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夢のような縁談


 あの建国祭の夜から一カ月。

 私は窓辺でため息をついていた。

 国に戻ったら真っ先にお母様に叱責され、罰として北にある塔の一室に入れられて反省を促された。

 お兄様があの夜の事を言ったのよね……どんな風に言われたかはすぐに想像出来る。

 閣下に散々ご迷惑をおかけして国の恥を晒したとか、そんな事を言ったのでしょう。


 でも私はそんな事、どうでも良かった。

 あの夜の事は私と閣下が分かっていればいい事だし、誰にも触れてほしくない。


 レブランド・パッカニーニ公爵閣下。


 とても優しくて強面で、真実を見極める目を持っていらっしゃって平等なお方――――

 また会いたい。

 どこかに嫁ぐとしても閣下のもとがいい。

 そんな願望が湧いてくるようになっていた。

 貴族王族の結婚なんて政略結婚ばかりなのだから、こんな願望が通るわけがないのに。

 それに閣下ほどのお方なら婚約者候補も引く手数多でしょう。

 わざわざ小国の王女を妻にしなくとも、国の貴族女性を妻にして自国での地位を固めた方が利があるに違いない。


 せめて私が閣下と同じ国の貴族女性だったら……少しでもお顔を見る事が叶ったというのに。

 ここ数日は自分の人生を呪う日々。

 こんな状態で他の男性と結婚など出来るのかしら。


 そう思っていたところに、突然侍女がやってきて、私に声をかけた。


 「ミュレイ様がお呼びでございます」

 「お母様が?」


 何かしら。物凄く嫌な予感がする。

 そしてその予感は見事に的中するのだった。


 「よくきたな、カタリナよ。あの塔に入って一カ月、少しは反省し、自身の行いを悔い改める気持ちになったか?」

 「………………はい」


 何を悔い改める必要があったのかは分からないけれど、否定しても長引くだけだと思い、無難な返事をした。


 「ふん。まぁよい。そなたが兄に迷惑をかけた事は大目に見てやろう」


 私がお兄様に?そう……そういう話になっているのね。

 でもそれもどうでもいい。

 とにかく話を終わらせたくて何も言わずに黙っていると、お母様はそのまま話を続けた。


 「用というのはな、そなたに縁談が来ているのだ」

 「え?!」


 お母様の言葉に足元の感覚が冷えていく。

 どうして今……このタイミングで、一番聞きたくない話だった。

 

 「そなたが建国祭に行った時に見初めたらしい。ゴーディと一緒に行かせるのも渋ったが、結果として行かせて良かったというわけだ」


 建国祭の時にという事はレブランド様のいらっしゃるジグマリン王国だわ。

 彼のいる国に生まれたかったとは思ったけれど、他の方に嫁ぐ形で行くのだけは避けたかった。

 まさかモンテスト様?

 だとしたらどうしよう…………私は処刑前の受刑者の気分になる。


 「喜べ。レブランド・パッカニーニ公爵閣下からだ」

 「…………え……?」

 「鬼神と呼ばれる怪物だという噂だが、隣国の公爵だ。もしそなたとの縁談が成立すれば、我が国にとっても素晴らしいものになるだろう」

 「はあ……」


 何を言われたのか分からない。

 レブランド様が……?私との縁談を申し込んでくださったというの?

 お母様はかつてないほど喜び、私に対して「よくやったな、カタリナ」と顔を綻ばせている。

 こんなお母様は初めてかもしれない……私は頭が真っ白になり、人生でこれほどお目出たい日がくるとは思わなかった。

 このお話をいただいた後、お父様からも呼び出され、その場にいたお兄様にも褒められる。

 もはや私の人生で何が起きたのか分からない。


 とにかく一つ言える事は、私は大好きな人と結婚出来るという事……よね?


 この時の私は相当浮かれていたと思う。

 人生での幸せがいっぺんにやってきたのかもしれないと。

 そうして一月後にはジグマリン王国に向かい、我が国から10日ほど馬車に揺られ、公爵邸へと到着した。


 「カタリナ様。ようこそ、我が邸へ」


 わざわざ馬車の扉を開け、私の手を取り挨拶をしてくれるレブランド様。

 あの時は夜の闇の中であまりハッキリとお顔を拝見する事が出来なかったけれど、今は日中なのでしっかりと見る事が出来る。

 漆黒の髪はサイドを整え、前髪が一筋垂れていた。

 騎士公爵と言われるように大きなお体に甲冑を身にまとい、とても重そうなのに動きが軽快に見えるのは日頃から鍛錬しているからに違いない。

 今日は私を迎えるから髪を整えてくださっているのかしら……だとしたら嬉しいかも。


 「どうぞカタリナと呼んでください」

 「失礼。ではカタリナ」

 「はい、レブランド様」

 「ゴホンッ。せっかく到着してゆっくりお話をと思っていたのに、生憎王太子殿下からの呼び出しがあり……」

 「まぁ!それは行かないわけには参りませんわ。私の事はお気になさらずに」

 「誠に申し訳ない」


 こうして謝っている姿は小動物のように可愛らしいのね。


 「ふふっ、どうぞ行ってらっしゃいませ」

 「行ってまいります」


 手の甲にキスをして颯爽と去って行く姿を見えなくなるまで見送る――――とても律儀で誠実なお方。

 こんな素敵な方に嫁ぐ事が出来て、人生の幸せを使い切ってしまったのかもしれない。そのくらい胸がいっぱいだった。


 「さぁ、カタリナ様!お部屋へご案内いたしますね!」

 「ありがとう。えぇっと……」

 「はっ!申し遅れました!私はカタリナ様付きの侍女でオーリンと申します!」

 「オーリンね、仲良くしてくれると嬉しいわ」

 「は、はいぃぃ、ありがたいお言葉です!!」


 とても賑やかで可愛くて、親しみやすい女性が侍女になってくれて、胸が温かくなる。

 これもレブランド様のお心遣いなのかしら。

 そうだとしたら嬉しい。

 そして私は、まだ婚約中という事でレブランド様とは寝室は別になっていた。

 半月ほどで式を挙げるので、その後から初夜という事もあり、夫婦の寝室も用意されていると聞かされる。


 「夫婦の寝室……」

 「そうです、”夫婦の”寝室なのです!」


 繰り返し言われると恥ずかしくて、思わず顔に熱が集まってしまう。

 レブランド様と夫婦……まだ実感が湧かないけれど、いい夫婦になれるように努めよう。


 「旦那様はカタリナ様がいらっしゃるのを心待ちにしていらっしゃいました。私はこうしてお会い出来て嬉しくて……」


 オーリンは私より5歳ほど年上と聞いたけれど、とても若々しくてすぐに感情が表に出るのが可愛らしい。

 

 「私もあなたが私の侍女で本当に嬉しいの」

 「カタリナ様ぁ~~」


 感激の涙を流している彼女の頭を撫でてあげる。

 どちらが年上だったか分からなくなるけど、それもまた楽しいものねと幸せな気持ちになったのだった。


こちらの作品に興味を持って読んでくださり、ありがとうございます^^

もし続きが気になったり、気に入って下されば、ブクマ、★応援、いいねなど頂けましたら励みになります(*´ω`*)

皆さまのお目に留まる機会が増えれば嬉しいです^^

まだまだ続きますので、最後までお付き合い頂ければ幸いですm(__)m

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