息子の為に
今までもお熱が出る事はあったので、今回もそうかなと思いつつも子供の容態の変化はいつ起こるか分からない。
油断できないわ。
熱が高そうだし、ひとまず冷たいお水を汲みに行かなければならない。
「レブランド様、近くの川にお水を汲みに行きたいので、アルジェールを見ていてくださいますか?」
「それなら私が行ってこよう。力仕事は任せてくれ」
とても有難い申し出だわ……今は緊急事態だし、意地を張っている場合ではないわね。
「では、よろしくお願いいたします」
「分かった」
心なしか嬉しそうに見えるレブランド様は、大きめのバケツを受け取ると、意気揚々と川へ向かって行った。
海の近い村ロッジェの近くには小さな川がある。
とても綺麗な水が流れているので、この村の人々は生活用水として使っている家庭が多い。
私の家からも近く、様々な用途で使っていた。
「アル……もう少し待っててね。今水を汲みに行ってもらってるから」
「かぁさま……」
眠っていると思っていたアルジェールが目を覚まして、私を呼んでいる。
熱に浮かされて、目が潤んでいるわ……かなり高いように見える。
「アル、目覚めたのね!」
「かぁさま……レビィは?どこ?」
「騎士様なら今、水を汲みに行ってもらっているわ。すぐに戻ると思う」
「よかった……ぼくね、きしさまだいすき」
「そう」
「とうさまになってくれないかなぁ……」
「そ、それは……」
私が答えに詰まっていると扉が開かれ、バケツを持ったレブランド様が足早に駆け寄ってくる。
「アルジェール!目覚めたのか……よかった」
「レビィ。そばにいてね」
「わかった」
「ぜったいだよ。やくそく」
「ああ、約束だ」
「や……ったぁ…………」
力尽きたのか、アルジェールは寝落ちしてしまい、可愛い寝息を立て始めた。
お熱が高くて辛いわよね。
私はすぐに汲んできてくれてお水で布を冷やし、アルジェールの額に乗せた。
するとほんの少し表情が和らぎ、気持ち良さそうな顔になる。
「ふふっ、気持ちいいのね」
「……可愛いな」
「レブランド様、お水を汲んできてくださって本当にありがとうございます。大変助かりましたわ」
「いつでも頼ってくれ。君とアルジェールの為ならいつでも飛んで行く」
穏やかに微笑みながら歯の浮くような言葉を伝えてくれるけれど、私はどう返したらいいか分からなかった。
レブランド様は再会してから、とても良くしてくださっている。
それはヒシヒシと感じるけれど……彼の本心がよく分からなくて喜びより戸惑いの方が大きかった。
私が見聞きしてきたものは一体なんだったのだろう。
でもそういうのを抜きにして、彼の人となりをじっくりと見てみるのもいいかもしれない。
あの邸では到底一緒の時間が取れる気がしなかったから。
「レブランド様、お茶を淹れますので休んでくださいませ」
「いいのか?」
「もちろん。アルの様子も落ち着いて見えますから」
「そうか。ならばいただこう」
「はい」
レブランド様にお茶を飲んでいてもらっている間に村医師のところに行って、アルジェールを看てもらえるように頼まなければ。
誰かが息子を見ていてくれていれば安心だわ。
いつもなら私がアルジェールを抱えて連れて行っていたけれど、今回はその必要はなさそう。
「どうぞ。お砂糖はありませんけど」
「ありがとう」
彼が公爵様である事が一目で分かる所作だわ。
無駄のない動き……こうやってお茶を出すのも初めてね。
「美味しいよ」
「公爵閣下のお口に合うとは思いませんでした」
「君の淹れてくれたものなら、何でも美味しい」
「またそのような事を……ひとまずアルジェールを見ていていただけると助かります。私は村医師のヘルツさんのところへ行ってアルジェールを看てもらえるように頼んで来ます」
「私も行きたいところだが、彼を一人にしてはいけないのだな」
レブランド様はほんの少し伏し目がちになり、自分に言い聞かせるように呟いた。
心配してくれるのはありがたいけれど、私たちはアルジェールの親としての務めを忘れてないけない。
「そうです。申し訳ございませんが、よろしくお願いいたします」
「ああ、気を付けるんだ」
「ありがとうございます」
私は出来る限り早く着くように駆けて行った。
パン屋から近い場所に診療所を構えるヘルツさんのところに着くと、バタバタと中へと入っていく。
「ヘルツさん、失礼いたします!」
「なんじゃ、アル坊に何かあったか?」
私は事情を説明して我が家に来てもらえるようにお願いをした。
ヘルツさんは快く引き受けてくれて、二人で足早に我が家へと向かった。
アルジェールのもとへ着くなり、レブランド様の存在にビクッとするヘルツさん。
「ななな何者じゃ!アル坊をどうするつもりじゃ!!」
「落ち着いてください、ヘルツさん!!」
あまりの剣幕に、彼が何者か話さないわけにはいかず、ヘルツさんにレブランド様の正体を話す事にした。
ヘルツさんは大層驚き、脱力をしながらアルジェールの頭を優しく撫でる。
「この子はとても聡明だからのう。平民ではないとは思っておったが……そうか…………」
「ごめんなさい、皆を騙す形になって」
「いや、仕方ない事じゃ。ここまでアル坊に何もなくて良かったのう」
「はい……」
ヘルツさんは優しく微笑み、アルジェールの容態を看てくれた。
私は彼の言葉を噛みしめる。
私はともかくアルジェールはレブランド様の……公爵家の血を引く子供だ。
公爵家の者と知られれば身の危険もある中で、このまま村で育てていいのだろうかという考えが頭を過る。
とは言ってもまだ彼が選べるような年齢ではない。
どうするのが息子の為なのか、よく考えなくては。
母親としての判断が出来るように――――
ヘルツさんはアルジェールが深刻な感染症ではないので、薬草から抽出した薬を飲ませてくれて、薬膳なども食べさせればすぐに良くなるだろうと言って帰っていった。
「良かった……お薬が効いてくるのを待つばかりね」
「そうだな」
「少し休みましょうか。またお茶を淹れ直しますね」
「ありがとう」
私たちは再会してから……いえ、縁談を受けてから初めて落ち着いて一緒の時間を過ごす事となった。
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