再会
どうして……そう思ったけれど、この歓声だもの、目が覚めてしまったに違いない。
ラルフに騎士様が見たいとお願いするアルジェールが目に浮かぶ。
幸いレブランド様はまだ彼らからは遠い場所を歩いている。
今の内にすぐに連れ戻さなくては……!!
「アルジェール!!ラルフ!」
人ごみをかき分け、二人のもとへ急いだ。
「どうしてここに……!」
「ごめんごめん、アルがどうしても騎士様を見たいって言うから」
「かぁさま、きしさまカッコいい!」
「そ、そうね。でもそろそろ戻らないと」
レブランド様が馬に跨りゆっくりと近付いてきているのを感じ、私の中で焦りが強くなっていく。
肩車から下りたアルジェールは私のスカートに抱きつき、おねだりをしてくる。
「やっ!まだ見たい!おっきいきしさま、見たい!」
アルジェールが見たいと言ったのは、実の父親であるレブランド様の事だった。
一番大きくてカッコいいから見たいと言ってきかない。
どうすれば……。
「大丈夫だよ、見るだけなんだし」
「見たい~~!!」
「アルは滅多に我が儘言わないんだから、見せてあげようぜ」
「でも……!」
「きしさまぁ~~っ!!」
ラルフと押し問答している間に、アルジェールが騎士達の方へ走って行ってしまう。
「アル!!!!」
私は無我夢中で走り、アルジェールを抱きしめてその場でうずくまった。
私の事はいくらでも轢いてもいいから、アルジェールだけは……!!
そんな気持ちだった。
周りからは悲鳴が上がり、馬の鳴き声、騎士たちの怒号などが聞こえてくる。
「何をしている!!」
「も、申し訳ございません!息子が飛び出してしまい!!」
何とかアルジェールだけでも逃したい。
私の腕の中で息子は「かぁさまぁ」と不安そうな声を出しているので、ぎゅうと抱きしめた。
どうかこのまま去ってくれますように――――
「どうした?」
「申し訳ございません、閣下!子供が飛び出したようで」
「よい。そなたたち、怪我はないか?」
レブランド様…………頭上から、私の大好きな声が聞こえてきた。
色々な気持ちがめぐってきて、涙が滲む。
でも絶対に顔を上げる事は出来ない。
「は、はい!ご無礼をいたしました!」
「…………そなた……」
「閣下、何か?」
「いや、何もない。行くぞ」
「はっ!」
早く去ってほしいと祈るような気持ちでうずくまっていると、そのまま去って行く音がする。
よかった――――
そこへラルフが駆け付けてきて、私達を立ち上がらせてくれたのだ。
「カタリナ!アルジェール!大丈夫か?!」
「え、ええ。ごめんなさい、面倒をかけて」
「かぁさまぁ~~ごめんなさい!」
「いいのよ、早く中へ入りましょう」
「そうだな」
私はとにかくその場を離れたい一心で、まだ騎士団を見たい人々の中をかき分け、パン屋へと戻って行った。
レブランド様の視線がこちらを捉えているとも知らずに――――
「おかえり!しっかり騎士様は見られたかい?」
「それが……」
店内で待ってたリイザさんに先ほどの出来事を話すと随分心配され、アルジェールと一緒に二階で休みなさいと言われてしまう。
せっかくお手伝いしたいと思ったけれど、また騎士団の誰かがパン屋にやって来るとも限らないし、ありがたく休ませてもらう事にした。
自宅にも帰りたかったけれど、今外に出るのはマズいものね。
私はアルジェールを生むまではこのパン屋の二階に住まわせてもらっていたけれど、彼を生んだあとは小さな家を買い、そこでアルジェールと生活をしていた。
幸い公爵家を出る時に持ってきていた自分の持ち物は高く売れ、何とか家を持つ事が出来たのだ。
村が少し落ち着いたら自宅に帰ろう。
仕事も出来ないのに居座っても迷惑をかけてしまいそうだから。
色々と考えていた私のところへアルがやってきて、スカートに顔を埋めた。
「かぁさま、きしさま、カッコよかったね!」
「そうね」
「いちばん大きなきしさまが、いちばんカッコよかったね!」
「そうね……素敵だったわね」
「ぼくもきしさまになりたい!」
「アルも?」
「うん!かぁさまをまもるんだ!」
「ありがとう、アル……」
私は小さな体を抱きしめ、彼の頭を優しく撫でた。
レブランド様の事は辛い思い出だけど、私には息子がいる。
彼を立派な大人にする事に全てを捧げよう。
アルジェールと遊びながら村が落ち着きを取り戻したのを確認し、自宅に帰ろうと荷物をまとめていく。
「アル、そろそろ家に帰りましょうか」
「うん!」
「皆に挨拶をしましょう」
二人で手を繋ぎ、部屋を出ようとした瞬間、下からバタバタと音が聞こえてくる。
何?
賊か何かが来たの?!
ただならぬ音に私はアルを抱き締め、部屋の隅へと下がった。
「――――?!――――!……っ!!」
下からリイザさんの声が聞こえてくる……でも何を話しているのかまでは聞き取れないわ。
何が起こっているの?
ドスドスと複数の足音が聞こえ、階下がとても騒がしくてますます混乱してしまう。
様子を見に行きたいけれど、アルジェールのそばを離れる事は出来ないわ。
「かぁさまぁ……」
「大丈夫よ、母さまがついてるから」
そして突然ドスドスと階段を上る足音が聞こえてきて、緊張はピークに達した。
パン屋のご家族の足音ではないソレは、扉の前で止まり、大きな音と共に扉は開かれる。
「失礼」
――――バンッ!!――――
聞き覚えのある低音ボイス。
この部屋の入り口が小さく思えるぼどの大きな肢体に甲冑を身に纏い、その人は立っていた。
「カタリナ……」
「…………レブランド様……?」
会わないようにしていたのに。
どうしてここが分かったの?
なぜ私に会いにきたの?
色々聞きたい事はあったけれど、言葉が出てこない。
昔とは違い、髪もひっつめて普通の村人に紛れていたのに。
レブランド様はこちらをジッと見つめたまま、そこから動かなかった。そして後ろからラルフがやってきて、彼に声をかけている。
「あの!閣下には申し訳ございませんが、カタリナたちは我々の家族です。人違いでは?」
「いや……私が自分の妻の顔を間違えるわけがない」
「つ、妻って……」
私はレブランド様の言葉が信じられなかった。
今、妻って言ったわ……離縁書も置いてきたし、ヴェローナ様というお方もいらっしゃるのに私の事を妻と。
勘違いしてはダメよ。
もしかしたら何らかの理由で離縁出来なくて困っているのかもしれない。
それで私を探していたのだとしたら?
「いいえ、妻ではありません。元妻です。勘違いさせるような事はおっしゃらない方が……」
「いや、君はまだ私の妻だ。離縁書は出していない」
「なぜ…………」
あの離縁書は出していない?まさか不備があったとか?
レブランド様はゆっくりと動き出し、部屋の中へ入ってきた。
「おい!」
「………………」
引き留めようとするラルフを、待機していた騎士団の方々が止めているのが目に入ってくる。
「手荒な事はしないで!ここのパン屋のご家族は大切な人たちなの!」
「まさか……この男と結婚したのか?」
「バカな事を仰らないでください……!私には……」
否定しようとした瞬間、黙って聞いていたアルジェールが私とレブランド様の間に仁王立ちする。
そしてレブランド様に向かって指をさし、
「めっ!!」
と一言、言い放った。
ああ……これで終わりだわ…………絶対にバレてしまう。
案の定レブランド様は口を開けたままアルジェールを見つめ、彼の頬を両手で包み込んだ。
「カタリナ……この子は…………この髪と瞳の色。この子は私と君の……?」
もうこれ以上隠し通す事は無理ね。
観念し、彼の言葉に頷くしかなかった。
「はい。彼は……アルジェールは私とあなたの……」
「アルジェール……」
突然腕を引かれたかと思うと、アルジェールと共にレブランド様の腕に閉じ込められ、強く抱きしめられてしまう。
そして私たちはしばらく身動きがとれなくなってしまい、その場で立ち尽くすしかなかった。
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