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煩悩108の異世界で、踏襲少女は紅茶とともに世界を救う  作者: ふりっぷ
第三章 リアステ帝国編

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《59灯:欺瞞》選ばれる器 狡猾な罠

《第59灯:欺瞞》編、開幕です。

今回は「信じること」と「疑うこと」がテーマになります。

 ダンジョンの入り口で、革靴の音がひとつ響いた。


 帝国軍将校の視線が、一斉に部屋の奥へ向く。


 現れたのは、リアステ帝国宰相――

 カンメル・ファルン。


 この国において、王の言葉すら実務に落とす男。

 事実上の最高権力者だった。


 彼は軽く一礼すると、真っ直ぐに佐和子を見る。


「灯の器殿。

 極めて重要な役割を担っていただき感謝しております」


 声音は丁寧だ。

 だがそこに、感情は含まれていない。


「《第59灯:欺瞞》。

 精神干渉を主構成とするA級ダンジョン」


 淡々とした説明が続く。


「将校からの話通りですが、帝国軍だけでなく

 突入したA級冒険者は例外なく耐性を失いました。


 精神崩壊、記憶断裂、あるいは――自我の解体」


 佐和子は、黙ってそれを聞いていた。


「……要するに、今回も万が一の失敗に備える必要があるということ」


 カンメルは一拍置いて、言葉を整える。


「本件では、思念記録型魔具を装着していただきます」


 差し出されたのは、小型の結晶装置。


「戦闘時の反応。精神干渉耐性。

 信仰圧下における心因変化――すべて記録対象です」


 隣で、ミュリアが息を呑む。

 セリアは、椅子を蹴る勢いで立ち上がった。


「おい……いい加減にしろ、何が灯の器だ!

 まるで罪人扱いじゃねぇか!」


「誤解なきよう」


 カンメルは表情を変えない。


「サン・ヴォーラ王国も同じことをしているではありませんか」


 宰相は一瞬だけ、視線をミュリアの記憶結晶に向ける。


「……断る理由は?」


 佐和子が、静かに問う。


「帝国規約第十四条。

 A級以上のダンジョンは、

 すべて国家管理、よって記録拒否は不可」


「では、あなたが記憶しにいらしたら?」


 マーレが、乾いた笑みを浮かべた。


 しばらくの沈黙。


 やがて、佐和子は小さく息を吸った。


「……好きにしなよ」


「ただ、もし私に何かあったら仲間がどうなるか

 まで責任持てないよ」


「……仲間ですか?」


 カンメルが、ぽつりと呟く。


 その声には、ほんの一瞬だけ――

 理解できない概念を見つめるような揺れがあった。


 突入直前。


 私室で装備を整える佐和子の手を、ミュリアがそっと握る。


「大丈夫ですか?

 これは、さっちゃんの思う王の姿とかけ離れていますが…」


「ううん」


 佐和子は、笑った。


「これで3ヶ国目だからね、やっぱりなって感じ」


 視線が合う。


「このA級ダンジョンを攻略したら、自由な冒険者に戻ろう。

 F級ダンジョンもいいじゃない。」


「はいっ」

ミュリアは少し涙ぐんで頷いた。


 ドリス山修道区。

 封印指定魔域。


 風は止み、木々は不自然にねじれていた。


 かつて祈りを捧げるために建てられた石塔は、

 今や別の理に歪められ、沈黙している。


「……ここが」


 佐和子が前を見る。


 礼拝堂跡の奥。

 黒い浸食が地形を変えている。


「行こう」


 淡い光が舞い、黒い霧がそれを嫌うように退いていく。

 空間が沈むように潰れた。


 ざらつく風音。


 ――記憶の底から、

 何かが這い出してくる感覚。


 薄暗い回廊。

 光源はないはずなのに、壁がぼんやりと揺れている。


 佐和子が入り口で黒槍を突く。

「暗い闇。始めてだ、構造が読めないダンジョンは」


佐和子がいる限り、ダンジョンで迷うことはない。

その当たり前の感覚が《欺瞞》に取って変わる。


「私の白蜘蛛と、マーレの探知を合わせれば、

 問題ないはずです」

ミュリアが足もとに式神を召喚しながら呟いた。


「……来たか」

セリアが冥斧を構えた。


 だが現れたのは、

 武装した魔物でも、亡霊でもない。


「……あ?」


 セリアが、声を漏らす。


 そこにいたのは――

 人間だった。


 帝国軍の軽装兵。

 見覚えのある、階級章。


 顔色は悪いが、致命傷はない。


「……助けに、来たのか?」


 兵士は、安堵したように笑った。


「よかった……。

 モンスターに追われていて」


背後からスライムが現れる。

「今更、スライムかよ」


「待って」

ミュリアがとめるより早く斧が振り下ろされ、


ガキィィ。


スライムに弾かれた。


「マス・スライムです。触れた武器の質量を変えてくる」


「重っ」

突如重量を増した斧をセリアが両手で抱きかかえる。


「雷火顕現」

ミュリアが霊府を放ち、スライムを燃やした。


「見た目通りの敵ではないということ、その男も…」


 佐和子が、一歩前に出る。


「あなた、どこから来たの?」


「……どこから?」


 兵士は一瞬、言葉に詰まった。


「……前の分岐だ。

 祈祷室の奥の、崩れた回廊」


 マーレが先行し、小さく頷く。


「……崩れている」


 嘘を言っていない。

 少なくとも、整合性はある。


「仲間は?」


 佐和子が問う。


「冒険者を監視してた……信じた者から、消えた」


 兵士は、淡々と答えた。


「最初は、僧侶だった。

 次に、斥候。

 その次は――」


 そこで、言葉が途切れる。


「……思い出せない」


 沈黙。


 回廊の灯が、静かに揺れた。


 セリアが、兵士に近づこうとする。


「ここから出口は近い、連れて行こう」


「まだ早い」

マーレの瞳が青く光った。

将軍ルアの義眼で、兵士を見つめる。


 その姿は、確かに人間だ。


 だが――


「マーレ?」


 ミュリアが不安げに呼ぶ。


 兵士が、困ったように眉を下げる。


「疑っているのか?」


「ダンジョンは、助け合う場所だ。

 一人じゃ、生き残れない」


「このダンジョンでなければ、信じられたのですが…」

マーレが首を横に振った。


「そんな!見捨てないでくれ」


「ごめん」

 佐和子は、兵士に向かって静かに頷く。


「この黒槍はあなたに紐づくすべての《縁》が見える。

 でも――

 あなたはどこにも繋がっていない」


 帝国兵の表情が、初めて歪んだ。


「……それは」


「あなたを、信じない」

 佐和子が断じた。


 次の瞬間。


 兵士の姿が、霧のように崩れ落ちた。


 幻影兵。

 信じた者を背後から切り裂く。


 回廊の奥で

 灯が――わずかに、笑った。


【素材ドロップ】幻影兵

 欺瞞の欠片:錬成素材。

一定確率で真偽鑑定魔具に加工可能


佐和子の弱さと強さが、これからどう試されていくのか。

次回もお付き合いいただければ幸いです。

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