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愛息子との穏やかな日々


 北の最果て・ゴルヴェニア王国――――


 季節は夏真っ盛り。

 大陸の一番北に位置する辺境の村ロッジェにも短い夏が訪れていた。

 私は愛する愛息子アルジェールと共に、四年半ほど前からこの村に住み、パン屋で働かせてもらいながら細々と生活をしている。


 「カタリナ!このパンをちょうだい」

 「はい、いつもありがとうございます!」


 お客さんに頼まれたパンを包んだり、焼いたパンを店頭に並べたり……パンは生活になくてはならないので、パン屋さんはいつも大繁盛だった。

 村はこじんまりとしていて、ほとんどの村人が顔見知り。

 皆が気安く話しかけてくれて、アルジェールの面倒も見てくれたり……私はこの村が大好きだった。

 外からやってきた私を温かく受け入れてくれたパン屋のおかみさんやそのご家族にも、感謝してもしきれない。


 「カタリナ、このパンをレンドンさんのところに届けておくれ」

 「おかみさん!分かりました、レンドンさんですね」

 「アルジェールはうちの人が遊んでいるから心配する事はないよ」

 「ありがとうございます!いつも助かります……!」


 うちの人というのはおかみさんの旦那様で、私が働いている間、たびたびアルジェールの遊び相手をしてくれる。

 息子はもうすぐ4歳になるけれどまだ3歳なので一人には出来ないから、誰かしらが交代で様子を見ながら働いていた。

 

 「何言ってんだい、水くさいんだから!あんたはもう家族なんだから。ほら、レンドンさんのところに行っておいで」

 「はい!」

 

 私はおかみさんから渡された紙袋を持ち、急いでレンドンさんのお宅へと向かった。

 レンドンさんは一人暮らしのお爺さん。

 足腰が弱い方なので、こちらから定期的に配達をしてあげている。

 

 私はここからずっと南に位置するジグマリン王国から、逃げるようにこの国にやってきた。

 その事をまだパン屋のご家族に打ち明けられずにいる。

 もし私の身分などの素性を彼らに話したら、皆が私と距離を置いてしまいそうで怖くて。

 でもこんなにお世話になりっぱなしで打ち明けないというのも不義理よね。


 いつか打ち明けなければならないのなら、早い方がいいかもしれない。

 そんな事を考えながらレンドンさんのお宅へとパンを届け、パン屋へと戻る道すがら、村人の話し声が聞こえてきた。


 「村長から聞いたんだけど、ジグマリン王国から我が国に騎士団がやってくるらしいよ」

 「なんで他国の騎士様が?」

 「分からないけど……カッコいいかしら」

 「私らみたいなおばさん、相手にされるわけないだろ!それにこんな辺境の村まで来ないよ!」


 私は彼女たちの話に凍り付いてしまう。

 ジグマリン王国の騎士団……?それはレブランド様も来るという事?

 レブランド様は公爵でありながら王国騎士団長でもあり、鬼神と言われて恐れられる人物……そして私の夫”だった”人だ。

 わけあって彼と離縁し、公爵家を飛び出した私は北へ北へと向かっている最中に妊娠が分かり、パン屋のご家族に拾われてアルジェールを出産する事が出来たのだった。

 アルジェールはまごう事無く彼と私の子供。

 もし見つかれば連れて行かれるかもしれない。

 その事を想像すると背筋が粟立ち、急いでパン屋へと戻って行った。

 

 「ただいま戻りました!」

 「おかえり!ご苦労だったね。ほら、これ……」


 おかみさんが私を労いながら、食事用のサンドイッチまで用意して手渡ししてくれた。


 「アルもお腹空いてる時間だろうから。二人で食べておいで」

 「ありがとうございます!」


 おかみさんは本当に優しい……彼女の思いやりにいつも胸が温かくなる。

 サンドイッチを持ちながらパン屋の二階に上り、個室に入るとアルジェールがラルフと一緒に遊んでいた。


 「かぁさま!」

 「アル!」


 私の姿を確認するとすぐに走ってきて、スカートへと飛び込んできた。

 私の天使――――この子を守る為ならなんだって出来る。


 「いい子にしてた?」

 「うん!あ、サンドイッチ!」

 「おかみさんが用意してくれたのよ。一緒に食べましょう」

 「食べゆ~」


 まだ言葉がちゃんと話せないけれど、一生懸命話してくれるのが可愛すぎるわね。

 私たちの様子を見守っていたラルフがサンドイッチを持ってくれて、アルジェールと一緒に座ったのだった。


 「アルはいつもいい子だよな」

 「うん!」

 「うふふっ。ラルフもいつもありがとう」

 「礼には及ばないよ。皆君たちを家族だと思っているんだから、気にしないで」


 おかみさんの息子のラルフは私の2つ年上の24歳だ。

 彼もアルジェールの面倒をよく見てくれるので、本当にパン屋のご家族には頭が上がらない。

 こんなどこから来たのかも分からない妊婦を助けてくれて、出産まで手伝ってくれて、その後もこうして面倒を見てくれているのだから。

 こんなに恵まれていていいのかしら。

 でも騎士団が来るのなら、あまりアルジェールと外を歩かないように気を付けないと。


 「さっきレンドンさんのお宅からの帰り道で聞いてしまったのだけど、ジグマリン王国の騎士団がやってくるって」

 「ああ、そうみたいだね」

 「すぐに帰るのかしら」

 「さぁ……噂では5日ほど滞在するって聞いてるけど。同盟国だから問題ないでしょ」


 5日も?!

 声にこそ出さなかったけれど、驚きのあまり固まってしまう。


 「どうかした?」

 「いえ、何でもないの」


 ラルフにおかしく思われないように気を付けないと。

 それにしても5日も滞在されたら、アルジェールを外に出さないわけにはいかない。

 もしレブランド様が来るのなら、絶対に息子とは会わないようにしなくては。

 アルジェールは漆黒の髪にオレンジ色の瞳。

 元夫であるレブランド様の特徴をそのまま受け継いでいるので、彼に見られたら一目で自分の息子だと分かってしまうに違いない。

 私はサンドベージュの髪に紫の瞳なので、そういう点ではアルジェールが全く私の色を受け継いでいなくて少し寂しいと思いつつ……とにかく油断しないように気を付けよう。

 何の為に彼のもとを離れたのか分からなくなってしまう。

 だって私は自ら……レブランド様の元を去ったのだから———

 

 

こちらの作品に興味を持って読んでくださり、ありがとうございます^^

もし続きが気になったり、気に入って下されば、ブクマ、★応援、いいねなど頂けましたら励みになります(*´ω`*)

皆さまのお目に留まる機会が増えれば嬉しいです^^

まだまだ続きますので、最後までお付き合い頂ければ幸いですm(__)m

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