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煩悩108の異世界で、踏襲少女は紅茶とともに世界を救う  作者: ふりっぷ
第三章 リアステ帝国編

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マーレの美しさと殺意の結晶

血と灯の戦場から、日常へ。

《第41灯:誇り》攻略から一夜明けたリアステ帝国の王都。


 王への謁見までの一週間、

佐和子たちは首都リアステに滞在することとなった。


まずは帝都リアステ・冒険者ギルド本部

《蒼鷲楼》を訪れる。


カラン。


マーレがギルドに入った瞬間、静まり返る。

誰も声を上げない。

だが、視線だけが、無遠慮に彼女を値踏みしていた。


 ミュリアとセリアも美しかったが、

 獣人扱いで、どこか親しみを込めて接することができた。


 ――だが、マーレは違った。


 所作の一つ一つに品があり、

 丁寧に結い上げられた白銀の髪。

 一目で貴族と分かる髪飾り。

 そして、ふわりと漂う花の香り。


 すべてが、冒険者たちと一線を画していた。


 一方セリアは、

 返り血と花粉まみれのまま、

 不気味な鎧で無遠慮にカウンターに座っている。


 もはや女扱いすらされていなかった。


「目立ってるな」

「目立ちすぎです」


 セリアとミュリアが、こそこそと囁く。


「そういえば、元の鎧はどうされたのですか?」

「煩悩が無くなり、半分になったので捨てました」

「……そのドレスは?」

「私の衣装箱に入っておりました」

「武器は?」

「ここです」


 マーレが二の腕を上げると、肘先が割れ、

 金属とも骨ともつかぬ音を立てて、硬質な刃がせり出した。


「ええ……」


 ミュリアは、そこで限界を迎えた。



「依頼記録の照合完了。

《第41灯:誇り》──攻略確認。灯粒子回収」


 審査官の男が、神印付きの石板に結果を記録する。


「これにより、世界の寿命は90日延長」

 ギルド内に微かなざわめきが走った。


「お疲れ様です。“灯の器”殿、そして同行の皆様」


 ギルド幹部が深く頭を下げた。


 リアステ帝国は世界の寿命を延長させるより、

 ダンジョン管理で軍拡を目指している。


 それでも、根源的な希望に繋がる成果に顔が綻ぶのだ。


「なんか……歓迎されてるのか、これ」


 セリアがぼそりと呟く。


「ティルク連邦とは大違いだね」


 その横で佐和子は微笑みながら答えた。


 まずは、マーレの冒険者登録。


 あと、勇者パーティが無事ならここに顔を出すはずなんだけど。


 ミュリアが、カウンターで伝言を受け取っている。


『心配無用。ダンジョン脱出時、“N”と遭遇。同行中』


「今はどこに?」

「B級ダンジョン攻略中だ」


「……じっとしていられないのかしら」


「おい、追いかけようぜ」

セリアが耳をピンと立てる。


「いけません、救援依頼もないのに他パーティーが攻略中の

ダンジョンに踏み込むなんて」


「アントニオはそんな堅苦しいこと言わないって」


「セリア、公私にけじめを付けて下さい」


「発情猫…」

マーレがぼそっと呟く。


「皆様にこれをあずかっております」

受付嬢が綺麗な青の結晶を出して来る。


キィィィン。


ミュリアの赤の記憶結晶と一瞬共鳴した後、

光が弾けた。


「熱っ!」

ミュリアが胸元を抑える。


「私の記憶結晶と反発するようなので、

 申し訳ございませんが、さっちゃんが持っていてください」


「私が持ってもいいぜ」


「あなた、すぐ失くすでしょ。

 昇格パーティーの日に居なくなるような人が何言ってるの?

 二人でもお祝いしたかったのに…」


「じゃあ、飯でもいくかぁ」


「そうだね、ちょっと話したいこともある」

佐和子が同意する。


 酒場《赤樽亭》の扉を開けた瞬間、

 肉を焼く脂の匂いと、香草酒の甘い蒸気が押し寄せてきた。


 天井は低く、梁には無数の傷跡。

 壁際には冒険者たちの武器が無造作に立てかけられ、

 床は長年の酒と血と土で、鈍く黒ずんでいる。


 鉄鍋が打ち合わされる音。

 木製のジョッキが卓に叩きつけられる音。

 勝利談と罵声と笑い声が、渦のように混ざり合っていた。


 一行が足を踏み入れた途端、

 その喧騒が、ほんの一瞬だけ――止まった。


 理由は明白だった。


 マーレの白銀の髪が、

 油煙に霞む酒場の灯りを、

 まるで別世界のもののように反射したからだ。


 数秒後、酒場は何事もなかったかのように動き出したが、

 視線だけは、しつこく背中に突き刺さっていた。


「マーレ、すぐに中古の鎧を買って!

 この雰囲気が堪らないわ」


「あら、ごめんあそばせ」

マーレは悪びれることなく席に着く。


 ほどなくして、料理が運ばれてきた。


 黒胡椒を利かせた厚切りの焼き肉。

 骨付き鳥を香草と塩で丸焼きにしたもの。


 豆と干し肉を煮込んだ、濃い褐色のシチュー。

 そして、泡立つ琥珀色の麦酒。


「……うまそうだな」


 セリアは待ちきれず、

 ナイフも使わずに肉にかぶりついた。


 脂が滴り、炭火の香りが口いっぱいに広がる。


「Nって多分ノクスのことだよね」

 佐和子はシチューを一口すすり、口を開いた。


「間違いないでしょう。託された結晶は恐らく《転移》」


「どこでも行けるってこと?」


「逆です。ノクスが座標指定して転移する為のもの」


「おい、さっちゃんに何てもん持たせるんだ」


「心配ありません。ある感情がトリガーになっているようです」

さっちゃんが今まで抱いたことのない感情《殺意》」


「気持ち悪い話だね」

佐和子は嫌そうに結晶を摘まんだ。


「いざとなったら魔具屋に売っちまえばいいじゃん」

セリアが肉を齧りながら笑った。


「私の歓迎会はいつして頂けるのかしら?」


F級冒険者として登録し直すことになった

 マーレは小さく小首を傾げる。


「えっ、これじゃダメか?」


「はい、乾杯もしてませんから」

マーレはにこにこと肉を切り分けながら答えた。


ここでの料理はすべてセリアの奢りとなった。

口は禍の元だ。



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