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煩悩108の異世界で、踏襲少女は紅茶とともに世界を救う  作者: ふりっぷ
第二章・ティレク連邦編

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マーレ加入と新たな旅立ち

ギルドでの報告を終えた佐和子達に

マーレが静かに立ちはだかる。

視界が落ち着くと、佐和子達はダンジョン外縁部、

転送結界の張られた祭壇の上にいた。


──低く唸る魔力の響きが、疲れた体に染みる。


「……首都外縁まで戻って来たようです」


ミュリアが腰を下ろし、大きく息を吐いた。


「さっちゃん、大丈夫か?」


セリアの手はまだ佐和子の袖を掴んでいる。


「ありがと……でも、手離して? 汗だくよ」


「結局、あいつ何だったんだろうな」


セリアが手をぱたぱたと振り、苦笑する。


ミュリアは少し離れた場所で、

スカートの裾を払いながら、布に包んだ《灰面の仮面》を見つめていた。


「ドロップ素材は持ち帰れました。

……けれど、果たして任務達成と言えるのでしょうか」


寿命蠟は灯らず、ダンジョンは崩落。

勇者パーティとマーレも行方不明。


その視線の先には、崩れた転移陣を見つめる佐和子の背があった。


──彼女の瞳に、かすかな影が揺れる。


【ギルド・任務報告室】


ダンジョンからの帰還後、数時間。


疲労と興奮が冷めぬまま、

佐和子たちは王都のギルド本部へ足を運んでいた。


「あら、随分早いご帰還ね」


「お前こそ、どうやって戻った?」


マーレはセリアに微笑かけると、お互いに様子を伺う。


「私は公宮の転移陣を使えますから、

ギルドには貴方達の捜索依頼も兼ねて報告に来ました。

たった今、不要となりましたが」


「私達は隣接していたC級ダンジョンにあった転移陣を使った」


佐和子は静かに答え、セリアに先を促す。


「トロン達はどうなった?」


「落石がひどく、貴方達同様に見失いました。

ティレク連邦側の街道は完全に崩落しましたから、

生きていればリアステ帝国に向かうはず」


「仕方ありません。まずはギルドの報告を済ませましょう」


ミュリアが一息ついた。


報告室では、封魔壁に囲まれた静謐な空間に、

ギルド上位職員と記録官が待っていた。


扉の軋み音が響き、緊張が走る。


「……以上をもって、《第38灯:自己否定》の断章ボス撃破を確認。

ドロップ素材の収集記録も揃っています。

世界寿命は煩悩断章が砕けた為、推定11日分の延長」


書記が手早く記録を取りながら、淡々と読み上げる。


「よって、B級任務達成報酬の全額、

 貢献ポイントが付与されます」


「ほう……」


その声とともに、室内の扉が静かに開いた。


入ってきたのは、深緑の軍礼装をまとった男。


──ティレク連邦の影、

グレトス・ヴェルディア団長その人だった。


空気が一瞬、重くなる。


「こんな公の場所に姿を?」


ミュリアが驚いたように眉を上げる。


グレトスはわずかに頷き、マーレの方へと視線を向けた。


「……約束は破ったな」


「ええ、破りましたわ。ごめんなさい、お父様」


マーレはしれっと答えながら、断章の欠片を取り出し、

恭しく差し出した。


――その手が、わずかに震えるのを、彼女は隠した。


「ですが、成果は持ち帰りました。

――そして、より重要な観測も」


グレトスは欠片を受け取り、一瞬だけ瞳を細める。


「……煩悩断章とは、予想よりも“深い”。

執着とは、人を救う幻想の延長にあるものだ」


「はい。ですが希望も見えました」


マーレは、目の端だけで佐和子を見た。


佐和子は無言で、それを見返す。


グレトスは全員を見渡し、最後に言った。

「お前達、《第38灯:自己否定》で最後に何があった?

黒印煩悩師団の主力が全滅だ」


「さあ、黒印煩悩師団のことも始めて知ったわ」

佐和子はぶいっと横を向いた。


「断章を研究している内に私は、確信した。

煩悩を求めるものこそ“神格の引力”に収束していくと」


「……つまり、あんたは自分が神になりたいんだな。

分不相応は身を亡ぼすと小さな子供でも知ってたぜ」


セリアが毒づき、佐和子が微笑みんで追撃する。

「お兄さんと会ったけど、出来の悪い弟に心労が絶えないみたいよ」


それはグレトスで無くとも、とても腹の立つ笑みだった。


◇  ◇


「マーレ」

「はい」


二人きりになると、グレトスの口調は高圧的に変わった。

「次は、お前に“断章以外の仕事”を頼むことになる。

……覚悟はあるか?」


「もちろんですわ。わたくしは、

まだ“終わっていないもの”を見届けたいのです」


団長は無言で立ち上がり、マーレの背後に歩み寄る。

「その煩悩の欠片はどうされるのですか?」

マーレは静かに尋ねた。


団長は娘の背中に力任せに欠片を埋め込む。

「あっ、ああっ……」マーレの身体が小さく痙攣し、

痛みの波が彼女の瞳を曇らせる。


「お前が制御を離れていることはわかっていた。

霊道卿から全ての灯粒子を奪ってこい! 最後に役に立つのだ」


◇  ◇


夕暮れの王都は静まり返り、影が長く伸びている。


報告を終えた後、佐和子たちはギルドを出て、

夕日に照らされた広場に立っていた。


「はぁー……やっと終わった……」

セリアが両腕を伸ばして欠伸を漏らす。


「終わってないよ。魔王の残滓が漏れ出ている」

佐和子は静かに呟いた。


その声に、二人はふと立ち止まる。

「トロン達はギルドに着いていなかった」


「うん」


「ティレク連邦の街道は崖崩れで埋まったから

 どうにか帝国に行く方法を考えないとな」

セリアの言葉に、佐和子は微笑を浮かべた。


その夕闇を背に、静かに佐和子の前に立ちはだかるマーレ。

『執着』と『自己否定』の断章が不気味に共鳴し

白蝋のような顔には黒い血管が無数に走っていた。


「こんなことだろうと思った」


ちび佐和子はため息をつくが、

その瞳はどこか憐れみを浮かべていた。


「私がただで煩悩断章の欠片を渡すわけないでしょ」

佐和子はゆっくりと手を翳す。


「《異世界術式・浄化の滅針》

──あなたの内側から、精神干渉していた煩悩ごと浄化してあげるわ」


暖かい光がマーレの背中に宿り、静かに広がっていく

──欠片の黒い影が、光に溶けゆくように薄れ、

温かな波が彼女の体を包む。


「あああっ!」

マーレは背中に埋め込まれた断章片に手を伸ばしながら

石畳の路地を転がりまわる。


「巫女が心配しておりました。

元々、貴族令嬢らしからぬ、裏表のない明るい性格の方だったと」

ミュリアがそっとマーレの肩に手をあてる。


マーレは静かに泣いていた。


佐和子は日が沈むまで、広場に腰を掛け彼女が落ち着くのを待った

──セリアが隣に座り、ミュリアが手を握り、

光の残り香が皆の疲れを優しく癒す。


「ピルシアに会っていかないの?」

ゆっくりと立ち上がり、踵を返したマーレの背中に

佐和子は声を掛ける。


「後生を。合わせる顔もございません」

「私たちと一緒に行く? 行き先もないのでしょう?」


ミュリアが駆け寄って、再度マーレの手を取る。

「まだ、こんなに温かいじゃないですか。

心を冷ますのは、一番最後でいいのでは?」


「いえ、一箇所だけ行く所がございます」


「復讐は認めない」佐和子は毅然と断言した。


「では、行き先は母の墓標へ」

「それが宜しいと思います」

ミュリアは頷き、佐和子に向き直る。


「大公にダンジョン攻略の報告をされないと」

「不要。ロア・ヴェルディアは減点1」


「しかし、追っ手がかかるかもしれません」

「やってみたらいいよ」


「ひょっとして怒っていらっしゃいます?」

「わからない。胸が少し苦しい」


「では、私が代理で手紙をしたためておきます。

 ギルドから渡されるでしょう」


「リアステ帝国には魔道飛行艇が出ているって」

「はい」


「マーレも連れて行く」

「はい、もちろんです」


夕暮れの光に染まる広場で、三人の影が長く伸びる。

その影は、新たな旅路の始まりを、静かに告げていた


──リステアの空へ、向かう灯のように。


『踏襲少女』第2章で完結です。

次章リステア帝国編、構想中ですので


開始が決まり次第、活動報告にてお知らせいたします。


”いいね”、評価いただけると再開早まります!

ホノトダヨ…。

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