゲ!オオトカゲ大百科見たくなりましたっ!」
喜んだのは所長だけだった。
でも小説の正体に気付いたのはザック殿下だけだった。
そしてフルカラーのオオトカゲ、雄はキレイなピンク色だった…。




