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「おぉこの白、少し甘めだが飲みやすいな。ジュースのように飲めてしまう。危険だな」
「こっちの辛口もフワッと香るリンゴやレモンのような香りに爽やかな酸味の味わい。どんな料理にも合いそうです」
「あと一杯だな」
3人で顔を見合わせる。
「やはり昨晩飲んだ濃厚な赤だと思うんだが」
「同意!」
「ちゃんと所長に聞いておきましたから」
とリリベルが銘柄を伝えると残念ながらそのワインは無く、違う年のワインか同じ年なら別のブドウのワインを勧められた。
だが店で飲めないだけでボトルはあるのだと言う。
すでに本数が少ないので店での試飲に出せないのだそうだ。
「さすがに1本を3人では飲めないですね」
「これからの旅程もあるから持ち歩けないしな」
「諦められるが?美味ぇはんで本数も少ねのだぞ?」
「こちらのワインはもう表には出しておりません」
先ほど厩舎に案内してくれた年配の男性が仰る。
彼はこのワイナリーのシニアソムリエでワインのブレンディングも任されたベテランだった。
「王子殿下方、妃殿下、宜しければ我がワイナリーのキュヴェをご案内致しますわ」
それは行きたい!だが馬達は大丈夫だろうか…。
ザック殿下も同じように思ったみたいで「馬達の様子を一度、見ても良いだろうか?」と言うと「厩舎は道中ですので馬の様子も見て行きましょう」と皆で外に出ると、店の入口には『本日休業』の張り紙が。
「オーナー、休業にしてよろしいのですか?」
とリリベルが聞くと「殿下方と他のお客様をご一緒させる訳には参りませんわ。本日は貸し切りにしましたので、どうぞゆっくりご覧になって下さいませ」と言って下さった。
そんな事を言われてしまったら、一本開ける気になるではないか!
厩舎を覗くとサオリ達はご機嫌に飼い葉を食んでいる。
セノビックが一瞬顔を上げたが、ザック殿下を見て「俺たちの事は気にすんな」と言わんばかりに、再び顔を飼い葉に突っ込んだ。
「なんかエサへの食いつき良くないですか?」
「ホホホ、エサにワインの搾りかすを混ぜましたわ。この辺りではよく牛のエサに搾りかすを混ぜますの」
「えっ!そんな贅沢を?」
「この白馬達は普通の馬ではないのでございましょう?」
「こごは国境さ近ぇはんで北の騎士達もよぐ直接ワインさ買い付げに来るだ」
「なるほど北の騎士達も来るのか。だからスネイプニルの扱いにも慣れているんだな」
「赤ワインに使った搾りかすは特にポリフェノールも多く、肉質も良くなりまして、我が国ではこのエサで育った牛を高級ブランド牛として取り扱っておりますの」
それはそうかもしれないが、肉質とか言われちゃてるぞサオリ。
結局、我々は午前中にこのワイナリーを隅々まで見学し、ランチで一本ワインを開け、それから少し酔いを覚ましてから午後に移動を再開する事となった。
「ホホホ。お代は結構でございますわ」
「そんな訳には!」
「殿下方への結婚祝いでございますわ。北の騎士様にもご贔屓して頂いておりますし」
「ですが貴重なワインまで開けましたから!」
「まあ。でしたら…可能であればで結構ですわ。お二人の結婚式の引き出物でお配りになったアップルワインを頂戴できませんか?」
「え?そんな物で良いのですか?」
「可能でございますの?」
オーナーの目が光った気がした。
「恐らく。伯父に連絡してみます」
リリベルは伯父に向けて伝令鳥を飛ばす。
「おいだば関係ねがら払うわ」
「いいえ!北の殿下には…ホホホ。リリちゃん人形を頂戴できましたら…」
「…分がったわ。何体だ?」
「宜しゅうございますの?」
またオーナーの目が光った!
それからワイナリーのオーナーや、ソムリエの皆さんに見送られて出発した。
「いや〜あんな物と引き換えに随分サービスして頂きましたよね〜?」
「ホンニ。得すた気分だや」
「自分の人形をあんな物扱いしていいのか?」
「それを言うならスネイプニル達も肉質良くなっているかもですよ〜?」
「ホンニ!ガハハハッ」
我々はまだホロ酔い気分が残っていて、かなり上機嫌だったんだと思う。スネイプニル達も。
それからは遅れを取り戻すかのように走り、予定通り山の麓の宿に到着した。
私達の引き出物のアップルワインもリリちゃん人形もその後、恐ろしい程の価値になっていたと知るのは帰国後だ。




