我が家へ帰ろう 1 ~レブランドSide~
パン屋の皆と別れるのはなかなかに名残惜しいものだった。
私は1カ月ほどしか滞在していなかったが、私ですらそうなのだから、カタリナはもっと寂しいだろう。
馬車の中でも少し元気がない……私は彼女の肩を抱き寄せた。
「またアルジェールを連れて来よう」
「はい」
「かぁさま、とうさま。うみがみえる~~!」
馬車ではアルジェールが窓からの景色に興奮し、元気にはしゃいでいる。
彼にとっては初めての旅だろうから、見た事もない景色にわくわくが止まらないのだろう。
でもそんな息子の姿がカタリナを元気にしていった。
「海は大きいわね」
「うん!」
「窓から顔を出してはダメよ、アルジェール。こちらにいらっしゃい」
「はぁーい」
アルジェールはもっと見たかったのか、少しいじけたような表情でカタリナの隣りに座った。
二人とも愛おしすぎて、顔が緩んでしまう。
騎士たるもの、己の感情をコントロール出来なくてどうする。
自分を律しつつも、やはり顔が自然と緩んでしまうのだった。
「アルジェール、私の膝に乗ってごらん」
「うん!」
何かを察したのか、息子の表情がとても輝き、私の膝にちょこんと乗ってきた。
私は彼をしっかりと抱えながら、窓からまた海を見せてあげる事にしたのだ。
「わぁぁぁしゅごい!!」
「この後、船にも乗るから沢山海が見られるぞ」
「ふね?!」
船という単語が出てきて、さらに興奮していくアルジェールにカタリナは隣りで笑っている。
「ふふふっ。物凄くはしゃいでいますわね。船に乗ったら倒れてしまうのではないかしら」
アルジェールを見つめるカタリナの表情は母親そのものだ。
なんて美しいのだろう。
それと同時に笑顔が可愛すぎる。出会った時と少しも変わっていない、私を魅了した笑顔だ。
「可愛いな……」
「ええ。本当に」
「君の事だよ、カタリナ」
「え……な、な、なにを仰って……っ」
不意打ちを食らったらしく、彼女の顔は真っ赤に染まっていった。
今この場で二人きりだったら間違いなく抱きしめていたな……私は俯く彼女のうなじに軽くキスをする。
「レ、レブランド様……!」
「馬車ではここまでにしておこう」
「…………っ」
カタリナはさらに真っ赤になり、口をパクパクさせている。
彼女がこんなに感情が豊かで可愛らしいとは……隣国の王女として嫁いで来た時は緊張していたのもあったのかもしれない。
ロッジェで再会し、色々な事を話して彼女と過ごしていく内に、母としての強さが垣間見られるようになった。
それはアルジェールの為に彼女が頑張ってきた証なのだろう。
強くなくては息子を守れなかったのだろうから。
パン屋のリイザ殿から聞いた、カタリナの頑張りを胸に刻もう。
もう2度と彼女を孤独にはしない。
息子を膝に乗せながら妻の髪に手を絡める。
そして窓の外に視線を移すとだんだんと海が近づいてきたところで、港が見えてきた。
「アルジェール、そろそろ港に到着だ。船に乗って父様の邸に行こう」
「やしき?」
「私のお家だよ。君のお家でもある」
「いく!」
よかった。君のお家だよと告げて拒否されたらどうするべきかと思っていたからだ。
私はラルフのように言葉で伝えるのが上手くはないからな。
そんな私の気持ちを推し量ってくれたのか、カタリナが私の手を握ってくる。
「レブランド様、きっとアルもすぐに邸に馴染みますわ」
「そうだといいのだが」
「邸の皆も可愛がってくれるでしょうし」
「……そうだな」
そうだと願いたい。
しかしそうではない者も一定数いるだろう……ヴェローナとの結婚を吹聴していた者たちは邸から追い出したが、心の奥底でこの結婚に反対している者がまだいるかもしれない。
そういった者からすれば、アルジェールは格好の標的だ。
家族の幸せの為にも、しばらく邸の状況に目を光らせておかなくてはと考えていた。
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