《第41灯:誇り》《将軍ルア・ラヴェルド》後半
レアは魔導銃を構え、炎の奔流を牽制し続けていた。
だが、四方へと分断された陣形では限界があった。
荒れ狂う火勢が一気に押し寄せる。
整った金髪が焼け、喉に吸い込んだ空気さえ灼けるようだった。
反射的に目を閉じ、地面を転がる。
――その瞬間、痛みが途切れた。
自分が、球状の水に包まれていることに気づく。
「帝国将に怪我をさせないよう、命じられております」
水精ユリハが、熱に身を縮めながら水結界を張っていた。
その姿を横目に、佐和子が一歩、前へ出る。
幻視の炎が、彼女の影を大きく揺らした。
「誇りを掲げるのはいい。
でもね――」
静かな声だった。
「それを“立ち止まる理由”にしちゃいけないんだよ」
黒槍を掲げた瞬間、
灯が脈動する。
音はない。
だが、空気そのものが震え、
幻視空間の色彩が一段、明るく揺らぐ。
花弁のような灯が宙を舞い、
幻影兵たちの輪郭が、
「敵」ではなく「記憶」としてほどけていく。
「消すんじゃないよ」
佐和子の声は、
不思議なほど遠くまで届いた。
「“もう過去のままじゃない”ってことを、
あなた自身に思い出してもらうだけ」
光に包まれ、
ルア・ラヴェルドの黒鎧が、
剣先から静かに色を失っていく。
「四陣構造に直接干渉してくるとは…」
義眼の光が、佐和子を射抜いた――
「貴方はこのまま消滅を選ぶこともできる」
「……そうか」
将軍は、初めて肩の力を抜いた。
「私が……求めるべきは……
勝利ではなく……
償いか」
ルア・ラヴェルドが剣を下ろそうとした
―その時。
「貴方は許されてはなりません」
敵意を失ったルア・ラヴェルドにマーレが斬撃を当てる。
「《執撃残響》」
一度目の斬撃で首に赤い花弁が散り、同時の斬撃で
首が転がる。
「ははっ、私は救われてはならん…その者の言うとおりだ」
将軍は、
落ちた首で喋りながら、器用に右手で拾い上げ、脇に抱えた。
そして、残った左手で剣を地面に突き刺す。
剣の柄が銀の燭台へと変貌する。
「せめて…散っていった部下の為に祈ってやってくれぬか」
佐和子は小さく頷く。
「第41灯――」
地面に刻まれた戦痕が、
一本、また一本と淡く発光し始めた。
「祈灯式、執行」
光が咲いた。
爆ぜるような派手さではない。
それでも確かに、
”戦場全体が“息を吸った”ように感じられた。
『世界寿命90日延長』
燭台に灯が戻ると同時に佐和子の体を包む様に小さな翼が舞う。
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《ボスドロップ》
・将軍ルアの義眼
装飾品幻視耐性+15%、
誇り属性の魔法被ダメ減少。
・将の誓剣【レア武器】
“誇り”の断章を鎮めた証。
幻影斬撃効果付き片手剣。
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残骸の中で、地上へと帰還しレアが息を吐く。
「……終わったのですね」
「うん。
将軍は再びダンジョンに戻っていった。
浸食が広がることはもうないと思う」
佐和子は空を見上げる。
「ドロップ品は当然頂きますわ」
マーレが義眼と剣をさっと確保する。
「ダンジョン浸食を防いだ上、世界寿命延長も成し遂げた。
私から上に掛け合っておこう」
ユリハに救われた形のレアも納得していた。
休息地点:リアステ帝国軍陣地・仮設野営地にて
帝国の聖女ミネルファが歩み寄り、
柔らかく肩に手を置いた。
「お帰りなさいませ。
B級上位の断章ボスを無傷で下すとは
次はA級ダンジョンにご案内しましょう」
「……慌ただしいね」
佐和子は小さく笑った。
銀髪の少年。ノクスの警告が頭をよぎった。
「冒険者ギルドに寄らせてくれないかな。
探し人がいるから」
「エラフ公国の王でしょう。こちらで把握しております。
後ほどご案内しましょうか?」
ミネルファは先回りすると、花のように微笑んだ。
今回の断章は“倒す”よりも“鎮める”戦いでした。
灯が咲いたその先で、佐和子たちはまた次の問いへ進みます。




