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その日の夕食の席でリリベルは陛下に告げる。
「やはり貿易ルートを通って東に向かおうと思います」
「そうかそうか、それが一番安心だねぇ。街道沿いなら道中、観光できる場所もあるだろう。皆からオススメを聞いておくといいよ」
「でもずっと大事なスネイプニルをお借りしていいのでしょうか?」
「嫌だったら馬達が行きたがらないからいいんだよ。だがきっと暑さは苦手だろうから体調にだけは気を付けてやってくれ」
確かに南や火山の国を訪れる頃は夏場になるだろう。一番暑いタイミングに暑い国に行くのだから大変だ。
「そうだ、さっき末の娘から王子をリリちゃんから紹介して貰うんだって言われたんだけど、いいのかい?」
「はい。でも今のところ東の第一王子殿下しか思い付かないのですけど」
「そうか。彼ならきっと国王になるね。じゃあ、あの子には十分な教育をしとかないといけないな」
まだ分かんないですよ〜話すだけですよ〜って思ったのだけど、後でザック殿下に「君も王族になったんだよ。王族の言葉は重いんだ。ただの紹介では済まないよ。国と国の仲介になるよ」と言われて冷や汗をかいた。
つまり私が双方を見込んで仲介した事になるんだ!
私が王女殿下にした口約束も国と国の約束って事!今後発言には注意しないといけないなと反省するのだった。
翌日はまたスネイプニル達の様子を見に行く。
今日はマックス殿下が仔馬の調教をされているというので見学をさせて貰うことにした。
仔馬の気が散らないように建物の2階のテラスで上の方から見学する。まだグレーの仔馬は背丈もマックス殿下の胸辺りだ。これから大きくなるにつれ体毛も白くなっていくらしい。
厩舎の厩番が案内しながら説明をして下さった。彼はスネイプニルの騎馬隊に入りたかったのだが騎士の才能が無かったので入隊を諦めたそうだ。
だがやはりスネイプニルを諦めたくないと厩舎に就職したそうだ。スネイプニルの厩舎勤めもこの国では名誉な職だそうだが、馬達に嫌われる人はまずなれないそうで採用試験では一番最初に馬との相性が見られるんだそうだ。
「どういう人がスネイプニルに好かれるのだろうか?」
ザック殿下がお尋ねになる。
彼は女神様によってスネイプニルに許された立場だから気にしているのかもしれない。
でも厩番の彼も分からないそうだ。容姿も特に関係ないそうで自分と同僚を比べて共通する条件も特に分からないと仰った。
「スネイプニルの基準を満たさなかった馬達はどうなるのか?」
と聞くと普通に軍馬として騎士団に降ろされるらしい。
それはスネイプニルに選ばれなかった騎士も同様で、半年かけて主人に選ばれなかった騎士は騎士団の配属になるそうだ。
毎年30人近くの騎士がスネイプニルに挑むそうだが、主人のいないスネイプニルは今は10頭で、その中に私達が名前を聞いて知っているサオリ、タナカ、セノビック、マラサダがいる。
恐らくこの馬達は王族専用と裏で言われているので、この馬達から王族以外の乗り手が選ばれる事はないだろうと、残りの6頭を1年中30人が競っていると言うのだから、どれぐらい難しいのかが分かる。
「なあ?子爵領にはもっと頭数がいないか?」
とザック殿下が仰る。
確かに子爵領には頭数だけなら60頭はいると思う。だけどここの馬達と全く同じではないと思うけど。
「もすかして西の子爵家の方だすか?以前、西のスネイプニルを返してもらったら、もっと騎馬隊を増やせるという話になった事がありましたが…」
と厩番が仰る。
もしかして北の騎士達が子爵領に向かおうとしていた事件の事だろうか?
「うちの馬達は全くの野生馬ですので難しいと思います。彼らの攻撃力はご存知でしょう?特にうちのは集団攻撃を得意としていますから」とリリベルが言うと厩番も「はい。陛下も西の馬達は自由だはんで良いのだど仰っておりました」と仰った。
そしてさっきから仔馬の調教を上から見ているのだがマックス殿下はムチとか一切持たずに仔馬に話し掛けている。そして仔馬はそれを理解するかのように動いている。
凄い!ああやって調教するの?
私達が驚いて見ていると厩番が「あの仔馬は立派にスネイプニルに育ちそうだすねぇ」と仰った。
つまりスネイプニルとは人間と意思疎通できる事が条件という事なのだろうか?
「人と意思を交わせると言う事は、全ての能力に秀でているという事か?」とザック殿下がお尋ねになると「そのようだす。んだどもやっぱし調教は王族にしかでぎねぁ。女神様の馬だすから」と厩番は仰った。
ザック殿下はまだ仔馬を見ていたので、リリベルだけで馬場に出るとサオリが走って来た。
「サオリ!今日はいた」
リリベルは柵から手を伸ばしてサオリを撫でる。
「サオリ、明後日、北を出て東に行くの。また一緒に旅してくれる?多分、その後は南に行って火山の国にも行くの。一緒に来たら北の国にも3、4ヶ月は帰れないし、それに夏になるから南も火山の国もきっと暑いわ」
サオリはそんな事、気にしていないようにリリベルに頭を擦り付ける。
「ありがとう。サオリは頼もしいね」その時声がした。
「その馬、そったらに懐いで凄ぇねす」
リリベルは声がした方を見ると、若い騎士2人がこちらを見て近付きながら言ってきた。
「スネイプニルさチャレンジすて2ヶ月になるんだども、まだどの馬も心開いでぐれね」
「その馬は穏やががい?女性の君さ懐いでらす」
まさかサオリに挑むのか?!やめた方がいいだろう。すでにサオリが警戒し始めたぞ…。
「あ!この馬、警戒し始めだぞ。やめた方がえ」
「そうだな。あっちの馬は?」
と騎士は去って行ったが、あっちは多分、タナカだ。
タナカはサオリより穏やかで優しいけど…。あ〜やっぱり追い払われている。
騎士達は厩番達と世話をしながら親交を深めていくらしい。
背に乗せて貰えば主人と認められるらしいので、今は馬場に出ている馬にアプローチしているのだろう。だが今のままだと、ちょっと遠いなとリリベルは思った。
「リリ、サオリに会えたか?」
仔馬の調教を見終わったザック殿下が厩番と馬場に出て来た。
「ザック殿下、スネイプニルに選ばれる条件が何だか分かった気がします」
「え?!」厩番も殿下と一緒に驚いていた。




