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「北の神殿で女神様にご挨拶しました。リリちゃん人形は送ってくれるそうです」と伝令鳥を出しておいた。
王妃様が欲しがっているとお伝えすると、これからの旅に荷物になるだろうと送ってくれる事になったのだ。
翌日は北の王都の観光をする事になっていて陛下とリズベット王女がご一緒して下さった。
今は移動中の馬車の中だ。
「陛下はお仕事大丈夫なのですか?」
「うん。私は、もうそろそろ引退するから、最近は王太子に任せているんだよ。うちは王族も多いから皆で手分けしてやってるよ。今日は本当は王妃達も来たがったんだけどね。大人数は目立つし警護が大変だ」
そう王妃様も三人いらっしゃるしな。
お三方とも仲が良さそうだったけど、なんかノリが侯爵家と似てるんだよな〜。
「ハハハッ毎日、賑やかだよ。そうだ妹の、私の義理の兄弟でもあるが、西の王妃の兄達はどうしているか知っているかい?」
「さあ?母からは何も聞いたことはありません」
「そうか。あの子も知らないのかもな。でもきっと君の伯母達はご存知だよ」
「え?侯爵家の伯母達ですか?」
「そうそう。まあ後で寄ろう」
「お父様、もすかすて行がれるのだが?」
「ああ久しぶりだしな」
「わあ楽しみ!」
私とザック殿下は何の事か分からなかったが、その内分かるならいいかと王都の観光を楽しんだ。
北の街並みは東西とは変わりないが、店で売っている物も日常食べられている食品も少し違っていた。
寒い国なので保存が効く食品やお菓子、度数の高いお酒など、冬が長いので暖かい時期に、そういう物を準備しておくらしい。そして毛皮。フサフサの質の良い毛皮の衣類や小物は北の国はとても充実していた。
食品やお土産物以外にも見応えがあったのは動植物園だ。
巨大な温室に北以外に生息する植物、動物や魚がたくさん飼育され国民に解放されている。
「本当はリクガメ達も、ここに連れて来ようと思ってたんだけどな。リズが自分で世話をしたいって言うからな」
「犬や猫なんかよりもカメで良かったのかい?」
ザック殿下が不思議そうに聞く。女の子ならそういう動物を好むだろうと思ったんだろう。
「カメさんたち、緑の目すてらはんで、めんこくて」
意外な答えだった。カメは水場に棲むミズガメ、ウミガメは水色の目、クサガメやリクガメは緑の瞳、砂漠や岩場などに棲むイワガメ、スナガメは琥珀色の目をしている。
「クサガメも緑の目だろう?リクガメを入れたらコンプリートだったのにな〜」
「クサガメは北の国にもいるし!それに大ぎぐねもん」
クサガメは種類はあるが全ての国に一番、生息している一般的なカメだ。確かにリクガメの方が大きいし珍しいだろうけど。
「国民も見たいと思うよ?」
「わが死んだら動物園に入れるどえわ。どうせわより長生ぎだす」
「王女殿下はリクガメをお気に召したのですね?」
「そうよ。走り寄ってはごねんだども、ちゃんとわの事が分がるの。エサ持って行げば顔出すて頭上げでけるのよ」
‥‥それはエサを持っている人には全員するのかもしれないけど、私もザック殿下も野暮じゃないので黙っておいた。
そしてお昼を食べた後、連れて行かれたのは劇場だった。
「君の母の父上、君の祖父だが元は平民で舞台俳優だったって聞いていたかい?」
リリベルは王妃様に聞いて知っていた。
北の大スターでとてもカッコいい男性だったらしい。
だがザック殿下はご存知なかったのか驚いている。
「知らなかったのか。とても人気の俳優で美男子だったよ。君の兄君、西の王太子が彼にそっくりだよ」
それはリリベルも知らなかった。
「彼は女王と結婚したが王族にはならなかった。だけど彼はその容姿と演技力で絶大な人気があってね。女王が民の支持を得られたのは彼の助けがあったからと言っても過言ではなかったよ。私の兄達は王子として育っていたが二人共、早くから王族を抜ける事を考えていたようだ。それで妹が嫁いだのを機に王家を出て父親と同じ道を進んだんだ。上の兄の方は演出や運営の方を主に学んで、下の兄は俳優になった」
「もしかして、この劇場は?」
「ああそうだ。兄達の劇場だよ。春に公演される劇は明るく短い喜劇が多い。リズベットくらいの年齢にも親しみやすいんだ。夕方になる前には終わるから丁度良いし劇を観ていこう」
陛下に連れられて劇場に入ると、直ぐにスタッフが出て来て劇場内を先導してくれる。
陛下はとても目立つので周囲の人達も直ぐに気付く。
陛下も王女殿下も周囲の声に、にこやかに軽く挨拶をしながら進んで行く。
案内されたのはボックス席や2階席などもない、小さい劇場で私達は既に観客が揃っている中、最後尾の列の中央に座る。
最後列でも小さい劇場なので、オペラグラスなど無くても十分見える。
我々が着席すると直ぐに劇は始まった。
内容は、自分の妻となる人を探して色んな国を旅している王子が、王女が5人いる国を訪れた時、王子は5人の中から自分の妻を決めようとして、どの王女を選ぶかという話の中で巻き起こる恋愛コメディだった。
王子はもちろん金髪碧眼のハイスペックイケメンで、選ばれた王女は5人の中で容姿が美しくないと家族に虐げられていた王女だったが、一番賢く、心が美しい王女という設定だった。
王女は王子に選ばれ国を出てハッピーエンドでサクッと1時間半ほどで終わった。
なるほど、観客は子供から10代前半の若い世代が多い。
だが劇のクオリティは決して子供向けと侮れない素晴らしさだった。
「北では小さいうちから質の高い劇や音楽に触れさせるんだよ。冬場はあまり外で過ごせないからね」
と陛下はそう仰った。
観劇の後は劇場の控え室に通された。
そこには二人の年配の男性がお待ちだった。
「陛下!王女殿下、よくお越し下さいました」
「や〜兄さん達!急に来て悪かったね。西からのお客様に劇を見せたくなってね」
「西から?!」
「赤い髪?もしかして?」
「母上の兄君方でらっしゃいますか?お初にお目にかかります。西の第三王子です。こちらは妻です」
とザック殿下が挨拶をされたので、リリベルもスカートを摘んでお辞儀した。




