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煩悩108の異世界で、踏襲少女は紅茶とともに世界を救う  作者: ふりっぷ
第三章 リアステ帝国編

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《59灯:欺瞞》選ばれる器 ──信じた瞬間、敗北が始まる

王との謁見、佐和子たちは次なる選択を迫られる。

──昼、王城最奥、陽光の差す《謁の間》。


白磁の床に刻まれた帝国紋章が、

静かに光を反射していた。


帝国紋章の中央で、リアステ帝国王《アウル=フェイン》は

静かに玉座に腰掛けていた。


重厚な沈黙の中、佐和子たちは一列に並ぶ。


「……かくして」


アウル王の低い声が、広間に響いた。


「断章の一つ、《第41灯:誇り》は静まった」


報告を終えたミネルファの前で、

王はゆっくりと立ち上がる。


「汝らの働き、誠に尊い。

とりわけ霊道卿よ──我が帝国に、光をもたらした」


玉座の段を降り、

王の視線が、まっすぐ佐和子を捉える。


「教義では灯の器とは女神の再来。

祈りを媒介として、世界寿命を司る存在」


――そう、伝えられてきた。


「だが、聖女ミネルファは否定した。

そなたは、祈ったことなどないそうだな」


広間の空気が、わずかに張り詰めた。


「帝国は、霊道卿の意思を尊重する」


王は、問いを投げる。


「次なる煩悩に立ち向かう意思は──

まだ、汝にあるか?」


佐和子は一歩、前へ出た。


「……うん」


静かな声だった。


「ただ、私は自分の意思で決めるよ。

 ここにいる仲間達も一緒」


謁の間が、完全な静寂に包まれる。


次の瞬間──

王の口元が、わずかに緩んだ。


「よい」


「その言葉は、まさに冒険者だ。

 ……いや」


王は言い直す。


「世界中の希望だ」


そのとき、横から一歩進み出た影があった。


帝国宰相、カンメル・ファルン。


「……霊道卿。自由なお方だ」


丁寧だが、温度のない声。


「ですが、今のはアウル王の寛容さに感謝すべきだ」


佐和子は視線を逸らさず答えた。


「嘘は付けないよ」


「……ふむ」


カンメルは短く頷く。


「では現実の話をしましょう。

 霊道卿の次なる任務は、すでに候補が挙がっています」


「任務?」

「失礼、霊道卿ではなく、

 灯の器様として、ぜひご協力いただきたい」


宰相の背後、

幻灯に二つの名が浮かび上がる。


《第47灯:信仰》

《第59灯:欺瞞》


「いずれも信仰密度の高い領域。

 一筋縄ではいきません」


セリアが小声で呟いた。


「……名前の時点で嫌な予感しかしねぇ」


「帝国は信仰国家であると同時に、現実主義です」


カンメルは淡々と続ける。


「世界寿命を延ばせる存在を、

 遊ばせておく余裕はありません」


佐和子は、黙って聞いていた。


称えられ、守られ、

同時に使われる。


それが、この国の誠実さだと理解はしていた。


それでも――

どこか、胸の奥が冷えるのを、

佐和子は否定できなかった。


視線の端で、

聖女ミネルファがわずかに眉を伏せる。


彼女は何も言わない。

その沈黙は、是でも否でもない

ある種の確認のようだった。


「我々はあなたを国賓として扱うつもりはありません」


カンメルはそう言った。


「ただし、冒険者に対する命令もしない」


王が、最後に告げる。


「帝国は、汝の選択を委ねる」


「だが選んだ以上、責務は果たしてもらおう」


佐和子は、静かに頷いた。

「……なんだか、息苦しいね」


ミュリアが、何か言いかけて、

それでも言葉を飲み込み、

心配そうに佐和子を見守っていた。


◇    ◇


帝国中央軍本営


第六作戦会議室

《欺瞞任務・突入前ブリーフィング》


白磁で整えられた会議室。


床には軍用陣営図、

壁には国家紋章と魔術拡音具。


今度はミネルファもレアも来なかった。

A級ダンジョンを四人で攻略させようとしているのだ。


正気の沙汰と思えない。


佐和子たちは、

帝国軍将校に退路を塞がれる形で立っている。


「対象はA級浸食ダンジョン《第59灯:欺瞞》」


青年士官が淡々と告げる。


「過去、帝国偵察部隊を含め三部隊が突入」


「生還者は二名。

うち一名は自我の統合喪失により、記憶抹消処理済み」


ミュリアが息を呑む。


「出現地点は、旧ドリス山修道区」


「かつて嘘の神託により、

民衆暴動と大量処刑を招いた禁忌の地です」


「……おい」


セリアの声が低くなる。


「なぜ、他国から来た冒険者だけに攻略を押し付ける」


士官は続ける。


「このダンジョンは人数の問題ではないのです。

 倒せば終わる類のものでもありません」


一拍。


「仲間を信じた瞬間から、敗北が始まります」


沈黙。


佐和子は、黒槍に手を置いた。


「……つまり、精神攻撃が主体ってこと?」


「私の言うことも信じないでください」


士官は言った。


「全ては疑えるかどうかです」


その言葉と同時に、

会議室の灯が、わずかに揺れた。


佐和子は小さく息を吸う。


《誇り》を越え、

次に待つのは《欺瞞》。


入口で待つ不穏な宰相カンメル。

攻略の一歩が、今、踏み出されようとしていた。

帝国で受けた信頼と重圧。

任務の難易度は高くとも、次なるダンジョンに向かう佐和子たち。

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