信仰されることの重さと、静かな叛意
39PV読んでいただけた読者さんいるので、1話更新します。
ティルク連邦での戦いを終えた佐和子たちは、
空の巡行船《雷紋の鷹号》に乗り、
リアステ帝国へ向かうことになります。
ティルク連邦からリアステ帝国へ向かう空の巡行船
《雷紋の鷹号》は、
深い雲を滑るように割いて進んでいた。
船体を震わせる低い振動が、旅の始まりに緊張を添える。
「……あの山、龍が引っかいたあとみたい」
窓に額を寄せた佐和子がつぶやく。
指差す先には、黒い裂傷のように削れた尾根が広がっていた。
セリアが眠そうに欠伸をしながら、片目だけを開く。
「帝国の玄関、《黒壁の尾根》。
歓迎ってより威嚇だな」
ミュリアとマーレは背後で地図を広げ、淡々と確認を進めている。
「帝都〈アウレリオ〉には“神殿区”があります。
灯の器が入域する際は、必ず儀礼が行われます」
「歓迎行事ってやつですわね。
……何が出てくるか、楽しみですわん」
船が高度を下げ始める。
雲を抜けると、金色の屋根と白亜の塔が
いくつも重なった巨大都市が姿を現した。
帝都アウレリオ――祈りと武力、
そして誇示の象徴である帝国の心臓部。
着陸した瞬間、甲冑の擦れる音が一斉に響いた。
船を囲むように金装の聖騎士団が整列し、
その背後には帝国神殿の官僚たちが深々と頭を垂れている。
掲げられた旗印には“灯の器の到来”を告げる紋章。
「わぁ……ずいぶん仰々しい歓迎だね」
これまでにない対応に
佐和子の声は、小さく震えていた。
隊列の中心に立つ白衣の少女が、一歩前へ進む。
雪のように透き通った神衣。
冷静さの奥にかすかな緊張を宿す瞳。
宮廷聖女――ミネルファ・リアステ。
「……ようこそ。“器”の方」
静かな声とともに、ミネルファは膝をついた。
空気が一瞬にして張り詰める。
儀礼か、恐れか、それとも――牽制か。
「私は、あなたを女神とは思いません。
けれど……あなたの旅路は帝国の未来に必要です。
どうか、お力添えを」
佐和子は困惑しつつも、丁寧に頭を下げる。
「う、うん。
私、どこに行ってもダンジョン探索ばっかりだけど……」
ミネルファは微笑む。
しかしその瞳の奥には、まだ語られていない思惑が揺れていた。
帝国神殿内の会議室には、
上級神官と参謀たちがずらりと並んでいた。
魔導灯だけが静かに明滅し、空気には張り詰めた緊張が漂う。
ミネルファが立ち上がり、透明な魔力投影が室内に広がった。
「新たな断章《第41灯:誇り》が出現しました」
光の中には、門の形をした魔力の揺らぎが映し出され、
内部からは重い気配が漏れ出している。
「場所は《ラヴェルト古戦場跡》。
誇りを捨てられなかった亡霊が煩悩化している可能性が高いです」
佐和子はミュリアの袖をそっとつまむ。
「ねぇ、“誇り”って悪いものなの?」
「誇りそのものは善ですが……
捨てきれず固まれば“執着”となり、煩悩に変質します」
副司令官バルゼ・クレイスが低く唸る。
「誇りは扱いが難しい。踏むと暴発し、
認めすぎると取り込まれる。厄介だ」
「ラヴェルトは帝国が幾度も覇権を争った地。
敗北者たちの記憶が強く残っています」
とミネルファ。
――敗れ、なお誇りに縋った者たち。
その想念が、“灯”を呼び寄せた。
翌日。
佐和子たちは帝国軍基地
《フォルナ前線拠点》で共同出撃の準備を進めていた。
装甲兵たちが無骨な武装を整え、
機械音と金属音が絶え間なく響く。
「連絡官のレア・アークヴァルです。
今回は合同任務の補佐を務めます」
金髪を短く刈り上げた女性騎士が、凛とした声で名乗った。
ミュリアは周囲の兵器をざっと見渡す。
「……重火力が多いですね。“誇り”は対物防御型の可能性が?」
「現場で“言葉が通じない幽影兵”や
“自我を失った元騎士”が確認されています」
「なるほど、『誇りを失いきれなかった亡霊』……
ダンジョンの外まで顕在化しているところが厄介ですわね」
とマーレ。
元煩悩兵器は佐和子の肩に手を置き、穏やかに言う。
「貴女は灯の儀式に集中して構いませんわ。
前線は私たちが切り開きます」
セリアが腕を組み、にやりと笑った。
「さて、帝国の騎士団の実力、見せてもらおうか。
……足引っ張んなよ?」
その瞬間、金髪短髪のレアが一歩前に出る。
「――足を引っ張るのはそっちの方じゃないか?
“辺境の冒険者”さん」
視線がぶつかり、火花が散る。
「まったく…」
ミュリアは額に手を当ててため息をつくが、
口元は微笑んでいた。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
今章は、これまで以上に
信念と誇り、そして選択の物語が中心に展開していきます。
次回は、帝国軍と共に向かう《ラヴェルト古戦場》への出撃。
「誇り」とは何か。
それは守るべきものか、それとも手放すべきものか。
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