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腐敗と灯火──素材探索隊、三度目の温室へ

最高級ポーションを目指してーー《蟲喰いの庭》 三度目の探索


腐敗の温室 ― 静かなる侵入。


軋む音とともに、温室の扉が開いた。湿った空気が肌にまとわりつき、


腐敗と花の香りが入り混じる。


「……さっきと違う。ぜんぶ、植物の壁だね」


ちび佐和子は目を輝かせ、蔦を撫でる。


「湿気で髪が……うわ、ベタつく」


セリアが買ったばかりの虫除け魔符を弾き、ぱちん、と火花を散らす。


「早速役に立ちました。花の匂いの奥に、腐敗臭……植物が死んできてます」


ミュリアが植物の隙間にある小さなギミックに触れると、


腐った種が散らばる地面が光に包まれ、蔦が退き道を開けた。


第二層で足元から黒い腐葉虫の群れが這い出す。


「慣れては来たけど、毒消しを過信しないでね!」


「虫除け足りなかったな!」


セリアの斧が辺りの腐葉土ごと虫を巻き上げていく。


「殻が……キラキラ……素材にはならないか」


倒れた虫の欠片を放り捨てる佐和子にセリアが悲鳴を上げた。


「毒胞子ついてんだぞ!こっち投げんな!」


**


最深部:腐敗した聖樹 ― 《腐樹の守主(小)》戦


「復活してるけど、さっきより大分小さいね」


腐樹の守主は表面の樹皮が割れ、樹液が染み出ていた。


「あっ、私達に気づいたみたいです」


根元から立ち上がる守主。


戦闘態勢を取ろうとするが、装甲は周期的に硬化と軟化を繰り返していた。


「今は柔らかい!」


「うにゃ!」


佐和子の合図でセリアが跳び、斧を叩き込む。

 

しかしセリアに向かって再生根が芽吹きかけ──


「封じる!!断罪の黒晶」


佐和子が再生根ごと結晶に封じ込めると、


ミュリアが奥にある核までの道をこじ開ける。


「今よ、核を!」


「任せとけ!」


二人の息はぴったりでセリアの斧が核を砕き、守主は崩れ落ちた。


素材回収

•《再生根の繊維》×1

•《腐葉の精油》×2

•《幻惑花粉嚢・成熟》×3

•《花喰い核》《再生苗根》ほか多数

暫定:金貨8枚


佐和子が早速素材の回収に移る。


「見て、これ……高純度の花粉嚢!再生苗根は布で包んで!!」


「肩がもげる、もう荷物入らん!」


セリアはぶつぶつ言いながらも隙間に素材を押し込んでいく。


「十分よ。あとは帰るだけーー」


**


残った素材がないか目を向けると、静まり返った聖樹の根元。


そこに、ぽつりと小さな灯──灯があった。


光は色を失い、芯は灰に埋もれかけている。


誰も近づかず、視界からも外すようにしていた。


けれど、佐和子だけは足を止めた。


一歩。湿った土が、冷たく脈打つ。


もう一歩。胸の奥で脈動する鼓動が、灯の鼓動と重なる。


「ここにもあったか…」


指先が光へ伸びる──音が消え、呼吸だけが響いた。


触れた瞬間、蝋は温もりを返し、芯の奥から金色の火がゆっくりと芽吹いた。


灯は、静かに揺れて。


──世界寿命は、1.42日、延びた。

 

ぽとん、と袋を下ろした佐和子が、仲間を振り返る。


「……これでお終い」


「灯は…すべてのダンジョンにあるのでしょうか…」ミュリアが口元に手を当てて


 考える仕草を見せた。


「もう、晩飯の時間、過ぎてるぜ……あまりもん、残ってるかなぁ」


 セリアのつぶやきに、ミュリアがくすっと笑い、佐和子も微笑んだ。


 静かな灯のゆらめきだけが、誰にも知られずその場に残った。


**


 次の日。


「……あ、ああああああ!?」


 ギルドの素材査定カウンターで、佐和子が声を上げた。


一晩置かれて、リュックに詰め込まれた素材の山


――薬草類がすべて、しおれていた。


「ほぼ全滅ですね。薬効も香気も抜けきってる。


虫媒精核、再生苗根は無事だったので最高級ポーションは完成しますが


……他は査定価格――三分の一になります」


フェリアの無表情な声が響く。


絶望する佐和子。がっくり膝をつくセリア。


「すぐにギルドに来ていただけたら……」


「だって、お腹空いたんだもん…食べたら眠くなるし…」


「保存の結界、途中で解けてましたね。湿度が高すぎたんでしょう。次からは――」


誰も、もう、聞いていなかった。


査定額が書かれた紙を見て、ちび佐和子は盛大に肩を落とした。


「持ち歩きすぎ。ちゃんと保湿結界とか使えっての」


ザインが隣で苦笑する。


「でも、虫よけとブーツとポーションも買ったから……」


「佐和子様、宿代と食事代が抜けております」


「ぐぬぬ……セリアがもっと上手く収納するべき」


涙目の佐和子を見て、ザインはぽりぽりと頬をかいた。


「それにしても、よく攻略済みダンジョンを何度も周回できるよな、お前達」


「普通だよ。素材集めが目的なんだし」佐和子はあっさり言ってのける。


「佐和子様、嘘でも私達の修行の為と言って欲しかった…」


今度はミュリアが涙目になった。


「ねえ、ザインは年間どれくらいE級ダンジョンに潜るの?」


「三十回くらいか? 数えてねぇけど……」


「ほら、D級のザインだって、基本はE級を周回してる。これはもう奥ゆかしい執念といえる」


「それって周回か?」セリアが突っ込む。


「俺のことディするんじゃねーよ!」


ぶるぶると肩を震わせるザインをよそに、佐和子は素材目録を広げ、


次に狙うE級ダンジョンを探していた。


「ザイン、腐ったり痛んだりしない素材が多いE級ダンジョン、どこか知らない?」


「町の南側から海沿いに歩いた先にな、昆虫型がよく出るE級ダンジョンがある。


耐久のある外殻素材が多いって評判だ。


……そうだ、ギルドの掲示板にちょうど素材の納品依頼も出てたから、


ついでに受けておくといい」


「おお、助かる。行ってみるー」


「それと、虫は飛行型も混じってる。


近接だけだと届かないから、遠距離攻撃は忘れんなよ」


「相変わらず世話好きだな」セリアがにんまりと笑う。


「あっ、そうだ。昨日の植物ダンジョンにも灯があったよ」


ちび佐和子は帰り際、何でもないことのように呟いた。


「えっ!?」


フェリアは選別していた薬草をぼとりと落とすと、駆け出していった。


奥からベテラン職員のグラントが頭を搔きながら出て来る。


「すまねえな、小便が我慢できなかったみたいだ。


 査定は俺が代わっておくから後で顔出してくれ」


「ん、わかった」


**


フェリアは勢いよくギルド長室の扉を開け放った。


「ギルド長、佐和子さんが……! E級ダンジョンに灯の光を与えました!」


息を切らしながら早口に続ける。


「これで植物ダンジョンのボスは消滅、全域が徐々に不活性化していくはずです。


……低級冒険者にとっては、素材が激減する大問題では?」


年老いたギルド長は書類から顔を上げ、静かに首を振った。


「この件に関わらず、佐和子殿に手出しは無用だ。


それがお前自身の身の安全を守ることになる」


「……っ。ですが、すでに……佐和子さんに、


創世の女神であるのかと問い質してしまいました」


ギルド長の手が止まる。沈黙のあと、低く震えた声が響く。


「……何だと?」


皺だらけの目が細まり、鋭さを帯びる。


「それで――なんと、おっしゃられた?」


「……違うと。強く否定されました」


「……愚かなことを」


重苦しい溜息が室内に満ちる。


「今後、不用意に接触するようであれば、受付からは外れてもらうぞ」


「私、間違ったことは言ってません!」


「言いたいことはそれだけか?」


ギルド長は虫でも追い払うように手を振った。


ブックマークや評価が、この物語を最後まで紡ぐための大きな力になります。

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