様々な愛の形が入り乱れて
「あなたたちは一体……」
「いやだわ、バイロンと私達は血縁関係ではありません。彼はヴェローナの事を昔から慕っているだけ」
「慕ってって……ならばヴェローナ様へ想いを伝えればいいではありませんか!」
「それだけが愛ではないんですよ、カタリナ様。彼女の望みを叶えてあげるのが私なりの愛なんです」
バイロン隊長はとても幸せそうに笑っていて、彼の口調から本気である事が伝わってくる。
そういう愛の形もあるのかもしれない。
でもその為に人を殺そうとするなんて間違ってる!
言い返そうとしたけれど、突如夫人に首を掴まれ、声を出せなくなってしまう。
「ぅ……っぐ……」
こんなに痩せているのに……凄い力……!!
振りほどけない!
「うふふっ、ヴェローナはね、誰よりも幸せになる為に生まれてきた子なの。どこぞの馬の骨にあの子の幸せを奪われてなるものですか!」
「やめっ……っ!」
そのままソファに押し倒され、夫人の手の力は更に強まっていく。
なんとか抜けださなければ……せめてレブランド様が戻ってくるまで……!!
きっと旦那様なら気付いて、すぐに戻ってきてくれるはず!
私はなんとか視線を動かし、近くにある花瓶に目を付ける。
「ふっ……ぅ……」
「夫人、そのまま押さえていてくださいね」
コツコツと足音がしたかと思うと、すぐ横にバイロン隊長がきていて、剣を抜いていた。
その剣を垂直にかざし、私を見下ろしている。
心臓の音がひと際速くなり、『死』が頭を過ぎる。
いやよ、こんなところで死ねないわ!
アルジェールや旦那様を残して
絶対に死ぬもんですか!!!
花瓶を掴んだ私は、思い切り夫人に向かって花瓶を振りかざした。
――ゴンッッ!!――
花瓶は鈍い音を出して夫人の頭部に直撃。
ほとんど同時にバイロン隊長が剣を垂直に振り下ろす。
そしてその剣は――――花瓶をぶつけられて体勢を崩した夫人の胸に突き刺さった。
「ぎゃぁぁッ!!!」
そこから血が噴き出し、私のドレスを真っ赤に染めていく。
そんな……こんな事になるなんて…………。
「あーあ。刺さっちゃったじゃない」
「え……」
「カタリナ様一人押さえておけないなんて。仕方ない、私がやるしかないか」
なんてあっけらかんと……何かの業務をするみたいな言い方に、空恐ろしい雰囲気を感じる。
バイロン隊長は夫人から剣を引き抜くと、そこからさらに血しぶきが舞い、夫人は動かなくなっていった。
このままじゃあっという間に刺されてしまう。
逃げなきゃ!!
少しずつ後退りながら距離を取り、一気にバルコニーの方へ走った。
でも――――長い髪を掴まれ、その場で押し倒されてしまう。
「ああっ!!」
「フッ。やっと捕まえた」
「……ぐっ……バイロン隊長、なぜこんな事を……!レブランド様だってあなたを信頼して……」
「本当にね。ありがたいくらい信頼してくれてるよね」
「じゃあどうして!!」
「それでもヴェローナの望みを叶えてあげたかったんだよ。私は彼女と結ばれる事は出来ないし、閣下こそが相応しいから」
バイロン隊長の瞳がとても哀しい目をしている。
彼は身分的に結婚相手にはなれないのだろうか。
レブランド様をとても尊敬しているようにも見えるのに……だからといって、その為に命を差し出す事はできない……!
私にだって守りたいものがあるわ。
チラリと視線を動かすと、太ももに短剣が帯剣されていた。
一か八か、これを引き抜いて……そこで扉がドンドンと叩かれる。
『カタリナ!!!!』
ほんの少しバイロン隊長が扉の方を向いた。
今だわ!!
「レブランド様――!!!」
隊長の短剣を引き抜き、彼の太ももへと突き刺す。
「ぐあぁぁっ!!!」
バイロン隊長が痛みで悶絶し、それと同時に扉に体当たりしたレブランド様によって扉が破壊された。
女のやさ腕だけれど、少しは隊長にダメージを与えられたみたい……!
なんとかレブランド様の方へ駆けて行き、彼の腕の中におさまった。
「レブランド様!!」
「カタリナ!!!すまないっ!」
やっぱり戻ってきてくれた!
この腕の中にいれば何も心配する事はないと思える。
レブランド様は部屋を一瞥して、色々と状況を察した様子だった。
私は彼の顔を見るのが辛くて…………バイロン隊長を本当に信頼していたと思うから。
でもこちらへ微笑んだかと思うと、「危険だから下がっていてくれ」とだけ告げて、隊長の方へ歩いていった。
その手には剣が握られている。
殺してはダメ……そう言いたいけれど。
これは二人の戦いだから、見守るしかないのよね。
先に口を開いたのはレブランド様だった。
「バイロン、まさかお前が与していたとはな」
「……っ団長。家族ができて、脇が甘くなったんじゃないですか?」
「お前もな。足をやられるなんて、鍛錬を怠っていたんじゃないか?」
「これは完全に団長のせいです。扉をぶっ壊すなんて、バケモノじゃないですか」
普通の会話に見えるけれど、胸が軋む。
きっとこれが最後の会話になる気がして。
「………………気が済んだか?」
「………………」
「どう足掻いてもお前の計画は実る事はない」
レブランド様は剣を振りかざしている。
「いいんですよ。敬愛する閣下の手にかかるのなら本望です」
「そうか」
彼が素早く剣を一振りしたかと思うと、バイロン隊長の叫び声が聞こえてくる。
「ぐあぁぁああ!!!」
私は固唾を呑んで見守るしかなかった。
でも隊長は亡くなってはいない……手首付近からとめどなく血が流れでている。
「な……っなぜ……!!」
「それではもう剣は握れまい。その腕で、一生償いながら生きるのだ」
隊長に背を向けたレブランド様は、それ以上何も話す事はなくこちらへ歩いてきた。
私は何とも言えないその表情に自然と涙が出てくる。
「レブランド様……」
「あとは他の者に任せよう」
「はい」
すぐに騎士団の方がやってきて、この状況に驚きつつもレブランド様の指揮のもと、バイロン隊長を捕縛した。
そしてザックハート伯爵も捕まり、この件は舞踏会の後、瞬く間に貴族間へと広がっていった。
私はドレスが血まみれになってしまった事もあり、その日はもう夜会に顔を出す事はせず、公爵邸に戻るべく馬車に乗り込む。
馬車の中ではずっと、手を握り合っていた。
馬車の窓から外をぼんやり眺めると、こんな時でも星々は綺麗に輝いていて、変わらぬ夜に安心する。
「レブランド様、いつか二人で、世界中を旅しましょう」
「二人で?」
「はい。子供たちも大人になり、私達だけで……きっとレブランド様と二人なら、どこに行っても楽しいと思います」
私はあえて今日の出来事には触れなかった。
きっと色々な想いがあるに違いないけれど、触れてほしくないように思えて。
レブランド様も隣で穏やかな表情をしているので、これで良かったんだと思った……のに。
「そうだな。ではもっと子供をつくらなくてはな。子供“たち”と言われたからには頑張らねば」
「~~~っ!!そういう意味で言ったんじゃありませんっ!」
「はははっ!」
馬車は私たちの笑い声を乗せ、ひっそりと公爵邸への道のりを進んでいった。
~・~・~・~・~
次で最終話です!
最後までお付き合いいただけると幸いです~~<(_ _)>
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まだまだ続きますので、最後までお付き合い頂ければ幸いですm(__)m




