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寿命蝋が灯る時──サン=ヴォーラ王国の選定

◆ サン=ヴォーラ王国


王の元に各地より文官が集ってくる。


「陛下、灯火についての照会が、各国より殺到しております」


「無駄だ。灯の継承者は我が配下にあらず。知りたければ、自ら探すがよい」


「ギルドの動きは?」


「ギルド長に通達のみ。深入り無用と、もう一度釘を刺せ」


若き王エルディ=ヴォーラは、しばし沈黙し、玉座脇の燭台を見やった。


「……だが、すでに我が国のダンジョンで“寿命蝋”が二本、灯った。


これ以上は――隠し通せまい、か」


「いかがいたしますか?」


「囲い込むなら今しかあるまい。佐和子殿に与えるべき階位を選定せよ」


「ですが、どのような爵位が適当かは…」文官のひとりは額の汗をぬぐった。


冒険者として魔物退治の実績はあるが、公式記録はE級ダンジョンまで。


「灯に関する旧記を洗え。前例があるなら踏み台にする」


「はぁ…」文官の一人はなおもしぶる。


「……聖宮の巫女ならば、相応しき名と位を授けてくれるはずだ。


“灯火の探索者”には、それに見合うしるしが要る。


F、E級踏襲であることは承知している。だがあの者は、制度の想定を越えている」


王は周囲の貴族達の表情を探りながら言葉を続けた。


「遅かれ早かれ、C級侵食型ダンジョンの攻略者となろう。


“灯火”の名のもとに、聖宮よりしかるべき階位を賜るのが筋だ」


指示を受けた文官たちが一礼して退室する。


「爵位を受けて我が国に腰を据えていただいた時のため、


騎士団の動員と巫女の再編成も進めよ」


エルディは「灯の継承者」の掌握に向けて動き出していた。


そしてふと、最初の報告に訪れたグラスタン伯爵へ視線を向ける。


「佐和子殿は……どのようなお方だ?」


「合わぬ者にはとことん合わんが――いい娘ですな」


髭に手をやった元騎士団長は、ゆるやかに笑む。


「息子も巣立ちましたし、養女に迎えたいくらいです。


 ……少々、奔放すぎるきらいはありますが」


「冗談はよせ。卿にはまだまだ楽はさせてやれんぞ」


若王の口元がわずかにほころぶ。


「勿体ないお言葉です」


伯爵は深く頭を垂れ、その姿は騎士団長時代の厳格さを今も漂わせていた。


**


E級ダンジョン:螺旋の巣界


草原の中央にぽっかり開いた黒い縦穴。


足元には朽ちた巣殻が散らばり、冷気とも熱気ともつかぬ気流が肌を撫でた。


「ここが昆虫型の巣ダンジョン……」


「ここも匂いがすごいな!」セリアが思わず鼻をつまむ。


「周囲の警戒が先。戦闘時に判断力が鈍ると危険だよ」佐和子が諭す。


「ここでの素材は昆虫の外殻、羽、針、鱗粉が中心となります。


佐和子様の感覚に合わせて言うとハエ、バッタ、蜘蛛などが魔物化しており、


種類も多く、魔獣図鑑でも毎回新種が更新されています」


「数が多そうだね」


地底へ降りる通路はらせん状で、土壁には風化した記憶石の粒が埋まる。


微粒子が舞い、音の反響で方向感覚が狂う。


ギミック:巣穴の共鳴。音で位置が錯覚する


「ちょっ、先に言ってよ!」


曲がり角から殻走虫シェル・スプリンターが突進してくる。


セリアが斧で受け止めるたものの跳ね返される。


「大きさの割に力があるぞっ」


「急所は後ろ脚、連携を」


ミュリアの触手が足を絡め、佐和子が黒槍で貫く。──


《外殻片》銀貨5枚

《疾走筋》銀貨3枚を入手。


「集団で来たよ。通路が狭いからシア・ルインで牽制して。3本まで行ける?」


「お任せください」ミュリアは触手の三か所から同時にシア・ルインを発射する。


鮮やかな紫の炎が《針脚蜘蛛》《翅跳蠅》《土噛蟻》を次々に飲み込んでいく。


「ここではすべての素材を取らなくていい」


息を付く間もなく奥から第二波が押し寄せてくる。


「推奨は5人パーティ以上でした」


「だろうな!」セリアはバトルアックスを振り回す。


足元に次々と素材がドロップしていく。ただ、拾う暇はない。


三人は疲労を抱えつつも背中合わせの連携で対抗した。


「……さすが素材の山と言われるだけある」


「とんでもない匂いだ。鼻がもげる……」


「やりがいしかない。先に進むよ。セリアはドロップ全部拾ってね」


「私だけ?」


「全部セリアの報酬にしてあげるから!」


「おっ、急に元気が湧いてきたぜ」


「ある程度原型が残っていればドロップ素材として残るみたいだぜ」


「どこまで魔物化しているかとダンジョン特性にもよるのでしょう。


D級以上になるとほぼすべての魔物が消滅かドロップ素材となるそうです」


「冒険者に取っても分かれ目になりそうだな」


「地上にも魔物はいますから、一概には言えませんが…」


話しながら素材を回収すると、すでにセリアのリュックは満杯になった。


**


最深部──蟲王の間


らせん通路を抜けると、巨大な黒殻に覆われた


《蟲王カーサス・ビートル》が立ちはだかる。


黒殻は漆のように艶めき、表面を叩く風が甲高い金属音を響かせる。


巨体がわずかに身じろぎするたび、巣壁全体が共鳴し、骨の奥まで震えが伝わってきた。


「ボス部屋にいるんじゃないのかよ!」


「このフィールド全体がそうみたいです。


 突進と巣壁再構築能力を持ち、外殻は非常に硬いと…」


セリアは最後まで聞かずにバトルアックスを弾かれ、衝撃で飛ばされる。


「反射の殻……物理を弾くだけじゃないのか?」


「どうやって倒す?金斧爆雷きんぷくごうらいも通じるかわからねぇ」


カーサスは巣壁を震わせ、四方の出口を塞ぎ、音で方向感覚を歪めつつ突進してくる。


「ミュリア、この子目が弱いみたい!」


「では、セリアを囮にして背面に回りましょう」


「あっ、こら!」


セリアの声に反応しカーサス・ビートルが突進していく。


「それじゃあ、全力でいかせてもらうぜ、


 剛閃・魔斧裂旋ごうせん・まふれっせん


斧を振り抜く瞬間に魔力を一点集中、本来であれば外殻を砕けるはずだったが、


カーサス・ビートルの二枚の羽が広がり、耳を割る振動が空間を満たす。


「これも駄目かっっ」セリアは先程とは比較にならない勢いで壁面に叩きつけられた。


「ミュリア、今よ!羽が開いている内に、ヴァイオリン・ルインーー集中して」


「はいっ」


ミュリアの六本の触手から手の平に向けて紫の炎が収束していく。


「セリアの犠牲を無駄にはしないっ!ヴァルミリオン・ルイン」


轟音とともに巨大な紫の光の奔流が核を貫くと、


カーサス・ビートルは軋む音を立てて崩れ落ちた。


「マジで扱いが雑すぎるんよ」セリアは壁面から抜け出せず涙目になっている。


「セリア、ありがとう。ご褒美に防具を買いに行こう!」


「約束だにゃ」セリアの耳がピンと立った。


《蟲王の核片》 金貨3枚

《毒晶石》 金貨2枚を入手。


ブックマークや評価が、この物語を最後まで紡ぐための大きな力になります。

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