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煩悩108の異世界で、踏襲少女は紅茶とともに世界を救う  作者: ふりっぷ
第二章・ティレク連邦編

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《感覚干渉の魔王分体》 ― 虚視の少年と女神の断片

崩落した峡谷で、佐和子は“虚視の少年”と出会う。

彼は世界の裂け目を視る者。

そして、佐和子の“欠けた女神性”を映す最初の鏡だった──。

突如、響き始めた地鳴りに一同が素早く体制を立て直す。

砂埃が舞い上がり、息を詰まらせる熱風が肌を叩き、

視界を白く染める。


アントニオが良く通る大声で叫ぶ。

「ここは崩れるぞ! 自分の身を最優先しろ、脱出だっ!」


佐和子は崩れ落ちる岩を避けながら、

舌打ちして空間の揺らぎを感じ取った。


――この波長……あの“魔王分体”と同じだ。

埃の向こうで、光の残像が不気味に歪む。


やがて、轟音と共に天井が崩れ落ちる。

光が差し込み、世界が裂けた。


──ティレク連邦・B級侵食ダンジョン。

山岳の峡谷の一角が崩壊し、佐和子達は分断された。


「トロン達とマーレもいない」


まるで、世界そのものが“何かに引き裂かれた”かのようだった。

空気は重く、音は遠く、風は逆に流れている。


「……感覚が、歪んでる」佐和子は眉をひそめる。

視界の端で、微細な光の波紋がゆらめいた

──まるで、裂け目の予兆のように。


召喚されたユリハが崖の上にふわりと浮かび、

周囲を見渡す──その視線が、風に逆らうように止まる。

崩れた岩の上に、一人の少年が座っていた。


銀白の髪が風に揺れ、右目は深い青、左目は虚無の黒。

その瞳は、まるで“視覚の裂け目”そのものだった。


少年はゆっくりと顔を上げ、微笑む。

「冠を戴く者よ。君は、女神の片割れ

──いや、なり損ねか」


佐和子は一歩踏み出し、短く言い返す。

「……あんた、何者?」


少年の笑みは無垢だが、瞳の奥には冷たい光が宿っていた。

「とっくに知っているだろ。僕はノクス。

“感覚の残滓”。君の旅に、少しだけ色を添えに来た」


ユリハが下から水弾を放ちながら声をかける。

「佐和子様、……ただの人間じゃない」

弾が風でわずかに逸れ、ノクスの周囲で空気が揺らぐ。


崖の上で、ノクスは軽く笑った。

「これで、入口にいた黒印煩使団は全滅だ。

感謝してほしいよ」


「これだけの災害を起こして言うことはそれだけか?」

セリアは歯を喰いしばり、斧を構えて睨みつける。

「お前みたいなガキが、何様だよ!」


「心配には及ばず、マーレはさすがに逃げ延びた。

トロン王達も無事だ」


ミュリアが険しい目を向け、霊府を握りしめ霧を発生させる。

「さっちゃん、どうされます

……この場で戦うのは危険です、でも、放置もできません」

霧がノクスの影を捉えようとするが、影すら認識できない。


佐和子はしばらく無言でノクスを見つめた。

彼の放つ“存在の歪み”は、

以前本能の檻で感じた魔王分体で間違いない。


その光景は現実と幻想の境界が曖昧で、

心の奥底で何かを感じずにはいられなかった。


ノクスの言葉が再び、静かに空気を震わせた。

「ずいぶん女神の力を使いこなしている。

だが、世界を救済出来るほどではないねぇ」


「……軽口ね。あんたの言葉は、誰かの祈りを踏みにじる」

佐和子の瞳が、わずかに光を宿した。


ノクスはその光を見つめながら、微笑みを深める。

「僕は“魔王の分体”。本体の意志から、

ほんの少し外れただけの不具合さ」


その言葉に、セリアの指が一瞬で斧に触れる。

「敵ってことか」


「違うよ。僕はただ、世界の“見え方”を共有したいだけだ」

ノクスが右手をかざすと、

崩れた岩壁に青白い光の粒が浮かび上がった。


それは、まるで洞窟の内部構造を透かして見せる“視覚干渉”

──先程のB級ダンジョンの隣に

更に別のC級ダンジョンが露わになる。

奥に首都迄送る転移ゲートが、ぼんやりと浮かぶ。


佐和子はその光景に息をのむ。

「……ダンジョンの構造を、視る力?」


「正確には、“感覚を借りる力”だよ。

君の心が感じている未来の危険を、映しているだけ」


ユリハが頷き、警戒を緩めない。

「恐ろしい力……怖い」


佐和子は短くため息をついた。

「……分かった。付いて来なさい。

ただし、余計な真似は許さない」


ノクスは満足げに笑みを浮かべ、軽く頭を下げた。

「もちろん。君と戦わずに済んでよかった」


崖を降りた佐和子たちは、

ノクスを伴い、隣のダンジョンへと足を踏み入れた。


洞窟の内部は暗く、

先ほどの崖崩れの衝撃で足場が不安定になっている。

ノクスは満足げに笑みを浮かべ、軽く頭を下げた。


ユリハが周囲を警戒する中、

ノクスがふと立ち止まり、手を上げた。

「――ここに裂け目がある」


その瞬間、彼の左目が淡く光り、

足元の岩の間から青白い光が滲み出した。

それは、通常の視覚では見えない“空間の断裂”だった。


佐和子が息をのむ。

「なるほど……あなたの力、戦闘だけじゃないのね」


「視るということは、感じることだから」

ノクスは静かに言い、

まるで自分の言葉を確かめるように微笑んだ。


「君は、見たくない現実を見続ける旅をしている。

なら、その先にある“感覚”を、僕が映してあげよう」


洞窟の奥で、黒い影が蠢く。

かつてのC級ボスの残滓――煩悩断章だ。


セリアが叫ぶ。「来るっ!」


ノクスは片手をかざし、

影の輪郭を歪ませるように光を散らした。


“幻視”──敵の位置と姿を錯覚させ、

時間差で攻撃を逸らす視覚干渉。

影がノクスに向かうはずの爪を、空振りさせる。


「今だ、さっちゃん!」

セリアの声に応え、佐和子が黒槍を振るう。


青い閃光が闇を裂き、影は霧のように弾け飛んだ

──ノクスの光が、閃光を増幅するように輝き、

残滓を完全に蒸発させる。


ノクスは静かにその光景を見つめる。

その瞳には、哀しみとも、懐かしさともつかぬ色が宿っていた。

「……見事だね。やっぱり君は、冠を戴く者にふさわしい」


佐和子は振り返らずに答える。

「嫌味としか思えない。

 あなたが最初に倒していたからでしょ。

私は女神ではないし、貴方も魔王ではない」


ノクスの微笑みが、一瞬だけ消えた。


「今のがけ崩れで、黒印煩使団と関係ない人も大勢死んだ。

 あなたは殺し過ぎる」

その言葉に、洞窟の風が一気に冷たくなる。


「ティレク連邦は禁忌に手を出しすぎた。

分をわきまえないと、寿命を縮めることになる」


――ただでさえ、少ない惑星の寿命もね」


沈黙。光が逆流するように、洞窟の壁を照らす。


佐和子は拳を握り、静かに言った。

「……分かってる。でも、止まるわけにはいかない」


ノクスは一拍置き、微笑みを取り戻す。

「それでこそ私の女神だ」


青と黒の光が交錯し、崩れた地形の奥で、

二人の姿が照らされる。


「ギルドへの報告が終わったらリステア帝国においで」


「一緒には行かないのか?」


「まさか、《雄牛の角》と《黒印煩悩使団》を壊滅させた

僕をティレク連邦は決して許さないだろう」


「真相は闇の中か」


「ほら、ゲートが閉じてしまうよ。急ぐといい」

――この世界において、魔王も僕もいない方がいいのさ…


まるで、世界そのものの裂け目に“灯”がともる瞬間のようだった。

佐和子の瞳に、ノクスの影が映る。


──それは、最初の「継承刻印」の鏡として、静かに輝き始める。

だが、その影の奥で、何かが囁くように揺らめいた。


感覚の残滓・ノクスとの邂逅は、

佐和子にとって“継承”の始まり。

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