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「おはようございます。クレアさん」
「まあ!第三王子妃様、もう起きてらっしゃいましたの?てっきりお昼近くのお目覚めかと…」
確かに昨晩は初夜だったから、本来ならそうなる事が多いんだろうけどね。
「直ぐにお支度を手伝いますわ。朝食もお持ちしますか?」
「えっと…支度はまだいいわ。朝食は私の分と、彼には消化の良さそうなスープだけお願い。あと氷嚢をお願いできますか?」
「かしこまりましたわ」
ベテラン侍女のクレアさんは、直ぐに殿下の状況を察したのか部屋の外に消えて行く。
そして、それらを運んで来たのは若手侍女のセーラさんだ。
「第三王子妃様、本当にワゴンを中にお入れしなくてもよろしいのですか?」
「ええ、ここでいいわ。ありがとう。この後は用がある時だけ呼ぶから」
「はい。かしこまりました」
リリベルはワゴンを寝室に入れて、用意してもらった氷嚢を殿下のオデコに載せる。
「あ〜冷たくて気持ちいい。まだ頭がズキズキする」
「殿下、あれだけ飲んだら、そりゃあねぇ」
「絶対ワザとだよなぁ?」
「‥‥‥」
恐らく皆、面白がって飲ませてた。
特に我が従兄弟達中心に、マレシオン様も元生徒会の面々も、祝いの言葉と一緒に殿下にお酒を注いでいたと思う。
またそれを真面目に飲むからいけないんだ。
リリベルは朝食を食べながら聞く。
「スープは飲めますか?」
「まだいい。飲んだら吐くわ」
今日は一日動けないだろう。だが新婚の夫を放っておくことはできない。どうせ今日の予定は何もない。恐らく明日もだ。
だから、ただ夫の横に居ることに決めた。
「鼻血は?もう治ってますか?」
「うん。せっかく…ピンクの…かわいぃ…」
夫はまた寝落ちした。
リリベルは朝食を食べ終わるとスープだけ残してワゴンを外に出す。そしてシャワーを浴びることにした。
姉からもらったピンクの可愛い寝衣はお着替えだ。今日はもう部屋から出ないし、また寝衣でいいか。でも今度は普通の寝衣だ。
彼はきっと残念がるだろうな〜と思うが、まあまた機会はある。どうせこれから死ぬまで一緒にいるんだし。
リリベルはそう思ってシャワーを浴びた後、またベッドに入る。自分もずっと結婚の準備で忙しくしていたから、こんな時間は有難い。横になると直ぐにウトウトしてきて目蓋を閉じた。
それから、ちゃんと復活した夫と無事に結ばれましたよ。
それに次の日の活動はお昼近くだったので、二人の侍女達にも安心された。
全く“ご心配をお掛けしました”だ。
私達はこの後、新婚旅行で各国を返礼しながら周遊する予定になっている。私の結婚の準備は各国のお陰で成り立っているし、結婚時の祝電もお祝いの言葉と共に顔を見せに来い!という内容がほとんどだったからだ。
だからザック殿下と一緒に王太子様や王太子妃様と日程や人員の打ち合わせなどを行なっていると、突然一報が入った。
「王太子殿下、侯爵家から第三王子妃様に急ぎの伝令が参りました」
執務室の扉を開けたライ兄からリリベルに侯爵家からの手紙が渡される。内容を読むと同時にリリベルは立ち上がった。
「どうしたんだ?」
皆が驚いてリリベルを見る。
「サオリがまた侯爵家に現れたそうです。次はセノビックを連れて」
「王太子殿下、サオリを連れて来ます。王城内で連れて来ても大丈夫な厩舎は?」
「リリ、王子宮の厩舎に連れて来させよう。世話をできるのが私達しかいないから」
ザック殿下がそう言うと王太子殿下は溜息を吐いて仰った。
「王子宮の馬を全部、他に移動させる。リコ、頼めるか?」
「おうよ!」
「ライオットは近衛達に、戻って来る白馬のルートを確保せよと指示を出せ。城内の人間が近付かないように、こちらも触れを出す」
「リリベル妃、侯爵家にはスネイプニルを世話できる人間が今はいないのかしら?」
そこまでして王城に連れて来る必要があるか?という事だな。
「今は侯爵家に次兄がいるそうですが、サオリが兄を拒否しているそうです」
「そう…それでは仕方がないわね」
リリベルは直ぐに支度をして侯爵家に向かう事になった。
「わー!妃殿下の乗馬服姿、素敵ですぅ」
「セーラ!余計なことは言わないのよ」
「構いません。では行ってきます」
王子宮の馬車乗り場に行くと乗馬服に着替えたザック殿下も待っていた。
「セノビックは俺を乗せてくれるかな?」
「サオリが受け入れてくれたから大丈夫じゃないでしょうか」
「だといいな」
二人で馬車に乗り込んで侯爵家に向かった。
「王太子殿下、計画の見直しが要りますわ」
「ああ。訪問は北からだな」
「王太子殿下、妃殿下、リリベルが早速、ご迷惑をお掛けして申し訳ありません」
「ベルトルト、君のせいじゃないよ。まあ…多少は予想していたよ。君の妹は嫁いで来ても静かには過ごせないだろうってね」
「早く二人を旅に出しましょう。その間は静かですわ、殿下」
「そうだな」
三人だけになってしまった王太子の執務室で、三人は同時に溜息を漏らすのだった。




