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煩悩108の異世界で、踏襲少女は紅茶とともに世界を救う  作者: ふりっぷ
第三章 リアステ帝国編

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《第59灯:欺瞞》断章ボス:カリオン・メロイ 中編

第二幕開幕。欺瞞の王が本性を現します。

仮面が、音もなく砕けた。


左右の顔が剥がれ落ち、

中から現れたのは――空洞だった。


何もない。


あるのは、王冠だけ。


「――解析完了だと思ったか?」


低い声が、殻の奥から響く。


殻が軋み、膨張する。

四肢が伸び、鏡面が割れ、内部の空洞が露わになる。


玉座は崩れ、カリオン・メロイが立ち上がった。


「第二幕だ」


王冠が、鈍く回転すると

周囲の空気が沈み、重さが変わる。


「来る!」


ミュリアの叫びと同時に、

王冠の影が、セリアの胸元へ細く伸びた。


影が、針になる。


「――っ!?」


白蜘蛛の糸が音もなく飲み込まれる。


セリアは反射で横へ跳んだ。


次の瞬間。


空間に、穴が空いた。


何もない一点が、

黒く抉り抜かれている。


床の石が、円柱状に消失していた。


王冠穿孔おうかんせんこう!」


佐和子の声が震える。


「あれは防げない!」


セリアは床を転がるように回避し、紙一重で生き延びた。

王の殻が、さらに軋む。


次の瞬間、巨大な殻の腕が伸びる。

触れていない。


それでも――

身体が引きずられる。


「質量を……掴まれてる!?」


セリアの身体が、前へ引きずられた。

足は地面を踏んでいる。


だが踏ん張りが効かない。


虚王掌握グラビティ・グラブ


体重が、急変する。

質量十倍。


セリアの膝が砕け、床が軋む。


質量十分の一。


足の感覚が無くなり、宙に放り出される。


「ははははっ、十倍だ」


肺が潰れ、再び床に叩きつけられる。


「ぐ……あああぁ!」


欺瞞の王の拳が迫る。

この距離で受ければ即死。


だが。


再び軽くなった一瞬、セリアは笑った。


「上等だ!」


軽量化の瞬間に踏み込み、

冥斧を振り抜く。


殻に亀裂が走った。


だが、王冠が、静かに指した。


「止まれ」


その瞬間、セリアの慣性が消える。


振り抜いたはずの身体が、

空中で静止する。


虚王断罪ジャッジメント・ゼロ


「――っ!?」


次の瞬間、殻の拳が直撃する。

魔鎧の内側で骨の折れる音。


セリアの身体が壁へ叩きつけられ、鎧が真紅に染まった。


動かない。


「セリア!」


マーレが駆け寄る。


だが、巨大な空洞と思われた殻の胸部が開いた。


「虚王殻・共鳴爆震レゾナンス・バースト


広範囲への衝撃波。


ミュリアの結界が砕け、吹き飛び

佐和子は黒槍を支えに膝をつく。


壁に張り付いたセリアが再度の衝撃で

血を滴らせる。


意思とは関係なく、体がびくりと痙攣した。


「解析はできたか?」

カリオン・メロイが、ゆっくりと上昇した。


「審判の時間だ」


殻が、変形する。


四肢が折れ、背部が展開し、

巨大な玉座の形へと変わる。


重力が、反転し

床も、壁も、天井も意味を失う。


全員が、玉座へ引き寄せられ始めた。


《虚王審判:偽りの玉座》


「まずい……!」


ミュリアが糸を放つ。

だが、重力で狙いが定まらない。


セリアの身体が、壁から引き剝がされ

玉座へ向かって滑る。


とっくに意識はない。

王冠穿孔おうかんせんこうの射程に入れば即死。


「セリアを止める!」

自分も吸われる中で、マーレが飛ぶ。


佐和子が黒槍を回した。

瞳が、金に染まる。


「ミュリア」

「はいっ」


「重力の中心を固定できる?」


白蜘蛛が、震える。


「数秒だけ!」

「十分」


セリアの身体が、玉座に触れかける。

王の指先が上がった。


佐和子が、踏み込んだ。

黒槍から光輪が展開する。


「核は王冠」


ミュリアの糸が、

空間の一点を縫い止める。


重力が、僅かに固定される。


佐和子の黒槍が、

王冠へ向けて一直線に伸びる。


「欺瞞を、断つ。《黒光の輝き》」


――激突。


王冠に亀裂が走り、断章核が剝き出しとなる。

黒い渦が溢れ、悲鳴を上げる。


だが。

まだ砕けない。


カリオン・メロイは技の発動をとめられたが、

セリアの肩が玉座に触れる。


その瞬間――


彼女の身体が、歪む。

血に濡れた金色の髪が舞い、魔鎧があり得ぬ方向に歪む。


「……っ!」


即死ではない。

だが。


質量が、セリアの利き腕を押しつぶす。

砕けた鎧から覗く胸が不規則な呼吸を繰り返した。


王が、笑った。


「最初の死者が決まった」


佐和子の歯が軋む。

ここで折れれば、全滅。


神力が、さらに燃え上がる。


「……間に合わない」


マーレの義眼が結末を先読みし、声が震える。


神力を引き上げた佐和子が踏み出す。


だが重力が強すぎ

黒槍が持ち上がらない。


その時だった。


ミュリアが、静かに息を吐いた。


白蜘蛛――シロガネが、震えている。


糸が限界まで軋み、

起点を作るため、空間の重力の中心を必死に縫い止めている。


すでに10秒、次の一撃まで持たない。


ミュリアは、そっと目を細めた。


「……計算、完了」


そして、振り返る。


「マーレ」


静かな声。


「さっちゃんを、頼みましたよ」


「ミュリア……?」


マーレの目が見開かれる。


次の瞬間。


白蜘蛛が、光った。

糸が、無数に分裂する。


一本一本が神経のように震え、

空間そのものへ突き刺さる。


《神力全解放》。


ミュリアの背後に、巨大な白蜘蛛の虚像が現れる。


天井を覆い、床を縫い

玉座を拘束する。


重力の流れが、止まった。

空洞の中で王冠が軋む。


「何を……」

「質量の中心を固定しました」


ミュリアの声は、驚くほど穏やかだった。


「あなたの審判は、座標依存型」


糸が、王冠を包囲する。


「ならば――空間ごと固定すればいい」


次の瞬間。


重力の収束が、反転した。

捉えられたセリアの身体が、玉座から弾き飛ばされる。


だが。


その代償は、即座に来た。


ミュリアの髪が、色を失い

背の触手が、すべて消失する。


神力が、蜘蛛へと流れ込む。


「ミュリア、後は私がやるから!」


佐和子が叫ぶ。


だがミュリアは、微笑んだ。


「姉を助けるのは……」


糸が、最後の収束を行う。


「妹の役目です」


白蜘蛛が、砕けた。

光が弾け、重力が消える。


静寂。


煙の中、セリアは苦し気に咳をした。

気管に詰まった血が吐き出される。


まだ、生きている。


だが。


ミュリアの姿がない。


「……ミュリア?」


佐和子が立ち上がる。

足元に、何かが落ちていた。


小さな、白い塊。

それは、ゆっくりと動いた。


「……にゃ」


猫だった。


手のひらに乗るほどの、白い子猫。


かつての理知的な瞳はそのままに、

神力の気配は、ほとんど感じられない。


「……え」

マーレが膝をつく。


猫は、ふらりと立ち上がると

佐和子を見上げる。


「……心配、なさらず……」


声にならない声。

次の瞬間、意識を失う。


佐和子が、そっと抱き上げる。

初めて出会った時よりも軽い。


「……馬鹿」

喉が、震える。


「誰も褒めてあげないんだから…」


王冠が、瓦礫の向こうで揺れる。

ひび割れながらも、まだ砕けていない。


低い笑い声。


「美しい自己犠牲だ」


殻が、再生を始める。


「だが、惜しい。死ねばもっと美しかった」


「黙れ…」

佐和子の黒槍から光の糸が紡ぎ出される。


子猫を、マーレに預ける。


「少しでも治癒を…」


「はい、双子をここで失う訳にはいきませんから」

マーレは、強く頷く。


佐和子が黒槍を握り直し、立ち上がる。

背中から翼が現れ、圧倒的な神力が空間を震わせる。


「欺瞞の王」


王冠が、こちらを見る。


「その嘘――全部、暴いてやる」


猫の小さな耳が、ぴくりと動いた。


双子が退場する初の回となりました。

A級ダンジョンは伊達ではありません。

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