微かな違和感
ドルチェが我が家に来てから数日、息子はすっかり私たちの寝室に来なくなり、ドルチェと仲良く眠るようになった。
時々邸の侍女がアルジェールの様子を見てくれているけれど、特に問題もなくぐっすり眠れているようだ。
すっかりドルチェと仲良くなり、友達のような関係になっている。
ドルチェは王家お抱えの調教師によってしつけや訓練を受けていて、とても賢い犬だった。
毎日我が家にも調教師の方が来てくれて、アルジェールも一緒にしっかり学んでいる。
日々成長するアルジェールとドルチェに邸は一気ににぎやかになり、オーリンなんかは毎日目尻を下げていた。
「坊ちゃまは賢いお方ですね~~」
「オーリンったら、毎日同じ事を言っているわ」
「毎日、いつでも褒めたいのです!こんなに素敵な坊ちゃんなのですから、素晴らしいご当主になるに違いないのです!」
「そうね、どんな大人になるのかしら……私は優しい子に育ってくれれば、それだけでいいのだけど」
「いいえ、絶対全てを兼ね揃えた麗しい公爵様になるに違いないのです!」
「うふふっ。オーリンの方が親ばかじゃない」
彼女の言葉に思わず吹き出してしまう。
それと同時にそれほどアルジェールの事を大切に想ってくれて、胸が温かくなった。
邸に戻ってきて、本当に良かったわ……どうなるかと思ったけれど、やはりアルジェールはレブランド様の息子で色々な事をすぐに吸収していく。
まだ4歳にはなっていないけれど、すでに家庭教師もつき始め、勉強にも意欲的だった。
そんな息子とドルチェが遊んでいるのを庭でお茶を飲みながら見守る時間……穏やかで平和だわ。
侍女たちがオヤツを並べていき、オーリンがお茶を淹れながら、大きな声でアルジェールを呼ぶ。
「坊ちゃま~~オヤツの時間です!」
「わーい!」
呼ばれた息子は全速力で駆けてきて、ドルチェも負けじと駆けてきた。
「オヤツ!」
「ワフッ!」
「二人とも、行儀よくしないとオヤツはあたらないのよ」
「はい!」
「ワォン!」
「息もピッタリね」
二人の様子を見て、使用人達からも笑い声が聞こえてくる。
さんざん走り回ったからか、アルジェールはオヤツを食べる手が止まらない。
「ゆっくり食べるのよ」
「うん!」
「今日はブラウニーケーキなのです~~坊ちゃまの為に料理長が張り切ってました」
「美味しそうね」
私も自分の分のブラウニーケーキを食べようとしたその時、アルジェールが突然咳込み始めた。
「アル?!」
「ゴホッ!ゲホッ!!」
「何か喉に引っ掛かったのかもしれない!」
咳き込む息子の背中を叩こうとした瞬間、彼の口からナッツ類が飛び出してきた。
それと同時にアルジェールの息が落ち着いてくる。
「アル!アルジェール!」
「かぁさま……ふ、うぅっ」
「怖かったわね……」
震えながら泣きじゃくる息子を膝に乗せ、抱き締めながら背中をさすった。
喉に引っ掛かったのは全部出たのね……良かった。
何が入っていたのかと思えば、アルジェールのブラウニーケーキには大きめのナッツ類が沢山練り込まれている。
でも私のを見てみると、私のには入っていない。
これはオヤツを出す時のミスなの?
「坊ちゃま!大丈夫でしょうか?!」
「大丈夫よ、オーリン。でもこのブラウニーケーキ……ナッツ類が大きいし硬いからまだアルジェールには無理だと思うの。私のがアルジェール用だったのかしら」
「も、申し訳ございません!!我々使用人のミスです!!!」
「あなたのせいじゃないわ。私が気を付けていれば……これから気を付けましょう」
「はいぃ」
オーリンはこの一件ですっかり落ち込んでしまい、レブランド様はこの事を聞いて飛んで帰ってきてくださった。
ちょうど息子がお昼寝をしている時だったので寝顔を見て、ホッとした表情をする旦那様。
「大事に至らなくて良かった……」
「ごめんなさい、私がそばにいたのに気付かなくて」
「いや、君のせいではない。皆が気を付けなくてはならない事だ。料理長にも後で話を聞こうと思う」
「多分料理長は、アルジェール用にちゃんと作ってくれていたのだと思うの」
「侍女、か……」
「間違いは誰にでもあるものだから……」
そう、誰にでもあるわ。
でももし間違いではなかったとしたら……という考えが頭から離れない。
私は自国で散々嫌がらせを受けてきた過去もあり、そういう”一見誰がやったか分からないように手を下す”という陰湿なのを何度も経験してきた。
まるでそれを思い出すかのようで、背筋が粟立つ。
気のせいであればいいと願いつつ、レブランド様の胸に顔を埋め、邪念を振り払うように瞼を閉じた。
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まだまだ続きますので、最後までお付き合い頂ければ幸いですm(__)m




