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夕食の時間になって、呼びに来てくれたメイドの案内で昼食を食べた食堂とは別の部屋に案内される。
ちょっとした晩餐室のような部屋で、中では既に検問所の所長と砦の隊長と思しき方がお待ちだった。
マックス殿下も直ぐにお越しになって食事が開始される。
「山の中なので、大したおもてなしは出来ませんが」と所長さんは仰るが、東と北の物資が交差する場所だ。
なかなか贅を凝らしたメニューだった。
中でも冬の間、熟成されたという様々な動物の肉のジビエ料理が、また素晴らしかった。
「山の中なので山の幸には困りませんから」と仰る。
子爵領と同じだ。
山菜やキノコなど食材が似ているが、子爵領とは違って川や清流が流れていないそうで、魚などの水産物は干した物が多いそうだ。
少し離れた場所には湧水の池があって釣りなどは出来るらしいが、釣った魚は食用にはならないと仰っていた。
美味しいジビエ料理に合わせられたお酒は東の国の赤ワインで、東の検問所から少し下った地域は葡萄畑が広がり、東の国のワインの一大産地なのだと教えて下さった。
最初は甘めの赤のスパークリングワインで始まり、ジビエにあった濃厚で重みのある赤ワインはとても美味しかった。
皆、お酒が進んでほろ酔いとなった所で言ってみる。
「私達の部屋に新婚のご配慮を頂きましてありがとうございます」と。
要はYES、NO枕を置きやがったな?って事だ。
だが彼らは何の事か分からない様子で「何がメイドがいだしたべが?」と聞いてきたので、思い切ってYES、NO枕の事を言ってみた。
すると「あれは北では夫婦の寝室さ必須アイテムだべ」と所長が仰り、隊長もマックス殿下もウンウンと頷いておられる。
冗談ではなく?マジか!?
我々の新婚に当てつけてワザと置いた物ではなかったのか!
ザック殿下は「またそんな物があったのか?」と驚いた顔をしていたが、所長の話によると北の男は無口な者が多いので女性を口説けない男性達への配慮で、当時の国王が女性からも“下品にならない意思表示を”と考案した物だと仰った。
しかも北の冬は長く、毎日を屋内に籠って過ごすので、する事が少ない男女にも効果的なんだとか。
ここで「何をだよ?」と突っ込んではならない。
北では出産も温かい春から夏にかけての方が子供の生存率も高い事から、今でも北は夏生まれが圧倒的に多いのだと仰った。
目から鱗や〜!だが、そこに愛はあるのか?!
今まで“いかがわしい枕”だと思っていた自分を反省したが、北の国以外では“いかがわしい”には違いないと気を取り直す事にした。
まさに異文化を感じた瞬間だったが「もすや東西の国ではYES、NO枕は置がねのだすか?」と隊長が聞いてこられたので「普通は置きません」と言うと仰天された。
「どうやって母っちゃと睦み合うだが?」と隊長さんが頭を抱え出したので「北ではどうぞ使って下さい」と言っておいた。
マックス殿下が「その枕さ考案すたのが、数少ねぇエメラルドグリーンの瞳の王だ」と仰ってまた驚いた。
しかも「すたばてぇそのお陰で人口増えだんだよ」と。
なんとビーバーちゃん人形と同じ国家事業でしたか!
リリベルは北ではYES、NO枕には敬意を表する事にした。
もう明日には出るけどね。
部屋に戻ってリリベルはクローゼットに押し込んだYES、NO枕を助け出す。
ザック殿下が「そんな所に押し込んでいたのか」と仰り、続けて「絶対ないと思うが他人の家で見つけて、どちらかの面が日焼けしてたり汚れていたりするのを見たら、きっと居た堪れないな」と仰った。
なのでリリベルも「北では掃除や洗濯のメイドにはなりたくない!」と言うと「君は見られる方だろ?」と言われて唖然となった。
そもそもメイドじゃなくても両親とか近しい親族のそういうのは見たくない。
やはりYES、NO枕は無しだ!とリリベルは強く思うのだった。
まさかYES、NO枕でこんなに真剣に語るとは私も思っておりませんでした。




